Vol.275-2 どんど焼きで世界は一つ、祈りも一つ


公益財団法人山梨総合研究所 元主任研究員  
NPO地域資料デジタル化研究会理事 井尻 俊之

1.小正月行事「どんど焼き」全国・世界調査の概要

 山梨県の冬の風物詩を代表する行事といえば「どんど焼き」がまず挙げられる。小正月の11415日にかけて、道祖神祭のクライマックスを告げる行事として、子どもたちが主役となって集落ごとに天を焦がすような盛大な焚き火どんど焼きが行われる。「どんど場(道祖神場)」に建てられるおやなぎさん、ぼんてんなどの飾り柱もまた冬の青空に映えて祭場に美しい彩りを添えている。
 ところが、県民の暮らしの中に根付く道祖神祭・どんど焼きであるが、その起源や小正月行事としての意味などが全くあいまいで、謎に包まれたままとなっていた。
 国語辞書や百科事典で「どんど焼き」を調べると、新年に行われる火祭り行事「左義長(さぎちょう)のことを言う」とされ、「平安時代に宮中で行われていた三毬杖(左義長)が起源である。三毬杖は清涼殿の東庭で、青竹を束ね立て、毬打3個を結び、これに扇子・短冊・吉書などを添え、謡いはやしつつ焼いた。どんど焼きとも呼ばれる」と書かれており、博物館などの学術機関でも左義長起源説が支持されている。
 しかし、この“宮中遊戯”が起源とする説明では、なぜどんど焼き行事は子どもたちを主役に集落をあげて住民が参加し、「五穀豊穣、商売繁盛、無病息災、家内安全、子孫繁栄」を住民が心を一つにして神火に祈るのかという疑問に対する答えになっていない。つまり、どんど焼きの本質を探ろうとする学術的研究はこれまで全くなされていなかったのである。
 そこで、特定非営利活動法人・地域資料デジタル化研究会(本部 笛吹市石和町東高橋、以下デジ研)は、上記の謎解きに挑戦するべく2003年(平成15年)、火祭り行事である「どんど焼き」を中心とした毎年の小正月行事をテーマとする「デジタル・キュレーション(=digital curation、デジタル資産の収集、整理・編集)」を開始した。
 具体的には、全国の新聞社・放送局など報道機関や自治体のWEB版に掲載された小正月行事火祭りなどの記事などを主な情報源として、データ収集と蓄積を毎年継続し、イベント・データのなかから事実関係を抽出、整理分析、保存するのである。これはセマンティック分析と呼ばれる手法で、全国のどんど焼き関連イベントの意味、属性を分析し、その比較分析により小正月火祭り行事の真の統合された全体像を明らかにする試みである。
 このキュレーション作業において、報道機関、公共機関などのニュース記事を主な情報資源とする理由は、原則5W1Hのフォーマットで作成され、編集段階でデータとしての内容の正確性も担保されているためである。
 どんど焼きに関する国内調査は年を重ねるにつれ、予想もつかない展開となった。2014(平成26)年調査により、世界の各地で日本のどんど焼きと類似した新年、新春を祝う火祭り行事が実施されていることが判明したのである。「小正月の火祭り行事は宮中行事左義長が起源である」という民俗学の常識が覆されたのである。
 デジ研は急遽(きゅうきょ)、調査範囲を海外の報道機関などのWEB版に拡大し、以降国際規模で「新年・新春を祝う火祭りと関連する行事の実施状況調査プロジェクト」として、令和3年の現在も調査研究を継続するとともに、約20年分の世界規模の分析データと分析考察ドキュメントを、デジ研のアーカイブサイト「甲斐之庫(かいのくら)」において、電子記録として保存、ネット公開している。
 デジ研の調査の範囲内では、日本全都道府県及び海外の新年、新春を迎える火祭り行事、並びに関連行事に関する詳細な実施状況の調査集計は世界で初めてであり、またインターネットで公開されたのも初めてであり、このことは世界に新たな知見を提供する非営利活動として意義のあることと考えている。
 収集された行事データは2021(令和3)年1月の時点で約680件(内訳 日本国内600件、国外80件)となり、「地域、実施日、名称、場所、参加者、実施内容、趣旨、起源」の属性別に分析・抽出し、表形式で比較した。

 

【どんど焼きで世界は一つにつながっている。Google画像検索による世界各国の新春火祭りの類似】

◆日本の小正月どんど焼きのイメージ

 

◆韓国の小正月タルジプ焼きのイメージ(満月画像は「満月の夜の火祭り」を意味している)

 

◆イランの新春火祭りチャハールシャンベ・スーリーのイメージ

 

◆インドの新年火祭りローリのイメージ

 

◆イタリアの新春火祭りピニャルルのイメージ

 

◆英国の新春火祭りベルテーンのイメージ

 

 

2.どんど焼きは日本の国民行事、ユーラシア大陸共有の民衆文化行事

(1)小正月火祭り行事は国内の全都道府県で実施

 デジタル・キュレーションにより、小正月行事について、全国規模の事象比較が初めて可能となり、日本国内の詳細な実施状況を一覧表にまとめることができた。
 集計結果の分析により、小正月の火祭り行事は、北海道から沖縄まで国内の全都道府県で集落を単位として実施されており、デジ研は「日本の国民的行事である」と判定した。またその名称は、北海道から沖縄まで、ほぼ全国共通で「どんど焼き」と呼ばれている。しかし、地域によっては、関西、中国で「とんど焼き」、京都、滋賀、岐阜、愛知、北陸周辺で「左義長」、東北では「どんと焼き」、長野、山梨、群馬、埼玉、神奈川では「道祖神祭」、九州では「鬼火焚き」、「ほんけんぎょう」などと呼ばれている。
 日本のどんど焼きは11415日を中心に全国各地、集落単位で火祭り行事が行われ、神火による浄化の力で集落の人々の1年間の災いを払い、この一年の豊作や商売繁盛、家内安全、無病息災、子孫繁栄を祈願している。
 祭事では青竹を柱に藁(わら)や杉、檜(ひのき)、松などの枝で小屋を作ったり、円錐(えんすい)状に積み上げてやぐらを作ったりして、住民が持ち寄った門松、しめ縄などの正月飾りやダルマなどの縁起物を一緒に燃やすのが共通している。「どんどの火で高く舞い上がれば習字が上達する」と言って、書初めを一緒に燃やす風習も全国各地にみられる。

 

(2)小正月行事の主役は子どもたち

 全国的に小正月行事の主役は、中学生以下の子どもたちが担っていることが通例となっている。子どもたちは、神の使いとなって「どんど焼き」をクライマックスとする、この年の招福、予祝、厄払いなどの一連の行事を担っている。
 どんど焼きに関連する行事は全国で繭玉だんご作り、もち花づくりが共通して行われている。それ以外にも、地域によって、火振り、地蔵ころがし、梵天飾り、おこもり、嫁つつき、鳥追い歌、成木責め、獅子舞、御神木立てなど様々な風習があり、子どもたちが中心となって、それぞれの集落のこの一年の招福、厄払いを行っている。
 全国の地域コミュニティでは、子どもと大人が小正月行事の開催のために役割分担がなされており、行事を通じて子どもたちは地域コミュニティへの帰属意識と誇りを培う機会となっている。また小正月行事を通じて、地域の人々の結びつきや世代を超えた老若男女の住民が相互理解と交流を深めていることは特記すべき事項である。
 どんど焼きでは食べ物の楽しみが重要である。神火の炎が収まったところで、繭玉だんご、餅、あるいはみかん、漁村ではスルメ、コンブ、九州ではサツマイモなどを木の枝や竹竿に巻き付けた針金の先に刺して、真っ赤になった熾(お)き火で焼いて食べると「風邪をひかない、この一年を健康で過ごせる」という風習も全国各地でほぼ共通している。
 特にどんど焼きの火で繭玉だんごを焼いて食べる風習は、農家に換金収入をもたらす養蚕と緊密に結びついたもので「養蚕大当たり」と「家族の無病息災」の祈りが結合している。

 

(3)どんど焼きは、ユーラシア大陸共通の新年・新春を祝う民俗行事

 さらに、国際調査によって、どんど焼きなどの一連の小正月行事は、日本独自の民俗行事ではなく、韓国、インド、イランなどアジア、イタリア、英国、スウェーデンなどヨーロッパのユーラシア大陸各地の集落で、同じ時期に類似の民俗火祭り行事が行われていることが明らかになった。すなわち、本調査により、小正月行事「どんど焼き」は住民生活の基礎的な地域単位である「集落」を基盤とする日本の国民的行事であるばかりでなく、新春を迎える火祭り行事として「ユーラシア大陸共通の新年・新春を祝う民俗文化行事」であることが実証データにより確認できた。
 特に、韓国では、日本の一連の小正月行事ならびにどんど焼きと類似の集落農耕儀礼である「テボルム・タルジプ焼き」が国民行事として行われていることが確認できた。興味深いのはテボルムが旧暦小正月に行われる獅子舞、綱引き、竿立て、虫追い火振りなど一連の行事であり、クライマックスに「新春の初めての満月の夜の火祭り」としてタルジプ焼きが行われる。韓国各地で人々は一年の豊穣と健康、幸せを神火と満月に祈っている。日本の江戸時代に行われていた小正月火祭りどんど焼きの形態は、現在のタルジプ焼きと類似の形態で行われていたと思われる。ただし、韓国の小正月行事が日本に伝来したかどうかについては、今のところ不明である。
 また、イタリアの新年農耕儀礼の火祭り「エピファニー・ピニャルル」では、焚き火を燃やしてこの一年の豊穣を光の神・火の神に祈願している。さらに英国の「インボルグ火祭り」「ベルテーン火祭り」、スウェーデンの新春祝祭「ヴァルボリ焼き」では、燃え上がる「焚き火」に、この一年の健康や幸せを祈願している。同様に寒い国であるロシアでも新春祝祭として「マスレニツァ」が行われ、人々は木の枝を積んだやぐらに「冬の案山子」を載せて燃やし、冬の終わりと春の到来を祝っている。
 暑い国のイランなど中央アジアでも春分を元日とする祝祭「ノウルーズ」(古代ササン朝ペルシャ文化が起源とされる)の「チャハールシャンベ・スーリー」では焚き火に一年の健康を祈願し、インドの新年祝祭ローリ祭りでは、パンジャブ州ほか全国各地で盛大な焚き火で、小麦の豊作祈願と寒い冬の終わり、そして新年と春(夏)の到来を祝い、一年の幸福を祈願していることが分かった。

 

3.どんど焼きは、年初の満月と神火に一年の幸せを祈る春の祭典

 調査結果によると、日本の小正月行事どんど焼きは本来、旧暦の小正月(立春後の最初の満月の夜)に行われていた。すなわち、どんど焼きとはその年の最初の満月、そして神火に1年の幸せを祈る「新春の夜の祭典」だった。世界各地の新春の到来を祝う火祭り行事でも、人々が共通して、この一年の「五穀豊穣・豊作・豊漁」「商売繁盛」「家内安全」「無病息災」「子孫繁栄」などを共通して祈願していることが確認できた。
 日本では明治政府の改暦政策により、季節のめぐりに合わせて行われていた年中行事を強制的に新暦に前倒し移行してしまったため、本来は立春とともにやってきた正月や小正月行事が厳寒期のなかで行われ、本来の行事の趣旨が損なわれてしまい、日本人の季節感を奪ってしまっていることは重要な調査結果である。(それでも国民は年賀状に「賀春」「迎春」と書き、過去の立春正月の記憶を大切にしている)
 この春の夜の火祭りの祈願を分析すると

  • この年のコミュニティの繁栄(集落の豊作豊漁、商売繁盛と防災)
  • この一年の住民の健康(無病息災、家内安全)
  • コミュニティの明日を担う生命の再生(集落の子孫繁栄)
    という三つの重層的な祈りが捧げられていることが明らかになった。

 つまり、新春を迎える火祭り行事の本質は、新しい年の始まりにあたって、自分たちの集落そして子孫の持続可能な繁栄への切実な祈りを捧げることにある。本来、これらの祈りは新年最初の満月と神火に捧げることに意義があったのである。
 本調査では2016(平成28)年版において、日本の小正月行事の現代的な意義付けをこめて、「小正月行事は地域住民が集落の持続可能な発展を願い、コミュニティの繁栄と生命の再生への祈りを儀礼化した地域文化遺産」と定義した。この定義により、日本の小正月行事は国連が提唱する「SDGs(=エスディージーズ、持続可能な開発目標)」のシンボル行事となる可能性が大きいことが分かった。

 

4.どんど焼きは国連SDGsを先取りした“世界民俗文化遺産”

(1)国連「持続可能な開発のための2030アジェンダ」がノウルーズを祝う

 本調査では、日本をはじめ世界各地の新春を迎える火祭り行事は、国連が推進する「持続可能な開発のための2030アジェンダ(持続可能な開発目標SDGsを記載)」と大きな関連があることを明らかにした。
 2016321日、国際ノウルーズ・デーの日、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」最初の年にあたり、イランなど中央アジア各国の春分元日の新年行事である「ノウルーズ」に関連付けて次のように声明を発表した。
 「『持続可能な開発のための2030アジェンダ』最初の年にあたって、国連は、古代からの伝統であり、現代的な関連性がある『ノウルーズ』を祝います。ノウルーズは、よりよい未来への集団の旅に誰一人取り残さないという国際社会の決意を強化するための機会となるものです。」(出典:United Nations News Centre公式サイト)
 2030アジェンダ(SDGs)に先立って、国連総会は2010年に「ノウルーズ国際デー」を正式に承認している。総会では、ノウルーズは、世代間や家族間の相互尊重と平和と連帯、良好な隣人関係の理想に基づいて、文化的な多様性と人々や異なるコミュニティ間の絆を強化する上で重要な役割を果たしている、と評価したうえで、「ノウルーズを祝うということは、自然と調和した生命の肯定、建設的な労働と自然の再生サイクルとの間の不可分の関係の認識、そして自然の生命の源に対する配慮と敬意のある態度を意味する」と認定した。総会決議では「希望と生命の再生」という、ノウルーズのメッセージを世界に拡大すべきとしている。

 

(2)日本のどんど焼きをSDGsの“シンボル行事”に

 上記の国連の潘基文事務総長が「ノウルーズ」に寄せた声明は、日本のどんど焼きに込められた祈りが持つ本質的な意味について、重要な示唆をもたらしている。
 本会の国際調査では、日本の小正月行事そして世界の新春を迎える火祭り行事は、国連総会が認定したノウルーズと同じ「平和と連帯、そして和解と隣人愛という価値観」「希望と生命の再生へのメッセージ」を共有していることが明らかである。
 その観点からみると、国連総会がノウルーズをSDGsの“シンボル行事とするのであれば、日本の小正月火祭り行事そして世界の新春火祭り行事は、同じ価値を持った「国連SDGsの趣旨を先取りした古代からの伝統である世界民俗文化遺産」ということができる。
 以上の調査結果により、山梨の、そして日本のどんど焼きは、閉ざされた田舎の土俗の風習でなく、時代の最先端にある。世界各国の人々が、ともに持続可能な社会への祈りを共有し、さらに行事を通じて世界の人々が文化的な多様性と人々や異なるコミュニティ間の絆を強化する機会であることを確認し、ともに祝うことが、世界平和にもつながる道である。それがどんど焼きの現代的な意義であると言える。

 

5.どんど焼きに人類和解へ解決の糸口

 以上の調査結果は私たちの当初の想像を超える驚くべきものとなった。日本国内の山深い里の閉ざされた独自の民俗行事だと思われていたことが、実は海を越えて、ユーラシア大陸各地の民俗行事と共通の「こころとかたち」をもって共有されているということを意味している。
 さらに、現代のテロと暴力、不寛容に満ちた世界情勢のなかで、世界の人々が、国家、民族、宗教の壁を越えて、新年新春の火祭り行事を通じて、「地域コミュニティの繁栄と生命の再生、そして平和と幸福の祈り」を潜在的な共通価値として共有している。
 どんど焼きで確認されたのは「DONDOYAKI One World One Prayer(どんど焼きで世界は一つ、祈りも一つ)」というテーマである。「どうか、ずっと豊かで平和な世の中が続きますように。みんなが幸せでありますように」-それが世界のどんど焼き火祭りの共通の祈りである。祈りを通じて世界は一つにつながっている。このことは、「世界のどんど焼きの祈りにこそ、国家、民族、宗教の壁を越えて、人類の和解へ解決の糸口が見つかる可能性がある」ことを意味している。
 デジ研では、この調査結果が日本そして世界の民俗文化研究の新たな議論を巻き起こすための基礎データとして活用されるよう希望し、すべてのデータをネット公開している。

※小正月行事「どんど焼き」の全国・国際調査集計(令和3年版)
https://archive.digi-ken.org/koshogatu.html

 

6.小正月行事をESD教材とするプランの提案

 「小正月行事どんど焼き」は現在の教育現場で課題となっている「ESDEducation for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)」を最も具現化した地域教材ととらえることができる。
 小正月行事の主役は小中学生であり、日本全国で共通している。つまりコミュニティにおける子どもたち自身の活動がそのまま教材である。
 毎年、自分たちが先輩たちから継承し、実践している身近な地域の伝統文化行事を(1)科学的に調査分析し、記録に残し、行事に込められた意味、願い、祈りを知る (2)自分たちの地域行事を国内、世界の類似行事と比較するーという二つの学習活動を行うことが教材化の手順でもある。
 デジ研の「小正月行事どんど焼きの国内、世界調査」は、以上の調査学習のために基礎データを無償提供している。「世界の人々は平和と豊穣を求める一つの祈りでつながっていること」。子どもたちがその理解に到達すれば、持続可能な開発のために何が大切であるかを学ぶばかりでなく、人類のための平和教育にとって最高の地域教材と言えるだろう。
 人類が民族や国境の壁を超えて、一つの祈りでつながっているのに、なぜ人々は争い、殺しあうのか。子どもたちは、自分たちの身近な伝統行事をみつめながら、その根源的な答えに近づいていくことができるだろう。

【デジ研では、学校教育における小正月行事の教材化プランを作成して無償公開しておりますので、ご利用ください。教材化プランのPDF文書はこちらからダウンロードできます。】
https://archive.digi-ken.org/koshogatukyozai.pdf