Vol.276-2 公務員における副業・兼業の可能性を考える


公益財団法人 山梨総合研究所
研究員 清水 洋介

1.はじめに

 近年、少子高齢化や情報化、グローバル化といった社会の変容とともに、人々のライフスタイルや価値観が多様化してきている。その変化に対応する形で様々な政策が打ち出される中、政府は働き方改革の一環として、副業・兼業の促進を図っている。
 政府の動きを受け、民間企業の間では副業・兼業が認められるようになってきているが、公務員の副業・兼業は、法律により制限されており、認められていないケースがほとんどである。副業・兼業を行うという申請を任命権者等に行うことで、認められる場合もあるが、その基準は明確にされていないことが多い。関連する最近の事例では、都立高校の教員がSNS上で公開していた男性の育児参加を促す漫画を出版しようと、都の教育委員会に「兼業」という形で申請をしたところ、明確な理由が示されないまま不許可にされたというケースも報道されている。
 少子高齢化社会の進行により、地域の様々な担い手不足が問題とされている中で、公務員もボランティアではなく副業・兼業という形で持続的に地域づくりや地域課題の解決に関わることができるのではないだろうか。本稿では、これからの時代における公務員の副業・兼業の可能性について、考察をしていきたいと思う。

 

2.民間における副業・兼業の動向

(1)国の方針

 2018年、政府は「働き方改革実行計画」(平成29328日 働き方改革実現会議決定)で、柔軟な働き方として副業・兼業の普及促進が示されたことを踏まえ、厚生労働省が作成する就業規則モデルから、副業・兼業を原則禁止とする規定を削除した。この就業規則モデルは日本の多くの企業が参考としていることから、このことは実質的な「副業解禁」と言われている。また、これに合わせて、企業が副業・兼業に関するルールを明確化するための「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成し、副業・兼業の促進を図っている。

 

(2)民間の状況

 総務省が5年に一度行っている「就業構造基本調査」のデータを見ると、民間における副業者比率(有業者に占める副業がある者の割合)は、2002年から2017年までほぼ横ばいだが、追加就業希望者比率(有業者に占める追加就業希望者[1]の割合)は増加傾向にある。特に、正規の職員・従業員において、追加就業希望者比率は2002年の3.8%から2017年には5.4%となっており、非正規の職員・従業員よりも伸び率が高くなっている。

出典:総務省「就業構造基本調査」

図表 1 副業者と追加就業希望者の動向

 

 また、副業を行う理由について厚生労働省が20207月に行った調査では、「収入を増やしたいから」が最も多く、次いで「1つの仕事だけでは収入が少なすぎて生活自体が出来ないから」となっており、経済的な理由が目立つものとなっている。それらに次いで多くなっているのが「自分で活躍できる場を広げたいから」、「様々な分野の人とつながりができるから」などとなっており、自己実現やキャリアアップという面で、副業を行うという考えがあることも窺える。

出典:厚生労働省「副業・兼業に関する労働者調査」
(厚生労働省 第132回労働政策審議会安全衛生分科会資料「副業・兼業に係る実態把握の内容等について」より)

図表 2 副業をしている理由

 一方、副業に関する企業側の方針について、帝国データバンクが20212月に行った調査では、副業を『認めている(「積極的に認めている」、「やむを得ず認めている」の合計)』とする企業は、18.1%となった。20172月の同調査と比べると、7.7ポイント上昇しており、副業を認める企業が増加傾向にあることが分かるものの、未だ2割弱に留まっている。企業規模別にみると、大企業においては『認めている』割合が最も低く、また、「現在、認めておらず、今後も認めない」とする割合が最も高くなっており、企業規模が大きいほど、副業に対し慎重であることが窺える。
 これらのことから、先述した労働者側の状況において、副業のニーズが高まっているものの、実際に副業を行っている人が増えていないのは、企業側の理解や制度設計が進んでいないことにあると推察される。

出典:帝国データバンク「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2021年2月)」

図表 3 副業・兼業の導入状況

 

出典:帝国データバンク「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2021年2月)」

図表 4 副業・兼業の導入状況(企業規模別)

 

3.公務員における副業・兼業の動向

(1)公務員制度における副業・兼業の扱い

 公務員の副業・兼業に関しては、民間とは大きく異なっており、法律上で制限が設けられている。国家公務員法の該当条文については以下のとおり。

<国家公務員法>

(私企業からの隔離)
103条 職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。
2項 前項の規定は、人事院規則の定めるところにより、所轄庁の長の申出により人事院の承認を得た場合には、これを適用しない。
(以下、省略)

(他の事業又は事務の関与制限)
104条 職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。

  国家公務員の兼業に関して、人事院が公表している「義務違反防止ハンドブック」[2]によると、国家公務員法第103条では、以下のとおり「役員兼業」と「自営兼業」の2種類を制限している。 

  • 「役員兼業」の制限…営利企業の取締役、監査役、理事等となることについて、報酬の有無を問わず、名義のみであったとしても原則禁止。なお、人事院の承認を得た場合は可能。
  • 「自営兼業」の制限…商業、工業、農業等を自ら営むことについて、役員兼業と同様に原則禁止。なお、不動産賃貸や太陽光発電による電気の販売、農業等については、一定の基準を満たし、所轄庁の長等の承認を得た場合には、自営兼業を行うことができるとされている。 

 また、同法第104条は、同法第103条が制限する「役員兼業」や「自営兼業」以外の、あらゆる兼業を制限している。ここでいう兼業については、労働の対価として報酬を得ること、定期的又は継続的に従事するものが該当するとされており、これを行う場合には許可が必要となる。
 なお、国家公務員の兼業に関しては、国の「未来投資戦略2018」において、「公益的活動等を行うための兼業に関し、円滑な制度運用を図るための環境整備を進める」と明記されたことをうけ、20193月に内閣官房から通知[3]が発出され、兼業先の基準や兼業時間数、報酬の基準が明確化された。この基準において、兼業先は独立行政法人や国立大学法人、特定非営利活動法人等の非営利団体に限定されている。

 次に、地方公務員法では、以下のとおり定められている。

<地方公務員法>
(営利企業等の従事制限)
38条 職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下この項及び次条第一項において「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。ただし、非常勤職員(短時間勤務の職を占める職員及び第二十二条の二第一項第二号に掲げる職員を除く。)については、この限りでない。

2項 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。

  地方公務員法第38条では、国家公務員法と同様に報酬のある兼業を行うことを制限しており、報酬を受けて兼業を行うためには任命権者による許可が必要となる。その許可基準については、各自治体によって個別に定められているところである。

 

(2)全国の自治体における状況

 地方公務員の兼業の状況について、2019年に総務省が行った調査[4]では、兼業の許可基準を設定している自治体は、全体で約4割(1,788団体中703団体)となっている。都道府県では8割(47団体中40団体)を超える団体で許可基準を設定しているが、市区町村では4割弱(1,721団体中646団体)となっており、市区町村での整備が進んでいない。また、設定されている基準の内容は、本来、地域のニーズや各団体の実情に即したものであることが望ましいが、現状では国基準で定めているところがほとんどであり、独自で定めている団体は2割弱(703団体中110団体)に留まっている。
 兼業の許可件数は、2018年度の実績で41,669件、その内、社会貢献活動が3割弱(11,506件)となっている。201941日時点の全国の地方公務員数(地方公共団体の職員数)は約246万人で、1人あたり1件の許可件数と仮定すると、兼業の許可を受けたのは全体の1.7%、社会貢献活動においては0.5%と、兼業を行っている者はごく一部であることが分かる。

出典:総務省 第32次地方制度調査会第26回専門小委員会資料「地方公務員の社会貢献活動に関する兼業について」

図表 5 自治体の兼業許可の状況

 

(3)自治体における先進事例

 先述した全国の自治体における兼業許可の状況のとおり、公務員の副業・兼業は浸透してきているとは言えないのが現実である。そのような中でも、公務員の副業・兼業を奨励し、地域貢献に生かしている代表的な自治体として、神戸市と生駒市がある。 

①神戸市(兵庫県)

 神戸市では20174月より「地域貢献応援制度」という、職員の副業・兼業許可に関する独自の運用制度を全国に先駆けて導入した。制度の対象となる活動は、『報酬等を得て行い、公益性の高い継続的な地域貢献活動』、『社会的課題の解決を目的として、神戸市内外を問わず地域の発展・活性化に寄与する活動』とされている。
 制度導入の背景として、地域の団体やNPOなどにおいて高齢化に伴う担い手不足が進む中で、自治体がどのようにして地域の活性化にアプローチしていくかが課題となっていた。そのような状況において、一公務員であり一市民でもある市の職員が、積極的かつ安心して地域の活動に参加していけるようにと制度設計が行われた。
 報酬や活動時間などの許可要件や兼業許可に関する手続きなど、制度の具体的な内容を明確にし、それを内外に公表することで、兼業許可に関する公平性・透明性・予測可能性を担保するとともに、職員の地域活動への参画を促進しており、全国的に見ても先進的な事例と言えるだろう。
 現在、この制度を利用して、NPO法人による須磨海岸での障害者支援活動や、子育て中の母親と地域をつなぐ活動などが行われている。また、制度を利用した職員の声が市のHP[5]で公開されており、そこには、「自身にとっても大きなスキルアップになった」という声が掲載されている。

 

②生駒市(奈良県)

 生駒市は、神戸市が制度運用を始めた4カ月後の20178月から職員の副業・兼業に関する基準を定め、副業制度を運用している。対象となる活動は『公益性が高く、継続的に行う地域貢献活動であって、報酬を伴うもの』、『市内外の地域の発展、活性化に寄与する活動であること』とされている。
 基準を定めた背景としては、少子高齢化時代にある中、持続可能なまちづくりを進めるためには、市民と行政が協働しながら地域課題を解決していくことが必要であると考えられる一方で、公務員という職業柄から報酬等の受け取りについて明文化されておらず、職員が地域貢献活動に参加することを妨げる一因となっていたことから、基準を明確化することで、行政と市民との協働によるまちづくりの活発化を狙ったものとなっている。
 現在、この制度を利用して、NPO法人に参加して小学校に出前授業を行ったり、地域の学校の部活動や少年サッカーを指導したりする活動などが行われている。神戸市の事例と同様に、活動している職員の声がHP[6]で公開されており、活動していてよかった点として「異業種の方と知り合い接することから得られる知識などを本業に生かせることができますし、アイデアの幅も広がりました。」という、副業を通して自身が成長・スキルアップしたという声が掲載されている。

  

4.公務員における副業・兼業の在り方

 民間における「副業解禁」、国家公務員における兼業基準の明確化、自治体における先進的な取り組み等により、今後公務員における副業・兼業を推進する動きが拡大していく可能性がある。実際、神戸市や生駒市の事例を参考として、兼業の許可基準を定めた自治体も出てきている。また、令和21月には総務省から、職員の兼業について、詳細かつ具体的な許可基準を設定し、公表すべきとの通知[7]が全国の自治体に対し発出されたところであり、許可基準を定める自治体は増加していくだろう。しかし、許可基準を定めただけでは、自治体職員への浸透は難しい。ここでは公務員における副業・兼業の在り方に関し、筆者の考えを述べていきたい。
 まず、自治体が公務員の副業・兼業を推進する意義は何かと考えてみると、地域の担い手不足が問題とされている中、自治体職員が副業・兼業によりプレイヤーとして地域の取り組みに参加することで、地域活性化に寄与できるところにあると考えられる。また、神戸市や生駒市の事例で紹介した職員の声のように、職員個人にとっても副業・兼業を通じた地域とのつながりやスキルアップなどのメリットがあり、自治体にとっても人材育成という面でメリットが見込まれることから、より多様な経験や人とのつながりが得られるような副業・兼業が認められるようになることが望ましい。
 ただ、現状、公務員の副業・兼業で認められているケースは、自営の農業や講演・執筆活動を除くと、有償ボランティア的な活動や非営利団体による地域貢献活動が大半となっており、実質的に許可対象が非営利活動に限定されているのが実情である。国家公務員法や地方公務員法上では、株式会社など営利企業への従事について許可することは可能であるものの、公務員が一部の奉仕者ではなく全体の奉仕者であると日本国憲法で示されているため、自治体がどこまでの範囲を副業・兼業として許可するかの判断が難しいことが、許可対象の拡大に踏み込めない大きな要因として挙げられる。また、「公務員の副業・兼業=法律違反」という固定観念が強い日本においては、自治体内でも副業・兼業に対する否定的な意見が一定程度見受けられるなど捉え方が様々であり、合意形成が困難であることも要因として考えられる。
 このような状況の中で、より多様な副業・兼業を自治体職員に浸透させていくためには、各自治体内での副業・兼業の位置付けや制度、意義を整理し、それを職員が理解することにより、「公務員の副業・兼業=法律違反」という固定観念を払しょくしなければならない。また、どこまでを許可するかという基準については、そもそも公務員における副業・兼業の事例が少ないため、当初から綿密な制度設計を行うことは困難である。そのため、まずは職員がチャレンジしやすいように緩やかな制度設計から始め、短期間の試行により実践を積み重ねながら、基準をブラッシュアップしていくというスタンスが必要となってくる。こうしたスタンスで制度を運用することで、多様な副業・兼業にチャレンジできるような環境が整備され、例えば、社会課題の解決を目的とするソーシャルビジネスのような公益性が高い営利的な取り組みを許可対象とするといったことも考えられるようになってくるだろう。

 

5.おわりに

 筆者は自治体からの派遣という形で山梨総合研究所の調査研究業務に従事しており、本稿の執筆時点で、派遣開始から13カ月余りが経過した。その間、業務における様々なスキルや知識を学んだり、行政とは違う立場で地域の人々と関わったりすることで、自治体職員として働いているだけでは見えなかった地域の姿を見ることができ、自治体職員の自分にとって非常に重要な経験だと感じている。そして、こういった経験は、副業・兼業という形でも得られるものではないかと考えている。
 民間において副業・兼業がポジティブに受け取られるようになってきた中で、自治体においても職員が地域と関わるための仕組みの一つとして、また、これからの時代における公務員の新しい働き方の一つとして、副業・兼業が活用されていくことに期待したい。


[1] 現在就いている仕事を続けながら,他の仕事もしたいと思っている者をいう。

[2] 人事院「義務違反防止ハンドブック -服務規律の保持のために-」(2021年3月発行)

[3] 平成31年3月28日付閣人人第225号「『職員の兼業の許可について』に定める許可基準に関する事項について」

[4] 総務省「営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する実態調査」(2019年4月1日時点)

[5] 神戸市HP:https://www.city.kobe.lg.jp/information/shokuinsaiyou/saiyou/kobenavi/system/interview04.html

[6] 生駒市HP:https://www.city.ikoma.lg.jp/0000010732.html

[7] 令和2年1月10日付総行公第1号「『営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する調査(勤務条件に関する附帯調査)』の結果等について」