Vol.277-1 山梨県内の高齢者に見る慢性疼痛と疲労要因の男女比較について


健康科学大学 健康科学部作業療法学科
准教授 志茂 聡

1.はじめに

 ここ数十年、世界的に平均寿命が急激に延びており、2014年の世界平均寿命は約70歳(1990年比6歳増)、先進国では約80歳に達しています(20世紀初頭の先進国では約50歳)[1]。世界保健機関(World Health Organization)の未来予測では、世界の60歳以上の人口6億人(2000年)が、2050年には約20億人に増加すると予想されています[2]。山梨県内をみても、2021年での高齢者人口は男性110,802人(構成比44%)、女性141,265人(構成比56%)と増加傾向です[3]。また、2021年での山梨県の高齢化率(65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合)は30.8%であり、全国の高齢化率(28.9%)と比べて1.9ポイントも高くなっています。さらに、2006年以降、山梨県内の75歳以上の後期高齢者数が前期高齢者数を上回っており、全国に比べて急激に高齢化が進むことが予想されています。したがって、今後の持続可能(Sustainable=サスティナブル)な社会の実現のための取り組みとして、高齢者の健康維持とともに経済活動を含む積極的な社会活動への参加がより一層重要となってきます。本稿では、超高齢社会への取り組みと課題とともに、高齢者の慢性疼痛(とうつう)と疲労を主とする身体特性に関連する因子についての調査結果および健康福祉サービスの今後について述べたいと思います。

 

2.超高齢社会への取り組みと課題

 超高齢社会への取り組みとして、日本を含む先進国では高齢者のあり方について従来の概念を見直し、人生100年時代の新たなキャリア形成の促進(ワーク・ライフ・バランス)やリカレント教育(教育・就業の継続=人事採用の多元化)あるいは役割創造など、革新的な方法での社会システムの再構築が進められています[4]。超高齢社会では、高齢者の経済活動を含む社会活動への参加が強く求められており、高齢者が各々の社会システムの中で適応するために必要となる、身体機能および精神機能および能力を明らかにする必要があります。しかし、これらの前提となる、高齢者の身体機能および精神機能に対する調査研究および考察が十分なされていないのが現在の課題となっています。今までの研究では、65歳以上の高齢者で筋骨格系の痛みや身体障害を訴える人の割合は高いことが、いくつか報告されていますが[5]、高齢者における慢性疼痛の疫学については、慢性疼痛の有病率や性別などの他の変数との関係が地域によって異なるため、確固たる結論はまだ得られていないのが現状です[6]。山梨県内の状況を見ても、高齢者の慢性疼痛と身体活動との関係についての調査はほとんどされておらず、男女間での比較も含めて明らかになっていないことが課題となっています[7][8][9][10]

 

3.高齢者の男女間での身体特性の違いと要因

 男女間での身体特性に対する研究がこれまでいくつか報告されています。中村らによる、健康診断を受けた幅広い年代の方を対象とした調査では、女性は男性に比べて機能的能力が相対的に低いが、老化速度は男性よりも遅いことが示されています[11]。また、Yuらによる自動車事故後の首、肩、背中の慢性疼痛の発症を調査した研究では、女性は男性に比べて血流中の一連のRNA(リボ核酸)分子が上昇しやすいことを明らかにしています[12]。さらに、マウスを用いた研究では、痛みを過敏に感じる経路が雌雄で著しく異なっており、不快感をもたらす免疫細胞の種類も性差により異なっていることが明らかになってきています[13]。これらの研究結果をみても、高齢者の男女間で老化や慢性疼痛に対する特性や反応が異なることが示唆されます。しかし、長寿(平均寿命)や罹患(りかん)率が高齢者の男女間で異なる生物学的要因については、まだ不明な点が多く残っています。一方、高齢者の慢性疼痛に影響を与える社会的要因について調べた欧米の研究報告によると、移民であることや社会的に問題のある住宅地に住んでいることが、痛みに影響を与えていることが示されています[14][15]。しかし、社会保障制度が充実している日本では、高齢者の男女の慢性疼痛に影響を与える要因の解明についても、いまだ十分に解明されていません。

 

4.高齢者の男女間での慢性疼痛に関連する因子についての調査

 現在、日本は世界一の長寿国であり、2050年には平均寿命が男性で84歳、女性で90歳を超えると予想されています[16]。超高齢化が世界的な課題となっている中、高齢者の男女における慢性疼痛に関連する要因を理解することは、Sustainable(持続可能)な社会実現のための鍵となると考えます[17]
 このため私たちは、高齢者の男女間での慢性疼痛の保有率・痛みの強さ・痛みの部位の違いなどを明らかにするとともに、高齢者の主要な外出機会となる仕事や趣味活動と、慢性疼痛・疲労などの身体症状との関連性について調査・検討を行いました。
 我々は、2014年11月から2015年10月の期間で、山梨県内で自宅生活をされている65歳以上の男女(男性36人、女性75人、計111人)を対象に慢性疼痛と疲労の有無と日常生活動作、仕事、趣味活動の関連を調査しました。その結果、高齢女性では、慢性疼痛の割合が78%と高齢男性の61%に比べて非常に高いことが分かりました(図1)。さらに、高齢女性では腰の痛み(32%)とともに膝(28%)や肩(23%)など複数の部位に痛みを持つ人が多いことが分かりました(図2)。

図1:高齢女性は慢性疼痛を持つ割合が多い

図2:高齢女性では、膝に痛みを持つ人が多い

 一方、高齢男性の日中の仕事では、農作業(69%)をしている人が非常に多いことが分かりました(図3)。さらに、大変興味深いことに、高齢男性では慢性疼痛の強さと「趣味活動の制限」の間で正の相関(rs = 0.643、p = 0.05)を示し(表1)、疲労の強さと「仕事の制限」との間で正の相関(rs = 0.531、p = 0.01)を示しました(表2)。一方、高齢女性では、高齢男性に比べて慢性疼痛および疲労ともに低い相関となりました。これらの結果から、高齢者では男女間で慢性疼痛と疲労に影響を与える要因に濃淡があることが分かりました。

 

図3:高齢男性では約70%の人が日中農作業をしている

 

表1:高齢男性では慢性疼痛が趣味活動の制限と正の相関を示した

 

表2:高齢男性では疲労が仕事の制限と正の相関を示した

 

 高齢男性では、慢性疼痛の軽減が趣味活動の拡大に繋(つな)がる可能性があることが明らかになりました。また、高齢男性では疲労の軽減が仕事の改善に繋がる可能性が示唆されました。現在、高齢者に対する健康増進の取り組みは運動教室が中心ですが、今後は性別による痛みの特性や日中の活動を考慮した「テーラーメード・リハビリテーション」を公衆衛生政策に導入していくことが、持続可能な社会に大きな役割を果たすと考えられます。

 

5.山梨県における健康福祉サービスの今後

 都道府県別の健康寿命をみると、山梨県は男性が2013年1位、2016年1位、女性が2013年1位、2016年3位となっており高い水準を維持しています[18]。一方、平均寿命と健康寿命の差をみても男性が8.08年、女性が11.11年となっており、こちらも全国平均の男性9.13年、女性12.68年に比べて良好な結果となっています。さらに、山梨県の高齢者の特徴の一つとして就業率の高さ(男女とも全国2位)が知られています[19]。我々の調査結果でも、高齢男性では日中の農作業をしている人が多くみられており、活動量が高い日中の農作業が山梨県内の高齢男性の健康寿命の維持に大きくかかわっている可能性が示唆されました。さらに、山梨県は人と人とのつながりや団結力といった、ソーシャルキャピタルや社会ネットワークが充実していることも、高齢者の健康維持に重要な要因の一つとして考えられます。
 山梨県内ではよく知られている「無尽(むじん)」では、定期的に仲間と集まり食事等をしながら交流し、困ったときに助け合う互助・共助が培われ、高齢者の健康維持に大きく貢献しています。一方、若年層では、狭い世界での関係性を好まない傾向が強く無尽は減少しており、昔からある山梨の生活様式から大きく変化してきていることが課題となっています。今後の山梨県における中長期的な健康福祉サービスを考えると、従来の社会スタイルに依存しない新しい社会システムに沿った健康福祉サービスを開発していくことが急務となっています。
 高齢者が経済活動を含む社会活動を継続して行うためには、一般的な健康寿命(介護や支援を必要としないで、日常生活に制限のない状態)より、さらに高い身体機能の維持が必要となります。今後は、性別や個人の特性を考慮した、きめ細かい「テーラーメード・リハビリテーション」を高齢者の公衆衛生政策に導入していくことが、持続可能な社会に大きな役割を果たすと考えられます。

 

6.今後の展望と課題

 今回の我々の調査研究では、慢性疼痛・疲労と各リスク要因との因果関係についてまでは明らかにできませんでした[20]。今後は、本研究成果を踏まえて各リスク要因との因果関係を解明するとともに、作業療法士や理学療法士によるリハビリテーション専門職の介入が慢性疼痛軽減や機能向上にどのような効果が得られるのか明らかにしたいと考えています。さらに、生物学的な性差とともに、社会的性別(ジェンダー)の影響も含め、さらに調査研究を進めていきたいと考えています。また、現在は山梨県内の高齢農業従事者の農繁期での職業性疾病の解析、大月市でのヘルスケアツーリズム実証実験を進めており、高齢者の健康増進とともに高齢者の就労支援および発展に結び付けて、持続可能(Sustainable)な社会の実現のための取り組みを推進していきたいと考えています。


References
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[3] 令和3年度高齢者福祉基礎調査. 山梨県.
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[18] 平成28年国民生活基礎調査の概況. 厚生労働省.
[19] 平成29年就業構造基本調査の結果. 総務省.
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