チェンジ・メーカー
毎日新聞No.598【令和3年9月5日発行】
社会人になってもうすぐ20年。
2人の子どもも小学生になり、おむつ替えや離乳食づくりに明け暮れていた日々が随分遠くなった。そして所属組織のルールにも慣れ、仕事が回るようになってきた頃から、漠然とした不安を抱くようにもなっていた。安定した毎日は確かに心地よいが、急速な社会の変化を考えると、それは長続きするとも思えず、もっと「学ばなければ」、「変わらなければ」といった焦りだったように思う。幸いにも所属組織から出向する機会を得て、3年前に新たな環境に飛び込んだ。3年前に比べると、日々の業務は大幅に増え、圧倒的に大変な毎日だが、驚くことにワクワクしながら日々を過ごしている。
最近、経済産業省が「越境学習」を推進していることを知った。越境学習とは、ビジネスパーソンが所属する組織の枠を越えて学ぶことであり、「知の探索」によるイノベーションや、自己の価値観や想いを再確認する内省の効果が期待されている。その重要な要素は、「社会課題の現場」と「摩擦」と「多様なステークホルダー」とのことである。自分自身、組織の枠を越えて学ぶことの意味をしみじみ実感しているところである。
この取り組みでは、今後求められる新しい人材像を、創造的な課題発見・解決能力を持つ 「チェンジ・メーカー」と定義している。そのキーワードは、「知識を活用し自分で考える」「失敗を恐れずに挑戦する」「感性、好奇心、探究力」「倫理観、芸術観」などである。ビジネスの世界でもアートが注目されるなど、官民問わず、従来と異なる視点や価値観の重要性が各所で発信され、ある意味、社会全体の価値観が大きく変わっていく兆しがみられる。
こうした状況を考えると、そろそろ従来の組織の枠から一歩を踏み出し、自ら考え行動するという段階に移行してみるのはどうだろうか。手始めに、自分が絶対だと思っている価値観を内省する覚悟をもって、環境を変え、葛藤するのはどうだろうか。そのためには勇気が必要だが、試してみる価値は大いにありそうである。
(山梨総合研究所 主任研究員 山本 直子)