Vol.279-1 地震災害への備え~東日本大震災から10年


東北大学災害科学国際研究所所長 津波工学研究分野教授
3.11伝承ロード推進機構代表理事  今村 文彦

1.はじめに

 10年前の2011311日に東北地方の太平洋沖で巨大地震と巨大津波が発生し沿岸部を中心に壊滅的な被害を出しました。当時、来襲状況や甚大な被害の姿を映し出した映像が紹介され、我々に、その脅威を見せつけたのです。しかしながら、時間の経過とともに忘却され、得られた経験や教訓が活かされておらず、地震災害に対する意識も低下しつつありました。先日(107日)も首都圏で地震が発生し、交通が混乱し帰宅困難などの課題が残りました。東京都足立区や埼玉県川口市などで震度5強を観測。東京23区でこれだけの揺れが観測されるのは10年前の東日本大震災以来です。甲斐市出身の私は甲府一高で学びました。山梨の皆さまに地震災害の特徴を紹介し、いま一度、知識を向上させ、各個人が地域でできる備えを忘れずに実施いただきたいと思います。

 

2.我が国での地震について

 ご存じのように日本列島は四つのプレートの境界に位置し、そこでそれぞれの動き(速度)の差による歪みエネルギーが蓄積され過去から地震が発生、さらにそれに伴う地すべりや津波などが生じ被害を繰り返しています。過去の地震の位置を地図上にプロットすると、まさにその境界線上に多くが集まっていることが分かります。その他にも地震が発生しており、各プレート上に位置します。前者をプレート境界型地震と呼び、北海道・東北、東海から南海、日本海東縁部などで発生し、規模が大きくなると津波も生じています。後者を内陸地震と呼び、活断層が原因となり発生し、多くは「内陸の地震」になります。私たちが暮らす生活圏は、陸側プレートの上に成り立っており、その地震は「直下型地震」とも呼ばれています。地震の発生する震源からの距離も近くなるため、大きな揺れが想定されます。近年では、阪神・淡路大震災や中越地震、熊本地震など、地震の揺れによって大きな被害が発生してしまいました。一言で地震と言っても、どこで発生するのかによって注意するポイントは大きく変わります。

図-1 日本付近で発生する地震(気象庁)
左図;地震の発生分布、右図;プレートおよびその境界
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/jishin/about_eq.html

 

3.山梨県および周辺での地震災害

 山梨県の地震活動の特徴については、政府の地震調査研究推進本部が図―2を作成し、説明しています。山梨県に被害を及ぼす地震は、主に相模トラフ、南海トラフ沿い(図-1)で発生する海溝型巨大地震と、陸域の浅い場所(図-2)で発生する2種類の地震になります。以下、地震調査研究推進本部でまとめた内容を紹介します。

図-2 山梨県周辺での過去の地震と活断層(地震調査研究推進本部)
https://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/rs_chubu/p19_yamanashi/

 

 まず、プレート間地震ですが、1703年元禄地震(M7.98.2)では、甲府盆地を中心に大きな被害が生じました。次に、1854年安政東海地震(M8.4)では、県内の大半が震度6相当となり、甲府では町屋の7割、鰍沢では住家の9割が潰れたとされています。また、1944年の東南海地震(M7.9)の際には、県内で家屋の全半壊などの被害が生じました。一方、相模トラフ沿いのプレート間地震として発生した1923年の関東大震災(M7.9)では、県の東部が震度6となり、県内で死者20人、多数の家屋全壊などの被害が生じました。
 県内に被害を及ぼす可能性のある海溝型地震には、南海トラフで発生する地震もあります。そのため、県内の14市町村が、「首都直下地震緊急対策区域」に指定されています。また、県内の25市町が、「南海トラフ地震防災対策推進地域」に指定されています。
 一方で陸側の浅い場所(図-2)で発生する地震については、歴史の資料からは、県内の陸域の浅い場所で発生した顕著な被害地震は知られていません。明治以降では、1898年に県南西部でM5.9の地震があり、南巨摩郡で小被害が生じました。また、1908年には県中部でM5.8の地震があり、甲府市周辺で小被害が生じました。県東部の深さ1030kmの場所では、伊豆半島をのせたフィリピン海プレートの衝突に起因するとみなされる定常的で活発な浅い地震活動があり、ときどきM5~6の地震によって被害が生じることがあります。最近では、1983年山梨県東部の地震(M6.0)により、大月市でブロック塀が崩れるなどして、死者1人や家屋の全半壊などの被害が生じました。また、この付近では、1996年にM5.3の地震が発生し、河口湖町で震度5が観測されました。1855年の安政江戸地震(M6.9)や1924年の丹沢山塊での地震(M7.3)などのように周辺の地域で発生した地震によっても被害を受けたことがあります。
 山梨県の主要な活断層は、長野県北西部から甲府盆地の西縁にかけて延びる、糸魚川-静岡構造線断層帯と、甲府盆地南縁に延びる曽根丘陵断層帯があります。これらは後ほどの5.で紹介する想定地震に関係します。

 

4.地震災害と地震後の対応

 地震による被害には、強い揺れにより、建物倒壊、インフラの被害、火災の発生、土砂崩れ、液状化現象、さらに海域で発生した場合には海底が変化し津波が生じます。関東大震災(1923)は昼間に発生し、揺れの後、各地で火災が発生、特に、火災旋風の猛烈な炎と風によって急速かつ広範囲の火災延焼を引き起こしました。また、阪神・淡路大震災(1995)では、早朝に発生し、神戸市中心部で大規模な火災が発生しました。また、住宅が倒壊するなどの被害が発生し、道路が通れなくなるなど交通障害が生じていました。東日本大震災(2011年)では、震度7を観測した地域だけでなく、長周期地震動により、震源から遠く離れた大阪も含め都市域の高層ビル上層階でも大きな揺れなどが起きました。また、東北地方から関東地方にかけての太平洋沿岸を巨大な津波が襲った他、東京湾岸地域では液状化現象により大きな被害が出ています(内閣官房HP2021年)。
 では、地震の時はどのように行動したらよいのでしょうか。
 先日の首都圏での地震もありましたが、地震の揺れを感じた場合あるいは緊急地震速報を受けた場合は、あわてずにまずは身の安全を確保することが大切です。その後に、落ち着いてテレビやラジオ、携帯電話やスマートフォンのワンセグやネット通信機能など、さまざまな手段を使って正確な情報の把握に努めましょう。その後の対応は、場所によって違います。
 例えば、家庭で屋内にいるときは、家具の移動や落下物から身を守るため、頭を保護しながら大きな家具から離れ、丈夫な机の下などに隠れ、あわてて外に飛び出さない。料理や暖房などで火を使っている場合、その場で火を消せるときは火の始末、火元から離れているときは無理に火を消しに行かない。いまは揺れのセンサーがあり自動的に停止します。さらには、部屋に閉じ込められる場合もありますので、扉を開けて避難路を確保することも大切です。
 人が大勢いる施設(大規模店舗などの集客施設)にいる時には、あわてずに施設の係員や従業員などの指示に従う。従業員などから指示がない場合は、その場で頭を保護し、揺れに備えて安全な姿勢をとります。あわてて出口や階段に殺到しない。屋外にいる時には、ブロック塀の倒壊や自動販売機の転倒などに注意し、これらのそばから離れる。ビルの壁、看板や割れた窓ガラスなどの落下に注意して、建物から離れることなどが必要です(内閣官房、2021年)。
 山梨県には、海岸がないので、津波の心配は基本的にはありませんが、行楽や仕事で沿岸部を訪れる場合があり、そこでは津波による危険があります。1983年日本海中部地震津波では、被害を受けた6割以上の方が地域住民ではなく、偶然に沿岸部にいた遠足の生徒、つり客、旅行者、そして工事現場での修業者の方々でありました。東日本大震災でも東北地方以外の方も少なからず、犠牲になられています。津波から命を守るためには、どのようにしたらよいでしょうか。
 強い地震(震度4程度以上)を感じたとき、または弱い地震であっても長い時間ゆっくりとした揺れを感じたときは、直ちに海浜から離れ、急いで高台などの安全な場所へ避難しましょう。見知らぬ場所での避難は難しいです。周辺にある避難誘導標識板等を確認して防潮堤の避難口・避難階段等を用い、避難ビル・高台又は避難地等へすみやかに移動してください。遠い場所ではなく、高い場所が安全です。車での移動は大変危険を伴いますので、原則徒歩で移動してください。東日本大震災等では、車渋滞などが発生し、迅速な避難ができなかった例が多くあります。津波が発生する可能性のある場合は、周辺の防災無線や情報板、さらにはスマートフォンや携帯に情報が提供されますので、入手しましょう。津波の危険がある場所には、津波が来襲する危険があることを示す「津波注意」のほか、津波避難場所を示す津波標識が設置されています。万一に備え、海の近くにいるときには必ず確認しておきましょう。

 

5.地震災害の予測と防災 -想定する地震について

 地震による災害を知り、いざという時に行動を取ることも大切ですが、事前にそのリスクを知り、落下防止、耐震化、避難体制の確保、復旧・復興計画の事前の作成などをしておくことがさらに重要になります。そのために、山梨県では、過去の地震や活動断層を参考に、防災のための地震を想定し、リスク評価を以下のようなケースを対象に実施しています。その結果を基に、地震ハザードマップ(各自治体)や被害想定、対策などを検討しています。ぜひ一度、自治体などのホームページなどをご覧いただきたいと思います(山梨県HP)

(1) 東海地震(南海トラフ)

 駿河湾とその南方沖を震源とし、昭和54年の中央防災会議が決定した断層モデルを震源域とするもの。その後、中央防災会議が平成1312月に新たな想定震源域に基づく断層モデルを決定し、それに基づく被害想定及び対策に係る検討結果を平成155月に公表しています。

(2) 南関東直下プレート境界地震(相模トラフ)

 本県東部方面を震源とし、平成4年、中央防災会議が決定したM7、M9、M14断層モデルを震源域としています。

(3) 活断層による地震

 地震が発生した場合、本県に及ぼす被害が大きいと予想される次の四つの活断層について調査しています。

  1. 釜無川断層地震(本県と長野県を結ぶ交通の要衝に位置する活断層による地震)
  2. 藤の木愛川断層地震(本県と東京都を結ぶ交通の要衝に位置する活断層による地震)
  3. 曽根丘陵断層地震(県都甲府市の近くに位置する活断層による地震)
  4. 糸魚川静岡構造線地震(本県の西部に位置する日本を代表する活断層による地震)

 

6.さまざまな地震災害と教訓の継承 -東日本大震災等を経験する中で

 現在、関東大震災、阪神淡路大震災、東日本大震災などの被災地では、さまざまな震災伝承施設や遺構、石碑・記念碑が設置・整備されています。特に、東北地方太平洋側の各地では、図-3に示されたように伝承施設が設置されて、現地で当時何が起き、どのようにして対応し、国内外から御支援をいただきながら、今日まで復旧・復興の取り組みをどのように行ってきたのかを、感謝とともに伝えています。訪問いただいた方には、一つ一つの体験や経験が共感を呼び、知識となって防災行動に繋がっており、伝承することの重要性をあらためて認識させています。防災や減災、地震や津波などに関するさまざまな「学び」や「備え」をテーマとした数多くの取り組みや事業を紹介し、これまでの防災に対する知識や意識を向上させるとともに、地域や国境を越えた多くの人々との交流を促進させ、災害に強い社会の形成と地域の活性化に貢献する活動が始まっています。
 数多くの教訓が残されていますが、突然発生した、想定を上回る災害に対しては、初動体制は遅れてしまったものの、しかし、備えていたことは確実に実践できており、未曾有の災害の中でも被害低減はできたと言えます。例えば、耐震化があり、あの長く強い地震に対しても倒壊した建物はごく僅かでありました。また、自治体や関係機関との連携協定のお陰で、被災地での初動体制が機能しない中でも迅速な支援をいただきました。このような経験を現地で地元の皆さんとお話ししながら、学んではどうでしょうか。また、山梨県内においても過去の地震などの災害の経験や教訓などが記録されていると思いますので、身近な歴史として知っていただくことも大切です。

図-3 東北太平洋側の各地に整備されている伝承施設(3.11伝承ロード推進機構)
https://www.311densho.or.jp/


参考資料

今村文彦著『逆流する津波: 河川津波のメカニズム・脅威と防災』(2020)、 成山堂書店
https://www.seizando.co.jp/book/9028/
甲府地方気象台、令和2(2020 )の山梨県とその周辺の地震活動
https://www.jma-net.go.jp/kofu/image/jishin/2020_nenpou_jishin.pdf
内閣官房HP
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/bousai/jishin.html
地震調査研究推進本部HP
https://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/rs_chubu/p19_yamanashi/
山梨県HP、防災編
https://www.pref.yamanashi.jp/kurashi/bosai/index.html
山梨県HP、防災ハンドブック(災害・地震等の情報)
https://www.pref.yamanashi.jp/bousai/87233368090.html