笑いの力の活かし方
毎日新聞No.602【令和3年11月14日発行】
筆者はお笑いが好きである。お笑いには一発芸から精緻に練られたコント、話芸のような古典芸能までさまざまなジャンルがあるが、個人的にはもともと落語が好きだったこともあって古典的な「なぞかけ」がお気に入りだ。なぞかけとは、「AとかけてBと説く、そのココロは?」というアレである。少し前に流行した「整いました!」の掛け声は、今でも時折使いたくなる。
上方落語の爆笑王と呼ばれた故・桂枝雀師匠によれば、笑いの本質は「緊張と緩和」にあるという。先のなぞかけでいえば、AとBが違えば違うほど、聞く人にはなんなんだ?という緊張が走り、そのココロを聞いたときの緩和も大きくなって笑いにつながる。つまり似ても似つかぬ二つのものに共通しているところを見つけ出すことこそ、笑いを生み出すカギになっている。
このような関連づけを日本語では「類推」、英語では「アナロジー」という。例えば「自動車」という単語から連想される特徴としては、速い、人を運ぶ、税金を払う、燃料を使うなど色々な言葉やイメージが浮かぶが、人を運ぶという意味ではエレベーターや川下りなども共通するものだし、燃料を使うという意味ではストーブや火力発電も似ているといえる。なぞかけは物事を一面だけでなく多面的に見て掛け合わせるが、ビジネスの世界でも異なるものの掛け合わせは、新たなアイデアや価値を生み出すヒントとして役に立っている。有名なところでは江崎グリコ株式会社のお菓子の無人販売サービス「オフィスグリコ」があるが、これは無人野菜販売所が発想のもとになったと言われている。このようにあるジャンルの取り組みの要素を抽出して、ほかのジャンルにも当てはめる考え方は「アナロジー思考」と言われ注目されている。
昨今は変化が激しく正解のない時代と言われているが、そんな時代を押し開くカギとして笑いの力を鍛えてみるのはいかがだろうか?大変な時代だからこそ、人生の豊かさにもつながるかもしれない。それでは最後になぞかけを一つ、新聞とかけてアナロジーと説く、そのココロは「一面だけでなく、いろいろな面を見てみよう」。お後がよろしいようで。
(山梨総合研究所 主任研究員 前田 将司)