Vol.280-2 「プラットフォーム」の台頭による社会変化について


公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 前田 将司

1.はじめに

 プラットフォームという言葉を聞いて、皆さんは何をイメージするだろうか。もっとも身近なものは駅のホームだろう。利用者数が最も多いとされるJR新宿駅は1日に150万人が利用するというデータがある。それでは今、世界で1日の利用者数が最も多いプラットフォームはどこだろうか。その答えはスマートフォンだ。このように答えると首をかしげる人も多いかもしれないが、プラットフォームという言葉をどのように捉えるかで、世界の見方はガラリと変わってくる。

 

2.プラットフォームという概念

 プラットフォームとは、もともと土台、高い足場、そして駅の乗降場などの意味を持つ英語の platform を語源としており、「一段高くなった平らな場所」を指す言葉である。駅のホームは言葉の通りの場所であるが、ビジネスの世界におけるプラットフォームは、物やサービスを利用する人と、提供者をつなぐ“場”を表す言葉であり、おおむね次の2種類の意味に分けて使われている。
 一つは、システムやアプリケーションを動かすために必要な環境・基盤のことをいう場合で、パソコンやスマートフォンのOS(オペレーションシステム)がそれにあたる。WindowsMac OSandroidiOSなどのOSは、ソフトウェアを動かすためのプラットフォームとなって我々の日々の生活を支えている。調査会社Strategy Analyticsの報告書によれば世界でのスマートフォンの利用者数は40億人を超えており[1]、今や世界の人口の半分近くが自分のプラットフォームを所有しており、駅のホーム以上に我々にとって身近に利用するものとなっている。
 もう一つは、商品・サービス・情報などが集まる「場所」のことをいう場合だ。身近なものでいえばオンラインショッピングを提供するサイトや、音楽・動画の配信サイトのような場所がこれにあたる。このような場所を提供している企業を「プラットフォーマー」とも呼び、各社の頭文字をとって「GAFA」と略されるGoogleAppleFacebookAmazonや、その中国版とも言われる「BATH」のうちBaidu(バイドゥ)、Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)がその代表例といえる。日本の企業では、楽天市場やメルカリなどがプラットフォーマーにあたる。こちらの意味のプラットフォームも、今や我々の生活になくてはならない存在になっている。

 

3.プラットフォームの事例と特徴

 プラットフォームの特徴について考えるにあたり、プラットフォームの代表的な事例として、多くの人になじみのある「YouTube」を例にとる。YouTubeは世界で2番目にアクセス数が多いサイト[2]であり、世界で最も知名度のある動画プラットフォームと言っていいだろう。日本でも総務省の調査によれば[3]10代から40代で90%を超過する利用率となっている。

出典:総務省「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」

 

 2005年2月に設立され、200611月にグーグル社に買収されたが、YouTubeはそれまで同社が提供していた動画共有サービスの「Google Video」に取って代わっている。Google Videoは今では動画の検索エンジンとして残るのみだ。YouTubeは、AIを利用したリコメンド機能のような技術革新などによって利用者を増やしていき、今では1日に10億時間もの動画が視聴されている。
 では、YouTubeを事例として考えながらプラットフォームについて少し踏み込んでご紹介する。「プラットフォームの教科書」(根来龍之)によると、ビジネスにおけるプラットフォームは「他のプレイヤー(企業、消費者など)が提供する製品・サービス・情報と一体となって初めて価値を持つ製品・サービス」と定義される。同書の中でプラットフォームの特徴として挙げられるものはいくつかあるが、ここではネットワーク効果とレイヤー構造を紹介する。

 

・ネットワーク効果

 プラットフォームは利用者にとっての価値が集約される場であるが、価値が集約されていること自体によって、プラットフォームの価値がさらに高まっていくことをネットワーク効果という。
 ネットワーク効果については電話のイメージで説明されるケースが多い。電話は加入している人が一人しかいなければ、そもそも通話する相手がいないので全く価値がなく、多くの人が加入していろいろなところに電話を掛けられて初めて価値が生まれる。日本では電話サービスは明治2年に開始されたが、当初の加入数は東京と横浜でわずか197世帯しかなかった[4]。しかし、その後の発展や携帯電話の普及により、飛躍的に価値が高まり、大きなネットワーク効果を産み出している。
 YouTubeで考える場合、動画から何かの知識を得たい人、動画を楽しみたい人などにとって、それに応える多くの動画が投稿されているからこそ価値があるのであって、仮にYouTubeのサイトが単体であって動画が一本もない状態ではその価値はほぼなくなってしまう。YouTubeには毎日多くの動画が投稿されており、その価値は日々大きくなっていると言える。

 

・レイヤー構造

 レイヤーは層を意味する言葉であるが、プラットフォームにおけるレイヤー構造は、利用者が必要なものを組み合わせて利用することができることを表している。
 YouTubeで考える場合、例えばキャンプに関する知識を集めようとしたら、紅葉がインスタ映えするキャンプ地、おすすめのキャンプグッズ、テント設営の基礎、おいしいキャンプ飯の作り方などの動画を見れば、それなりにキャンプを行えるだけの知識がそろってしまう。一昔前でいえば「キャンプ入門」という本に章立てて書かれていた知識だが、それぞれ別々の配信者によってつくられた動画を組み合わせることで、自分が理想とするキャンプをするための知識として活用できるようになる。つまり、これまで財やサービスの提供者が取りまとめていたものを、利用者が個別に最適なものを自分で選択できるようになったという点で大きな価値を産んでいる。

 プラットフォーム型のサービスは、以上のような特徴を備えているが、これは多くの人が参加していることを前提にした特徴である。電話加入の例のように、プラットフォームはその成長過程において多くのプレイヤーを巻き込んでいく必要があるため、自前ですべてをコントロールすることが非常に難しい。しかし、ひとたびうまく軌道に乗せられれば、多くの人にとって価値のあるものが集約される場所となるため、ネットワーク効果により利用者にとっての価値がさらに高まり、レイヤー構造によって利用者の利便性も高まるため、単独では決してできないような大きな影響力を持つことが特徴と言える。

 

4.山梨におけるプラットフォームの事例

 山梨県でもこのようなプラットフォームを地域の活性化につなげるために、新規に設置する動きが進んでいる。本稿ではその中から、いくつかの取り組みをご紹介する。

 

(1)TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業

出典:山梨県HP

 

 山梨県が、最先端技術やサービスを有するスタートアップ企業等に対し、山梨県全域を実証実験のフィールドとして、産学官金連携のオール山梨体制で伴走支援するために設置したプラットフォームである。
 新技術の導入や新たなサービスの実施に当たっては、テストベッド(実際の運用環境に近い状態で先端技術の実験を行う「場」)による実証実験を行うことで、問題点の洗い出しや技術の精度向上が可能になるが、同事業は、このテストベッドを突破口に最先端技術で世界に先駆けて新たな価値を創造する「オープンプラットフォーム山梨」を実現することを目的としている。
 具体的には、東京圏等のスタートアップ企業等が本県で実施する実証実験に対する最大750万円の経費支援(補助率3/4)、実証実験実施に関して必要となる地元調整、実施場所の斡旋・提供等の自治体職員によるサポート、実証実験モニター募集等のためのPR支援、各種企業や団体とのマッチング及び協力依頼などを実施する。
 「TRY! YAMANASHI!」の紹介動画には山梨県知事も登場しており、多くの企業・団体に参加を促している。県はこのような場を主体的に設けることで、「テストベッドの聖地化」を県の成長エンジンに位置づけ、最先端技術で世界に貢献する山梨県の実現を目指している。

 

(2)やまなしPPP/PFI地域プラットフォーム

 山梨県と山梨中央銀行が内閣府の支援を受け、PPP/PFI事業拡大に向けた課題解決に取り組むため、令和元年に設立したプラットフォームである。山梨県総務部及び株式会社山梨中央銀行コンサルティング営業部を事務局とし、山梨県内の産官学金の団体等の参加をもって組織されている。PPPPublic Private Partnership(官民連携事業)の略であり、公民が連携して公共サービスの提供を行う仕組みや考え方をいう。また、PFIPrivate Finance Initiative(民間資金等活用事業)の略であり、庁舎や公営住宅、学校、上下水道等の整備等にあたって、どのような設計・建設・運営を行えば最も効率的かについて、民間事業者による提案競争を求め、最も優れた民間事業者を選定し、設計から運営までに加えて、資金調達も自ら行ってもらう発注制度のことをいう。
 同プラットフォームは、山梨県内の地方公共団体における公共施設等の整備・維持管理・運営等に関し、PPP/PFI事業の導入を促進することにより、効率的かつ効果的な公共施設の整備・運営及び良好なサービスの提供による地域経済の成長に寄与することを目的として設立されている。これまでPPP/PFI連携手法を学ぶセミナーの開催や、民間事業者との意見交換により市場性を把握するための公開サウンディング型調査を実施しており、山梨県内の自治体が積極的にPPP/PFI事業を実施できる体制整備を支援するとともに、民間事業者のPPP/PFI事業への関心を高める場としての役割を果たしている。
 今後も県内の公共施設についての様々な情報が集まることで、民間事業者の知識やノウハウを導入しより良い運営が可能になる公共施設が増えていくことが期待できる。

 

(3)やまなし未来共創HUB

 最後に、山梨総合研究所が今年度から立ち上げたプラットフォームである「やまなし未来共創HUB」についてご紹介する。

 やまなし未来共創HUBは、山梨県における地域の問題解決のため、ソーシャルビジネスの創出や持続的な事業活動を支援することを目的とした、様々な主体の参加によって作られるプラットフォームである。
 このプラットフォームでは、地域の問題の中から取り組むべき「共創テーマ」毎に多様な参加者による「共創チーム」を設け、実務者である「支援チーム」や県内の支援団体や金融機関等から構成される「やまなし未来共創HUB会議」のサポートを受けながら、協力して問題解決のアイデアを生み出し事業化を目指している。
 今年度は「子ども『を』学び、子ども『と』学ぶ社会を創ろう!」、「だれもが働きがいを感じられる社会を創ろう!」、「若者が自己実現できる社会を創ろう!」の3つのテーマで、課題解決に向けて様々な参加者が集い、議論を重ねている。

 先に述べたプラットフォームの特徴を持って説明するならば、やまなし未来共創HUBは「山梨における地域課題」が集約されるプラットフォームであり、課題解決に向けて多くの人が集まることで、解決の糸口につながるような知恵や能力を備えるレイヤー構造の構築や、課題解決の事例を積み重ねることで、解決したい課題が新たに持ち込まれるといったネットワーク効果を生み出すことを期待している。
 日々の生活の中で課題を感じている県民の方や自治体の関係者、また課題解決に自らの力を役立てたいと考える個人や企業など多くの方々にご参加いただきたいと考えている。

 以上、県内の事例として挙げたプラットフォームは、いずれも近年に設立されたものであり、まだまだ成長過程の段階と言える。今後その利便性や有効性が多くの人に認識されていくことで、より価値のあるプラットフォームになっていくだろう。

 

5.おわりに

 その昔、物々交換が主流であった時代はお互いの関係は対等だったが、貨幣経済の進歩により売り手側のシステムはどんどん高度化していき、生産の現場から消費者までの流れをつなぐサプライチェーン(供給の鎖)と呼ばれるシステムが産まれていった。より強固なサプライチェーンの確立が事業規模の拡大につながり、市場シェアの拡大につながるという仕組みから提供されるサービスは、自動車産業などの例を見ればわかりやすく、「売り手」側の優位性を高めてきた。しかし昨今はプラットフォーム型サービスの拡大により、容易に品質や価格の比較ができるようになったことから買い手側にサービスの選択権が大きくなってきている。
 このことは、これまでの世の中の主流であったサービスのあり方がここにきて変化してきていることを表している。様々なサービスが重なり合ったレイヤー構造ができることで、どれだけ精緻に準備された事業や企画であっても、実際に利用しやすいかといった利用者にとっての価値がないと、事業そのもの、企画そのものの価値がなくなってしまうともいえるからだ。事業や企画を立案する側は、このことを念頭に置く必要があるだろう。

 また先に紹介したネットワーク効果について考えると、モノや情報、人が集まること自体が価値を産み出していると言える。これまでの消費社会では、材料を使って物を作って売るという商売の流れがあり、その流れの中で付加された価値によって経済が回ってきた。特に近代の工業社会では、地中から採れた鉱物や化石燃料などのエネルギーを工業製品に転化することで、生産の規模を地球レベルで拡大させてきたが、近年重要視される持続可能な社会の視点から考えれば、有限である資源を潤沢に使用する生産活動には、待ったをかけなければならない。
 そんな昨今の状況に対して、資源を消費するという方法ではなく、資源を集めることで価値を産むプラットフォームのあり方は、これからの社会のあり方を考えていくうえで一石を投じるものになりえると筆者は考える。

 価値のあるものには人が集まり、価値のないものは利用されないというのは自然ななりゆきだ。しかし、プラットフォームのような新しい仕組みの価値は理解されるまでに時間がかかるものである。価値がきちんと伝わり多くの人に利用され、真価を発揮するまでの間は、列車の到着を待つように、プラットフォームを利用しながら待ってみてはどうだろうか。大きな変化にすぐに飛び乗ることができるかもしれない。


[1] 戦略分析:世界の半分がスマートフォンを所有 (strategyanalytics.com)

[2] アレクサ – ウェブ上のトップ500サイト(alexa.com)

[3]「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」https://www.soumu.go.jp/main_content/000765135.pdf

[4] 日本で電話が生まれて150年 黒電話や公衆電話など『電話の歴史』を振り返る https://time-space.kddi.com/it-technology/20191023/2765