Vol.282-1 若者そして地域社会の国際交流HUBとして大学にできること


山梨学院大学 国際担当学長代理
法学部政治行政学科長 教授 秋田 辰巳

1.はじめに

 「授業は1月2日から」と聞いて、みなさんは驚かれるでしょうか。私は驚いた一人でした。それは、アメリカ留学中のことでした。考えてみれば「三が日」は日本の伝統で、アメリカにはありません。元日(New Year’s Day)を祝えば、あとは平日。そんな留学経験もできないのが今。
 この2年間、新型コロナ感染で世界が揺れ続けています。201912月に中国で感染が確認されて以降、一気に世界各国へと感染は拡大しました。それは、世界を取り巻く現代社会が物理的な距離は不変であるものの、人間同士の移動による交流の距離が縮まっていることを奇しくも証明する結果となりました。
 このコロナ禍の影響で、人々が直接対面で交流することがほとんどできなくなりました。あらゆる交通機関が打撃を受け、特急電車は人を乗せずに座席のみがレールを走り、空港は「ソラの港」から、「カラの港」と化してしまいました。人が動かなければ、物が動かない。物が動かなければ、お金も動かない。観光産業を中心に大打撃となりました。
 この環境は国際交流に極めて厳しいものです。しかし、山梨学院大学では、「全学的国際化」の旗の下、できないことを憂うより、できることを考え、国際交流の歩みを滞ることなく進めてきました。

 

2.国内にいながら国外と繋(つな)がるパイプ

 新型コロナの国家間における感染を封じ込めるため、国際線を中心に飛行機の運行が激減しました。上述のように空港は「カラの港」となりました。本来、私は学長の代理として各国を飛び回り、必要に応じて大学の特命全権大使として関係書類に署名する任務もありました。しかしながら、それはできなくなってしまいました。
 そこで考えたのが、「日本にいながら、外国と結びつく方法はないか」ということでした。まず、頭に浮かんだのが各国の駐日大使館との関係づくりです。大使館はその母国と日本とのパイプ役であり、大使館と良好な関係を構築することは、日本にいながらその国内と結びつく良策と考えたのです。実は、このコロナが蔓延(まんえん)する前に、本学はすでにネパールとコソボの駐日大使を本学での講演会に招聘(しょうへい)していたのです。

 

講演会実施日 国名 大使
2019.07.12 ネパール プラティヴァ・ラナ大使(当時)
Her Excellency Ms. Prativa RANA 
URL:http://www.yguppr.net/190715ygu_main.html
2019.12.20 コソボ レオン・マラゾーグ大使(当時)
His Excellency Mr. Leon MALAZOGU
URL:http://www.yguppr.net/191220ygu_main.html

 

 ネパールについては、大月市に拠点をおく「ネパール日本友好協会(石岡博実名誉会長)」の全面的なご協力で、この大使講演のあと、私と本学スタッフが首都カトマンズに赴き、主要2大学や観光省(大臣)などを訪問しました。
 コソボについては、その後、臨時代理大使二代とも交流を続け、このほど新任の大使着任に際しお祝いのお便りを送ったところです。昨年の「TOKYO 2020五輪」に際しては、同国文化・青少年・スポーツ省副大臣が来日して歓談に招かれ、私がお会いしてきました。奇しくも、2回目のモデルナワクチン接種翌日で、高熱にならないか解熱剤を購入し冷や冷やしましたが、おかげさまで全く発熱がありませんでした。同国は女子柔道が強く、オリンピックでも金メダルを獲得しています。今後は、本学の柔道部と交流を深めることになるでしょう。
 そしてコロナが発生したあとも感染対策をしながら大使等をお招きし、大使館との関係を発展させています。

 

講演会実施日 国名 大使
2020.11.27 ロシア ミハイル・ユーリエヴィチ・ガルージン大使
His Excellency Mr. Mikhail Y. GALUZIN 
URL:http://www.yguppr.net/201127ygu_main.html(本学HPより)
2021.04.16 ヨルダン リーナ・アンナ―プ大使
Her Excellency Ms. Lina ANNAB
(難民のドキュメンタリー映画も上映)
URL:http://www.yguppr.net/210416ygu_main.html(本学HPより)
URL:https://www.youtube.com/watch?v=CdG7tMdJOmE(YouTube)
2021.10.30 インドネシア ヘリ・アフマディ大使
His Excellency Mr. HERI Akhmadi
(於 後述インドネシアフェスティバル)
2021.12.10 ロシア イーゴリ・チトフ文化担当参事官
Mr. Igor TITOV
URL:http://www.yguppr.net/211210ygu_main.html(本学HPより)

 

 このなかでロシアについては、同国への大学留学の動機づけにもなるということで、TITOV参事官を文部科学省のSuper Global High School(スーパーグローバルハイスクール)にも選ばれた甲府第一高等学校にご紹介し、同校1、2年生を対象に講演をしていただきました。このことは、本学が学内にとどまらず、教育界を中心に山梨県全体の国際化のHUB(ハブ)の役割を担っていけるようにとの発想に基づきます。
 ヨルダンについては、このほどUNHCR難民高等教育プログラム(Refugee Higher Education Program – RHEP)に申請をする準備を始めました。このプログラムは、日本に住む日本国籍を持たない難民のみなさんが、奨学金を受けながら日本の大学で就学できるようにサポートするものです。つまり、本学で一定数の在日難民を受け入れ、学費等を無料とし、月々の生活費の一部も援助することになります。また、大学のゼミで難民をサポートするための学食メニューを開発し募金活動も実施しました。そして先日、学長と私が大使公邸での夕食会に招かれ、実りある時間を過ごすことができました。
 このほか、このコロナ禍にあっても直接訪問をするなど大使館と連絡を取り合っている国としては、アメリカ、中国、インドネシア、ベトナム、インド、フィリピン、サモア、東ティモールなどがあります。少しずつ、渡航を再開できるようになってきていますが、各国の駐日大使館との交流はさらに発展させていきたいと考えています。

 

3.二つのタイプの国際交流イベント

 山梨学院大学では、大きく分けて二つのタイプの国際交流イベントを開催しています。
 一つ目は、主に留学生を対象としたものです。留学生に、日本における異文化体験や日本人学生との交流をしてもらうことが目的です。例年、本学では国際リベラルアーツ学部(iCLA)やその他の学部への正規留学生以外に「短期留学生」を協定大学から受け入れています。中国や東南アジアの国々、そしてロシアからの学生です。就学期間は毎年9月からの1年間です。日本語も含め通常の授業を受講し、本来在籍している母国の大学に単位を持ち帰ることもあります。
 その留学生たちが、日本文化を体験したり発信したりするイベントとして、例えば次のようなものがあります。

 

 

 

 いずれの企画も好評で、毎年恒例になっているものもあります。
 二つ目は、市民開放型の国際交流イベントです。国際交流に関連してさまざまなゲストを招いてのイベントで、本学の学生や教職員のみならず、広く市民の皆さんも参加対象としたものです。上述の大使講演の他に、次のようなイベントを開催してきました。

 

市民開放型イベントの例
アフリカフェスティバル[2020.11.20]
・駐日ケニア大使館参事官の講演
・本学陸上部監督上田誠仁教授とOB真也加ステファン氏のトークショー
・アフリカ音楽の生演奏(ムクナバンド)
・アフリカ物産展
URL:http://www.yguppr.net/201120ygu_main.html(本学HPより)
URL:https://www.youtube.com/watch?v=dPGAIshjgnc(YouTube)
世界初有人宇宙飛行60周年記念
「ガガーリン物語」写真展[2021.06.21〜26]
・在日ロシア大使館、ロシア連邦文化科学協力庁と協力しガガーリン氏に関する写真パネルを展示
「宇宙とわたし」絵はがきコンテスト[2021.06.21〜26]
・甲府市内の保育園児・幼稚園児・小学生から広く募集をした絵葉書のコンテスト
・ロシア連邦文化科学協力庁ダリア・スハレワ駐日副代表による授賞式
URL:http://www.yguppr.net/210626ygu_main.html(本学HPより)
URL:https://www.youtube.com/watch?v=Zdp7K0NENDE(YouTube)
インドネシアフェスティバル[2021.10.30]
・駐日インドネシア大使の講演(上述)
・伝統影絵芝居ワヤン・クリッ上演(ステージ背後から見学も)
・伝統楽器ガムラン演奏(参加者が演奏体験も)
・インドネシア物産展
URL:http://www.yguppr.net/211030Indonesia_main.html(本学HPより)
URL:https://www.youtube.com/watch?v=murYBn-FmIk(YouTube)

 

 これらのイベント開催には、「甲府市ふるさと応援寄附金」を活用させていただいています。2月4日には「インターナショナル ミュージック フェア」も開催する予定です。(新型コロナの感染状況により変更あり)
 ここでも本学の国際交流活動については、学内にとどまらず市民・県民のみなさんの国際交流のお役にたてるようにとも心掛けています。
 ちなみに、本学の国際交流に関する情報は、本学の国際交流センターのホームページ(https://www.ygu.ac.jp/international/に随時掲載しています。折に触れご確認ください。

 

4.草の根国際交流

 さまざまなイベント開催等に際して、大使館や外国の教育機関等と連絡を取ることは当然のことです。ただ、それだけでは損得勘定のみ先行してしまい、真の国際交流を実践しているとは言えません。普段から何げないやりとりを継続し、まるで「隣人」と思えるような関係になることが、本当の意味での国際交流として大切だと思います。
 例えば、私個人としては、かつてアメリカ留学でお世話になった教授やホストファミリー、現地の友人たち、現地母校の同窓会のみなさん、そして米国カリフォルニア州ロダイ市(甲府市の友好都市)の姉妹都市委員会理事長などとも交流を継続しています。長い人とは、30年以上のお付き合いです。
 また私が甲府市立甲府商科専門学校勤務時代には、米国アイオワ州デモイン市の方々と繋がり、今では同州姉妹都市交流委員会の責任者の方々と、日々の生活の中で交流を続けています。このことがあって現職で、山梨県と共にアイオワ州と交流を深めることができています。例えば、アメリカ中西部の伝統校のひとつである州立アイオワ大学(University of Iowa)と本学が提携を結ぶことができました。また、同姉妹都市交流委員会から、昨年の「TOKYO 2020五輪」に出場した学生・卒業生・指導者に表彰状が届きました。日々の交流の積み重ねが、成果として現れてきています。
 では、どのようにして日々の交流を継続しているでしょうか。私はSNS(会員制交流サイト)やメールなどの現代社会のさまざまな手段を使っています。SNSでは関係者と「友達」として繋がり、毎日ネットにアップされているポスト(記事)で「いいね」などを選択したり、コメントを書いたりしてやりとりしています。
 個人宛のMessenger(メッセンジャー)などでは英語を用いますが、ポストにコメントするときは、日本語と英語を併記するようにしています。そのときに大切なのは、緩急をつけることです。日本人は失礼がないようにと意識するあまり、つい真面目な応対ばかりしてしまいます。私は、仕事のメルアドを使うときは真面目なやり取りしかしませんが、SNS上では冗談も言いながら会話をします。この冗談が、日本人には実践できないと言われていることの一つです。
 最近は、提携している海外の大学から、さまざまなイベントに際してビデオメッセージを依頼されます。文字による交流も大切ですが、やはり実際に人の画像と音声が届くと、親近感を持っていただけるようです。
 さらに、このネット社会だからこそ、要所要所ではあえて紙のお便りを送るようにしています。やはり、“心がこもった便りを手に取る”と、温かみが伝わるものです。例えば、昨年のアメリカ南部での大竜巻、インドネシアでの火山噴火、ネパールのコロナ感染拡大、そしてつい先日のトンガ近海の火山噴火などに際して、関係各国の駐日大使にお見舞い状を送っています。逆にヨルダン建国75周年の祝辞など、お祝い事にもメッセージを送っています。そのほかに、さまざまなお礼状等もメールでなく、便箋によるお便りを送っています。
 このような草の根レベルの活動が国際交流の種となり、いつの日か花と咲くのです。小さな交流が、のちに大きな成果となることでしょう。昨今このような現象を「バタフライ効果」と呼んでいることは、ご案内の通りです。

 

5.学生の国際交流

 ところで、山梨学院大学は教育機関ですから、授業等でどのような国際交流を実施しているのか、二つを紹介させていただきます。
 まず、海外渡航経験のない学生に国境を越えさせるための企画です。インターネットの普及やさまざまなメディアの発達から、私たちは多種多様の情報に満たされ、世界中に溢れる情報から特定の情報を瞬時に入手できる環境にもあります。このことで、私たち、特に若者たちが、あえて物理的に国境を越える必要性を感じにくくなってしまいました。
 平成前半までは海外留学をする日本人学生数が増加していました。私もその一人といえます。文科省のデータによると、2004(平成16)年、海外留学した日本人学生は82,945人で、過去最高の人数を記録しましたが、その後、減少を続けています。ピーク時の半数以上が留学したアメリカも例外ではありません。文科省は「この理由は明確ではないものの、留学目的や意識・意欲の変化などが挙げられている。」としています。本学の学生をみていても、若者の外国への興味・関心が弱まったのではなく、国内でメディアを活用すれば、国際交流は十分と誤解しているのでしょう。
 論語に「之を知るを知ると為し、知らざるを知らずと為す。是れ知るなり(為政第二17)」とあります。同様のことを哲学者ソクラテスが「無知の知」と表現したという説もあります。いまの学生たちは、この「知らないことを知らないと自覚する」心構えが弱くなっているように思えます。
 その解決には、やはり若者世代の誰かが実際に外国に行く必要があります。「百聞は一見にしかず(漢書趙充国伝)」と申します。情報過多の時代にあっても真の国際交流をするため、外国に実際に行くことでしか得られない情報や経験があることを理解してもらう。そして、そのことを仲間に啓発してもらうのです。例えば、山梨学院大学では「Enjoy海外」プログラムを企画しています。外国の協定大学での研修など単位を付与するものから、語学研修やボランティア活動といった単位には関係しないものの、多様な経験ができる企画まであります。そして、経済的なハードルを下げるため支援金制度もあります。(「Enjoy 海外」プログラム https://www.ygu.ac.jp/international/study-abroad/agreement-school
 
一方で、協定大学の若者たちにも同様に国境を越えて山梨に来てもらいたいと「Enjoy YGU」というインバウンド企画の準備も進めています。この企画は、海外から学生が約2週間山梨に滞在し、その魅力を紹介するものです。都会の有名大学と異なり地方の大学にあえて留学してもらうには、まずその地に来てもらい、その風土に親近感をもってもらうことが大切です。この「Enjoy YGU」に参加した学生が母国の大学に戻り、山梨学院大学を留学先に選んでくれるように啓発してくれることを期待しています。
 このほかに、本学の強みの一つであるスポーツを通して、国際的な交流となる「Enjoy YGU-Sports」も企画中です。
 次に、提携大学の拡大です。このコロナ禍にあっても、オンライン会議やメール等を活用し、各国の大学と提携を結ぶ活動をしてきています。いずれの大学も、この難しい環境の中で、国際交流を継続したいと考えていらっしゃるようで、オンライン会議も熱心な内容になっています。そして、山梨学院大学では、この2年の間に以下の18の大学と提携を結ぶことができました。

 

 このほかに、イギリスの名門オックスフォード大学の学生を本学にインターンシップとして迎える準備も進めています。また、イギリスのもう一つの名門校であるケンブリッジ大学とも機会を見つけて連絡を取り合っています。
 ネット等で簡単に国際交流できる今でも、対面の国際交流には何ものにも代え難い価値があります。このコロナが落ち着いた暁には、いま構築しているネットワークを活用し、次世代を担う若者たちに実際に対面で国際交流してもらいたいと願っています。

 

6.結びに

 以上、コロナ禍でもなお歩み続ける山梨学院大学の国際交流の様子についてお話してきました。この交流の歩みの両足のつま先は、いったいどこを向いているのでしょうか。私は、国際交流の歩みは二つのゴールに向かっていると思っています。
 一つは「世界平和」です。世界の人々が適正に交流することで、相互理解や相互協力を効果的に実践でき、紛争や社会不安をなくし、安穏なグローバル社会を実現できると信じています。
 もう一つは「自己理解」です。私たちは交流を通して他者を理解するとともに、その比較から「私」という自己を理解することにもなります。それはまるで、天文学者が何億光年も先の星を調べることで、この地球を理解するのと似ています。
 山梨学院大学は学生や教職員のみならず、未来を担う子どもたちを含む地域のみなさんと共に国際交流の歩みを進めていきます。そして本学が、山梨県の、そして日本の国際交流のHUB(ハブ)としての役割を担えるようになったならうれしく思います。この場をお借りし、みなさまのなお一層のご理解とご協力をお願い申し上げます。