クールな やまなしへ
毎日新聞No.607【令和4年1月30日発行】
「クール・ブリタニア」という言葉をご存じだろうか。1990年代にイギリスで生まれたこの言葉は、若者によるアートやファッションなどの文化を表すものとして国のブランド戦略にも用いられ、イギリスのクールな(カッコいい)イメージづくりに大きく貢献してきた。我が国でも、2019年に「クールジャパン戦略」が策定され、外国人に日本の魅力をアピールし共感を得ることを通じて日本ファンを増やすことにより経済成長につなげていく取り組みが推進されている。
一方、外国人にとっての日本の魅力といっても、神社・仏閣や工芸品、能や歌舞伎といった伝統的なものから、アニメやマンガ、ゲームなどのポップカルチャーまで千差万別である。こうした多様な魅力を「入り口」としながら日本の奥深さを伝えていくことで、さらに日本への興味や関心を深めてもらう戦略だ。
平成29年度につくられた「文化芸術基本計画」によると、文化芸術には、豊かな人間性を涵養し,創造力と感性を育むとともに,伝統文化を尊重する心を育てる「本質的価値」と、それを経済発展や多様な価値観の形成や相互理解に活かす「社会的・経済的価値」がある。つまり、日本文化の奥深さを発信していくためには、社会的・経済的な価値の基盤となる文化芸術の本質的価値を創造、発展し継承していくことが不可欠なのである。
山梨県では、令和元年度に「山梨県文化芸術推進基本計画」が策定され、「文化芸術の振興による豊かで活力ある地域社会の実現」を目指して、地域づくり、環境づくりと人づくりを三つの柱として掲げている。それは、感性の豊かな人材を育むこと、そのための芸術文化に触れる環境を整えること、そして価値観の多様性を認め、それを地域経済の活力につなげていくことのできる社会を築いていくことといえるだろう。
今日、新型コロナの影響により、地域の芸術文化活動の社会的・経済的な価値を発揮する機会が大幅に制限される日々が続いている。その中でも、私たちひとり一人が文化芸術を身近に感じることで、豊かな人間性や創造力、感性を育む機会が失われることがあってはならない。クリエーティブで魅力あふれるクールなやまなしは、きっとその先にあるのだから。
(山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤 文昭)