さりげないおもてなし


毎日新聞No.608【令和4年2月6日発行】

 1月半ばに、長野県のJR中央線富士見駅を訪れたときの出来事。ホームには雪が残り、朝の7時前厳冬の寒さである。そんな中、寒さのためかトイレに行きたくなり探したが、なんと有人駅なのに駅構内にはなく、「町営のトイレがホーム脇にあるのでそちらをお使いください」との張り紙が。そこで一度屋外に出て町営のトイレに入ったが、そこでびっくり。なんと暖房便座でいわゆる温水洗浄機能付き。
 マイナス11度の寒空の下、公営のトイレには期待するまでもなかったのに、こんな温かいもてなしを受け、大感激。加えて、説明書きは英語、韓国語などで併記され、洗浄便座になじみのない外国の方でも理解できる工夫が。インバウンドも意識しての厚遇だろうか。ちなみに、甲府駅周辺では、比較的新しい南口広場のトイレには暖房・温水洗浄便座があるが、北口広場のトイレには設備がなく、甲府駅改札内のトイレにもない。いうまでもなく、人が集まる場所において、トイレの快適さは特に女性から重要度が高い。

 それから日後、帰宅時のもうひとつの出来事。身延線のワンマン電車に乗っていて無人駅の甲斐住吉駅に到着した際に、運転士さんが「どなたか5000円札の両替ができませんか」と乗客にアナウンスしている場面に遭遇。両替できる乗客はいないようだったが、そこに沿線の女子高校生のグループが現れ、みんなで1000円札を出し合って両替が成立、というチームでのファインプレーが。両替が必要になったこの乗客は東京方面から来たようでスイカ(Suica)が利用できず現金精算となったが、この方も周囲の乗客もほっとしたのでは。

 立春を過ぎたとはいえ、まだ一年で最も寒い時期であり、また、コロナ禍の換気のためか、それとも節約か、車内温度が低めの気がする。その中でも、このよう地元の人たちのさりげな「おもてなし」経験、少しでも訪問者の心温かく、その土地よい思い出につながれば、と願っている。

(山梨総合研究所 専務理事 村田 俊也)