Vol.283-2 自治会を取り巻く今後のコミュニティづくり


公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 渡辺 たま緒

1.はじめに

 「自治会は今後、どうあるべきか」-。筆者はこれまで、「自治会の課題である、担い手不足の解消や負担軽減のためには、NPO団体や学生と連携・協働することが必要」との仮説の下、アンケートやヒアリングなどを重ねた結果、連携の可能性はあることが見えてきた。その実現のためにはまずは関係者が一堂に会するプラットフォームと、自治会とNPO団体や学生をつなぐ役が必要だという結論に至り、現在、その取り組み方法を模索している。
 一方で、自治会の今後の方向性としては、これまで市町村単位で横並びの取り組みが多かったが、ライフスタイルも多様化する時代、同じ市内でも自治会の構成世帯や地域の特徴、住民の想いを確認し、地域に合わせた自治会施策が必要なのではないかという新たな仮説も生じている。
 今回は、各自治会に合わせた活動内容と自治会を改革する必要性について考察し、持続可能な地域づくりにつなげる参考としたい。

 

2.真の問題は何?

 自治会の問題は大きく分けると、1.高齢化による自治会機能の限界、2.担い手不足、3.行政からの協力依頼の負担増-とされており、これは全国共通だ。その解決に向けて行政も負担軽減や自治会加入率増加に向けた施策を模索している。
 筆者もこれまで実施したアンケート調査などから、担い手不足などの課題を挙げ、その解決に学生やNPO団体との協働を取り上げ、自治会の活動をNPO団体や学生が“手伝え”ば、役員負担が軽減されるという短絡的な考えで今後の在り方を検討してきた一人だ。
 しかし、自治会活動が機能しているところへのヒアリングを重ねると一つの疑問が生じてきた。機能している自治会は、担い手不足や負担増といった言葉が出てこないのだ。自治会長の負担が少ないわけではないはずなのだが、周囲の協力も多く、精神的な負担が軽減されているとも言える。
 真の問題は果たして負担増による担い手不足なのだろうか?
 このことについて、アンケート結果やヒアリング、全国各地の報道、文献調査などで得た結果を示して考えていきたい。

 

3.機能不全の自治会に起きたトラブル

 以前のアンケートで「課題が多い」とした自治会に、アンケートの自由意見やヒアリング、報道などからトラブルを確認し、以下の4点にまとめた。

  1. 「認知症が疑われる人が自治会長を歴任」:甲府市中心部の自治会である。甲府市中心部は、高齢化が市内で最も進行している地域である。ヒアリングに応じてくれた自治会長は、定年退職したことをきっかけに地域の自治会長を引き受けたが、会議に出た際に、明らかに認知症だとみられる人が出席していたという。「話も通じず、これで本当に地区住民に話が通っているのかこちらが不安になったが、何年経っても自治会長が交代する気配はない。そんな人に自治会長を歴任させる地域住民にも問題があるのではないか」と自治会長は指摘する。
  2. 「土地開発に関する書類に押印」:地域で土地開発が行われる際、県や市町村への開発許可申請が必要となり、地区住民の説明会や協議を実施しなければならないケースがあるが、ある自治会では、開発業者が「自治会長の印があればよい」と自治会長に持ち掛け、その後、住民が知るところとなり騒ぎになったというトラブルが起きたという。
  3. 「高齢者の暴走」:アンケートで寄せられた自由意見や筆者の以前のレポートを見たという全国の方からいただいた声にも同様の話がいくつもあった。「高齢者が自治会内での会議等で暴言を吐く」、「自治会で出している助成金(老人会、防災会、体協)が会計報告もなく、お小遣い状態になっている」、「自治会費を使い込んでしまう」、「勝手に個人情報を持ち出す」、「旧態依然の昭和のままの組織から変化しておらず、いまだにヒエラルキー構造があり、高齢者は活動を手伝わないにも関わらず我物顔でおり、若者や女性の意見が通りにくい現状がある」、「自治会長になった際になんとか今後の在り方を検討しようと持ち掛けたが、高齢者が阻止する」等々であり、中には自治会費を使い込んでいるケースも見られた。
  4. 「自治会長の暴走」:三重県津市で元自治会長が自治会長の任期中に市から補助金をだまし取ったとして、逮捕、起訴されるといった事件にまで発展したケースが記憶に新しいところである。この事件では、ほかにも行政への協力を盾に、職員に掲示板の清掃をさせたり、自治会長が懇意の飲食店を市の親睦会に使わせたり、さらには市の人事にも介入するといった暴挙が次々と明らかとなり、市職員も155人が処分される事態となった。事象の大小はあるものの全国でも似たようなケースが散見されている。

 上記から、担い手不足や負担増を抱えた自治会が住民にもたらしたもの、それは情報共有の欠如や、特定の人の暴走、自治会費の流用などであったといえよう。
 このようになった要因は、つまるところ自治会の運営や活動に実質的に参加していない地域住民の無関心であり、これこそが自治会の真の問題なのではないだろうか。

 

4.取り組みを始めている自治会

 では、機能している自治会はどのような取り組みをしているのか、甲府市を中心にヒアリングをした内容を記していきたい。

<健康づくりに特化、見守りの仕組み等(甲府市 A自治会)>

 甲府市中心部の自治会では、大学の教授であった鈴木氏が退官後に自治会長になり、健康に特化した取り組みを始めた。もともと大学で持続可能な社会のあり方を研究していたが、退官後に地域の高齢化率の高さを目の当たりにし、「地域のSDGsを考えた」という。高齢者が健康であり続けることが社会保障の面からも若者の負担を減らせるとし、健康づくり教室による自治会活動の推進を始めた。といっても、「専門家を呼んだり、地域住民や若者の協力を得るとなれば調整も必要となり、互いに負担が増す」と、YouTubeで専門家が投稿した映像を地域の施設で流す形式をとっている。この方法であれば誰にでも簡単に操作できるため、他の自治会にも勧めやすい、と他の自治会にも活動を広げている。

写真1 健康づくりに特化している自治会の取組風景

 

<防災をきっかけに(甲府市 B自治会)>

 この自治会は地域内に流れる2つの川の氾濫が危惧されるエリアに位置していたため、自治会長の小林さんが会長職に就いた際、災害対策を重視した取り組みからスタートさせたという。
 皆の命を地域で守る必要性を訴え続け、避難路や備蓄倉庫といった資源のほか要救助者およびその方の介助(手助け)者を書き込んだ独自の防災マップを作成するとともに市への陳情を続けた。こうした活動から高齢者だけでなく、子どもも含めた地域住民一体の見守り態勢へと発展しつつあるという。
 また、誰もが気軽に話せる場づくりとして公民館を開放し、近年ではパソコンやスマートフォン操作が苦手な高齢者のために新型コロナウイルスワクチンの予約手続きができる場としたり、まちづくりの研究をしている学生などに話すといった地域外の若者との交流の場にもなっている。

写真2 防災をきっかけに取組をしている自治会

 

<フラット型自治会づくりと協働の確立(甲府市 C自治会)>

  自治会長の深澤さんは、10年前に就任したが、その際、「誰も興味を持つ人もなく、自治会が機能していない」と感じたという。
 そこでまず着手したのが、「自治会は大きな家族」との位置づけによるフラットな関係づくりだ。「トップダウンでは新しい発想は生まれてこない」とし、人の意見をしっかりと聞くことを心掛けるとともに、2人の副会長のうち、1人は自身より年配者を選び、「自分が横暴にならないように見ていてほしい」と頼んだ。また、他の役員にも会長自らが頭を下げて「一緒にまちづくりをやってもらいたい」と呼び掛けた。同時に自治会長の自宅に自治会部屋を設置し、誰でもいつでも来られるようにしたという。
 避難訓練に関しては、地域住民の安全・安心づくりを目指して、3~4戸に1人の互長という見守り役を設置した。新たな役を創設することへの住民負担については、「3~4戸ならば、何とかできる」との同意も得て、スムーズな導入が実現できたという。これを機に住民が身近な互長に連絡・相談し、最後に自治会長へ、という流れもでき、住民のコミュニケーションも円滑になったという。
 一方で、交流や地域活動を促進するための仕掛けも作った。ソフトボールチームを立ち上げると、練習や試合前後に地域の清掃活動を行った。人知れず清掃活動や花の植栽といった地道な活動をしていた住民を対象にした表彰制度をつくり、「地域をよくしてくれようとするあなたの姿はちゃんと見ています」という想いと感謝を示すことを心掛けたという。
 感謝はその人の幸福度を上げることにもつながるため、そういった意味では、住民の幸福度を向上させる仕組みを創ったと言えるだろう。
 このようにして10年経過した昨年度、助け合いの推進組織を創設した。これは行政が実施する「高齢者施策」の見守りや支え合いを全住民にまで広げ、子どもの預かりなども盛り込んだ相互扶助制度だ。
 サポーターを募った際、「協力してもいい」「これができる」と35人が自らの意思で手を挙げた。この数の多さには、自治会長自身が驚いたという。幅広い年齢層が協力を申し出るとともに、「今は、仕事が忙しくて登録できないが、数年後には必ず登録する」といった声も寄せられており、「自分たちの地域は自分たちで創っていく」という住民の意識が見える形へと発展している。

 

写真3 フラット型から始めた自治会
写真4 「地域ささえ愛」サポーター募集のチラシ(左)と活動の様子(右)

 

<「居場所づくり」から地域活性へ(秋田県能代市 D自治会)>

 能登裕子会長は15年前に自治会長に就任以降、「地域に住む人が暮らしやすく、輝ける場所をつくる」という目標を掲げて活動している。その取り組みの第一歩は自身が営むレストラン内にレンタルスペースを設け、人が集う場所をつくることからだった。
 このレンタルスペースは、近所の方々が趣味で集まる場、ワークショップの場などに活用され、そこで完成した「作品」を店に展示するなど交流の場づくりを進めている。また、学校が夏休みとなる期間には、県外から訪れる大学にも活動場所として提供し、誰でも居られる場として定着させた。
 そして、そこから派生し、マルシェも開始している。初めは小さなものだったが、次第に活動の輪が広がり、大学生からお年寄りまで多くが出店、来場する恒例行事となっている。
 能登会長は、「自治会としては、高齢化が進んで限界が来ている。体力的に疲労する仕事は難しいが、できるものをできる人が必要最低限の機能を持たせて継続していければいいのでは」と、外部の協力者である異業種や女性、若者の力で地域づくりをすすめている。

写真5 集う場づくりやマルシェの様子 夢工房咲く咲くHPより

 

5.事例から見える共通点

 機能している自治会の事例に共通しているポイントを確認していきたい。1.自治会活動の意義を自治会長が認識していること、2.明確なビジョンの下、自治会長が中長期的な視点を持って取り組んでいること、3.地域住民が気軽に集まる場所をつくっていること、4.周りを巻き込む活動をしていること、である。
 これをビジネスなどでよく使われる「WILL/CAN/MUST」というフレームワークにも当てはめて考えてみた。

 

図表1 「WILL / CAN / MUST」のフレームワーク

 

 図表1のフレームは、キャリアプランの作成などで使われるもので、WILL(実現したいこと)、CAN(できること)、MUST(やるべきこと)を示し、3つの輪が重なる部分に満足感が生まれ、その重なりが大きいほど満足感が高まるというものだ。
 A~D自治会の例を「WILL/CAN/MUST」のフレームに当てはめたものが図表2である。A自治会は、高齢者を健康にすることが自治会のビジョンであり(WILL)、そのためには高齢者の健康づくりが必要で(MUST)、健康づくり教室を自主開催している(CAN)。その結果、「地域SDGsの実現」に向けた街づくりが進められている。
 B自治会は、皆を守る街をつくることが自治会のビジョンであり(WILL)、そのためには防災に資源や情報の確認・共有、住民同士のコミュニケーションが必要であり(MUST)、防災資源マップの作製や要救助者の共有、気軽に集まる場づくりをしている(CAN)。その結果、「皆が守り守られている安心感」が創出される街づくりが進められている。
 C自治会は、フラットな関係による大きな“家族”の街が自治会のビジョンであり(WILL)、そのためには、住民のつながりを高める必要があり(MUST)、コミュニケーションを充実させる仕組みを創出している(CAN)。その結果、「居心地の良い街」づくりが進められている。
 D自治会は、住む人が暮らしやすく輝ける街をつくることが自治会のビジョンであり(WILL)、そのためには交流の場づくりが必要であり(MUST)、スペースの提供やマルシェの開催を行っている(CAN)。その結果、「地域の活性」が期待できる街づくりが進められている。
 このようにして、例に挙げた自治会(地域)は、実現したいことが定まっており(WILL)、できること(CAN)、やるべきこと(MUST)の3要素が明確で、その重なった部分の“核”が地域を特徴づけている。だからこそ、地域住民のモチベーションも上がり、スムーズな活動へとつながっている。
 これは、前述にそもそもの問題とした「無関心」と対極にあるといえるだろう。

 

図表2 機能している事例の4自治会から見える地域の特徴

6.自治会診断

 この「WILL/CAN/MUST」のフレームを地域によって異なる実情にどう対応させるかについて考える。
 まずは、私たちが住んでいる地域の自治会をじっくり“診断”するのはどうだろうか。
 図表3は、筆者がアンケート調査やヒアリングを基に、縦軸を「活動」、横軸を「自治会との関係」として地域をタイプ分けした図である。

図表3 自治会を診断する際のタイプ分け


 この4象限でそれぞれの地域を確認していくと、「自治会のあり方そのものを検証すべき地域」か、「新しい参加方法の創出が必要な地域」なのか、「地域のビジョンが必要な地域」なのか、もしくは「既にモチベーション高く取り組んでいる地域」なのかが見えてくるだろう。
 そのうえで、超高齢化地域なのか、子育て世代が多い新興住宅地なのか、アパートやマンションが多い地域なのかなど、地域の特性を鑑みれば、例えば高齢化地域では、「運動会」ではなく「防災・防犯」に特化した活動に絞る、子育て世帯が多い新興住宅地域は、一般的に孤立すると言われる核家族世帯のサポートを自治会活動の中心とする、大家が代表して加入しているアパート・マンションが多い地域では、加入方法の見直しとともに、一人暮らしの学生が自治会活動に参加しやすい仕組みやマンション組合との協働を模索する、などのように、ビジョンや活動内容を考えやすくなるだろう。

 

7.インターミディエーター(つながりを創る人)の育成

 これらの自治会の診断から機能化への道筋を探る仕組みとして、地域のインターミディエーターの起用を提案したい。インターミディエータ―は、地域住民と自治会、地域住民と居場所、地域住民と地域住民などのつながりを創る人であり、地域の実情を調べ上げ、自治会を正確に診断し、皆で考える場を作るのがその役目となる。
 まずは、自分たちの地域をどんな街にしたいのかをゆっくり語り合うことから始めてみてはどうか。そのためには、皆が気軽に立ち寄る場が必要だ。山梨県に限って言えば、地域には自治会が管理する公民館が多く存在する。そこをブックサロンにしたり、物々交換の場にしたり、地域住民が講師となる講座を開くのもよいかもしれない。
 このように、インターミディエーターを育成し、気軽に意見を言い合える関係をつくることから、自治会リバイバルの道をスタートしてはどうだろうか。

 

8.まとめ

 今回の考察で、真の問題点として住民の無関心が自治会の衰退を招いていることを明らかにし、再生には住民の「WILL/CAN/MUST」が重要であることを提示した。その中でつながりを創る人としてインターミディエータ―を提案し、今後、甲府市において育成を試みる予定である。こうした実践を通じて地域のインターミディエーターの有効性を検証していきたい。