Vol.284-2 自分らしく働くための副業・複業支援のしくみづくりに向けて ~WEBアンケート分析を通じた仮説の構築~
公益財団法人 山梨総合研究所
調査研究部長 佐藤 文昭
1.はじめに
令和3年度より、山梨県の補助事業として、様々な地域課題の解決に向けた事業化を目指す「やまなし未来共創プロジェクト(以下、「本プロジェクト」という。)の取組みをスタートした。今年度は3つのテーマを設定し検討を進めてきたが、その元にある大きなテーマとは、「だれもが働くことで豊かさが得られる社会を目指して」であった。この「だれもが」とは一体誰を指すのかによって、様々な問題の捉え方やその解決に向けた取組みが考えられる。
山梨労働局が公表した令和4年3月の就職内定状況によると、大学、短期大学及び専修学校等の就職内定者に占める県内就職内定者数は44.5%、大学のみでは29.7%と低迷しており、山梨県で働くことが必ずしも若者が求める環境ではないことがうかがえる。
一方で、総務省が公表した人口移動報告によると、令和3年の山梨県人口は686人の転入超過に転じている。20代は県外での就職などにより1,200人を超える転出超過ではあるものの、その他の世代では転入超過となっている。
表 1 令和3年における山梨県の転入超過数(年齢別)
この転入超過は、コロナ禍でテレワークが進んだことや安全・安心へのニーズの高まりなど、様々な要因が考えられるが、ライフワークバランスを考えると地方で暮らすことが一つの選択肢となり得る時代になってきたといえる。ただそれは単に働く環境が整ったということだけではなく、自分自身のキャリアについて改めて考え直す機会となっているのかも知れない。
こうした状況を踏まえ、都市部で働く社会人に焦点を絞り、働くことで豊かさが得られることの意味や地方との関わりに関するニーズについて明らかにすることにより、今後の関係人口や移住定住の増加につなげていくためのヒントが得られるのではないかと考えた。
そこで、20~50代までの働く世代を対象としたWEBアンケートを実施し、東京と山梨における仕事を取り巻く状況について把握するとともに、都市部の社会人が地方で新たに自分らしく働く可能性について、「副業・複業」という視点から考えてみたい。
2.若手社会人は、将来のキャリア形成になにを悩んでいるのか?
本プロジェクトの共創テーマの一つである「若者が自己実現できる社会を創ろう!」は、山梨でやりたいことを仕事にする機会がなく、結果として就職と同時に多くの若者が山梨を離れてしまう、また、山梨で働く若者も、自らの仕事への不満や将来のキャリア形成に対する漠然とした不安を抱いているのではないか、という仮説からスタートした。
今年度実施した東京と山梨に暮らす20~30代を対象としたWEBアンケート[i]によると、東京と山梨のいずれにおいても、自分自身のキャリアについて悩みがある、または悩んだことがあるとの回答は7割超と高く、その中でも東京の割合は山梨よりも1割近く高くなっている。
自分自身のキャリアについて悩みがある、または悩んだことがあるとの回答のうち、その理由として多く挙げられているのが、「やりたいことが分からない」、「自分自身の強みが分からない」、「自分自身のキャリアやスキルが通用するか分からない」の3つである。このことは、対外的にみた自分自身の位置づけが見えないことに対する悩みや不安と捉えることができる。また見方を変えると、自分自身が本当にやりたいことが見えないことで、どのようなスキルや強みを持つべきかが見通せないのかも知れない。
地域別にみた場合、東京では、「自分自身の強みが分からない」、「自分自身のキャリアやスキルが通用するか分からない」や「ロールモデルがいない」といった割合が高くなっている。仕事を通じて高い専門性や高度なスキルに触れる中で、自分の能力に対する自信がなくなってしまうことや、今の仕事がやりたいこととは違うと気づいたものの、何がやりたいのかが分からなくなってしまうことは、多くの社会人が経験することであろう。一方で、ロールモデルがいないということは、従来の終身雇用から転職や起業・副業など、多様なキャリア形成の選択肢が増える中で、自らのキャリアビジョンを描くことの難しさを反映しているといえる。
山梨では「やりたいことが分からない」や「挑戦したいことが今の職場ではできない」の割合が高くなっているが、やりたいことが明確である社会人にとって、必ずしもそれが実現できる環境が整っていないことがうかがえる。実際に、就職をきっかけに人材が県外に流出しているということを踏まえると、新たなことに挑戦できる場をどのようにつくっていくかということが、なにかをやりたいと思う若者が地域に定着する上で大きな課題のひとつであるといえるだろう。
図 2 キャリア形成に関する悩み(複数回答)