農業に興味持つ「きっかけ」を
毎日新聞No.615【令和4年5月15日発行】
近年では、山梨県内の農業生産額がシャインマスカットの人気などにより年間1000億円を超える水準となっている。また、就農を希望する方には自治体などによるさまざまな就農定着支援制度が行われており、新規就農者も年間300人を超える。
一方で、2020年の農林業センサスによると、山梨県の農家戸数は減少傾向にあり、農業労働力の平均年齢は69.9歳と高齢化が進んでいる。このままでは、山梨県の主要産業の一つである農業の衰退が懸念され、農業のバトンを着実に引き継いでいくことが喫緊の課題だ。
就農者を増やすには、まずは農業に興味や関心を持ち、具体的に就農を選択肢として考える人を増やすことが重要となる。そのための「きっかけ」づくりとして、市民農園の活用が考えられる。
市民農園とは、自治体などが開設している小さな面積の農地を利用して自家用の野菜や花を育てるための農園のことだ。山梨県内には法律に基づいて開設された市民農園だけでも86カ所(21年3月末現在)あり、県内各地で農業体験を行うことができる。
家庭菜園や農業に関心がある人にとって、市民農園を利用するメリットは多い。農業に適した土地を整備された状態で借りることができるほか、農機具などのレンタル、農業に詳しい人による栽培方法の指導やサポートなどを受けられる。気軽に農業体験ができることもあり、高齢の夫婦や小さい子どもを連れた親子が農業を楽しむ姿を見かけることもある。また、宿泊施設などが併設された滞在型市民農園では、遠方に住む方でも週末などに滞在しながら農業を楽しむこともできる。
筆者も市民農園を利用したことがある。小さい区画でも作物が順調に育てば食べきれないほど採れる年もあり、自分で育てた野菜を味わうという喜びを得られた。一方で、天候が不順であった年には、不作でほとんど採れないこともあるが、それも農業の厳しさや食べ物の大切さを再認識できる良い経験になったと考えている。
農業に触れることは、市民農園以外にも、子ども向けの収穫体験、学生のアルバイトやインターンシップ、社会人による週末農業など、さまざまな方法がある。山梨で暮らしているからこそ気軽に体験できる身近な農業に、チャレンジしてみてはいかがだろうか。
(山梨総合研究所 主任研究員 櫻林 晃)