テレワークの行く先
毎日新聞No.618【令和4年6月26日発行】
新型コロナウイルスの蔓延は、社会にさまざまな変化をもたらしてきた。手洗いなど消毒の徹底、マスクの着用など、ともすれば面倒で不自由を強いられることをイメージしがちだが何も悪いことばかりではない。
その一つがテレワークの普及だ。テレワークは、これまでも働き方改革(多様な働き方の実現)の一環として推奨されてきたが、あまり普及が進んでこなかった。理由は簡単で、必要に迫られていないからである。「できたほうが便利」という程度では、企業などでもコストをかけてまで積極的に導入しようと考えないのは理解できる。
だが、新型コロナウイルスの蔓延により、企業、特に人口密度の高い都市部の企業は半ば強制的にテレワークの導入を迫られることとなった。実際、内閣府が実施した「第4回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、新型コロナウイルス流行前の2019年12月と2021年9~10月を比較すると、全国のテレワーク実施率は10.3%から32.2%と大きく伸び、さらに東京都では17.8%から55.2%と突出した伸びを見せている。また、企業規模別では、中小企業よりも大企業が、より大きな伸び率を見せている。
気になるのは、今後の展望である。スタジアムでのスポーツ観戦やゴールデンウイークの交通渋滞に見られるように、社会活動や人流は徐々に新型コロナウイルス流行前に戻りつつあるが、テレワークなどのICT(情報通信技術)に関する分野は今度どのような動きを見せていくのだろうか。
近年のテレワーク普及率の増加はあくまで感染症対策に主眼を置いたものであるが、テレワークには業務効率化、柔軟な働き方の実現や満員電車の緩和など、さまざまなメリットがある。また、今回初めてテレワークを導入してみて、そのメリットを実感した企業も多いのではないだろうか。
大企業でテレワークの導入が進んだ一方、中小企業や地方部の企業での導入はまだ道半ばであり、今後は両者の格差を埋めるような方策や、昨今のテレワーク増加の流れを持続させるような施策が求められる。今回のパンデミックを嘆くだけでなく、「災い転じて福となす」精神で、今回整備した社会基盤を今後のウィズコロナ時代にも活かし、より便利で豊かな社会が構築されることを望んでいる。
(山梨総合研究所 研究員 山本 陽介)