公共事業の公共性
山梨日日新聞No.7【令和4年7月23日発行】
「公共事業」と聞いて、どのようなイメージを抱くだろうか。騒音、渋滞、無駄、癒着など悪い印象を抱く人がいるかもしれない。山梨県の公共工事発注額は平成初期がピークであり、その後減少傾向にあったが、近年、ゲリラ豪雨や大雪などの自然災害や笹子トンネルの崩落事故のような老朽化を原因とする事故の多発により、公共事業の公共性たる部分に改めて焦点が当たる中で、国では国土強靭化を図るため令和3~7年度にかけて大規模地震への備えや老朽化対策に15兆円もの予算を配分する予定である。
昭和4年に創業し、舗装工事等を手掛けている丸浜舗道㈱は、バブル崩壊後に企業の存続をかけてガーデニング事業など様々なビジネスを手掛けてきたが、最終的に、同社が最も得意とする舗装工事へと原点回帰し、これまで事業を継続してきた。また、自然災害時には、土砂・がれきの撤去や除雪作業などを行う他、備えとして防災倉庫への備蓄や災害時トイレの常備、防災組織による訓練など建設業界の一員として取り組んでいる。その過程の中で、地域とのつながりを深め、平成26年の大雪時の除雪作業の際には、住民の方から感謝の言葉が山のように届き、地域との結びつきをより強く感じたという。「いただいた税金で山梨のインフラを整備できることに誇りを持っている。誰かの役に立ち、喜んでくれることを感じられる仕事だからこそ、災害や老朽化から生命・財産を守るんだという“DNA”を、建設業の人は持ってる」と代表取締役の小林氏は話す。また、同社グループの出羽建設(株)では、身延町の山の上にある墓地までの道を住民の寄付などを頼りに長年かけて整備し、行政の手が行き届かない地域のニーズに応える道造りも担っている。「地域のために私たちがやらなくては」と胸をはる。
地域における公共事業は、地元住民が多く従事し、地域で生産される地場産業という経済性の側面を持つとともに、広く私たちの生活を支える公共性のあるものであるが、整備がされていて当たり前のような生活を送るなかでは、災害が発生しないと気づきにくい。それゆえ、冒頭に述べた負のイメージを公共事業に抱くのだろう。公共事業について、地域住民・行政・建設業界等で考える機会があれば、より身近に感じられるかもしれない。そして、公共工事に携わる人々の“地域を守る”という想いを込めたDNAをつなぐ地場産業があるからこそ、私たちが生活できていることを忘れてならない。
次回の地元企業の魅力発見サロンは8月8日。ゲストは(株)DEPOT宮川史織氏。詳細は山梨総合研究所HP(https://www.yafo.or.jp/2022/07/27/17356/)まで。
(山梨総合研究所 主任研究員 廣瀬 友幸)