ヤングケアラーは身近に


毎日新聞No.620【令和4年7月24日発行】

 以前から、気になっているCMがある。ACジャパンで制作した「ヤングケアラー」をテーマとしたもので、中学生の男の子が病気の母親の介護や家事に追われ、野球部の練習にも参加できず、宿題の最中、ボールを握りつつ寝てしまう、という何とも切ない内容である。

 「ヤングケアラー」とは、一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもとされ、近年注目されるようになってきた。2020年末の国の抽出調査によると、「世話をしている家族が『いる』」回答者を「ヤングケアラー」とみなした場合、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%が該当するという。ただし、当事者で自分が「ヤングケアラー」だという認識を持っている割合は1516%に過ぎない。
 「ヤングケアラー」は一般的な中高生と比べて、ひとり親家庭や健康状態がよくない傾向、また、学校を欠席する割合が高い一方で、悩みや困りごとの相談相手がいるとの回答率は低い。なかなか、当事者の困窮する姿は見えにくいのが実情で、近くにいる可能性が高いにもかかわらず、中高生で「ヤングケアラー」について「聞いたことはない」との回答が8割を超えている。
 行政や民間では、さまざまな支援策が用意されているが、当事者まで届かないケースも数多くあろう。私たちが気張らずともできることは、コミュニケーションが希薄になった現代において、例えば、周囲の子供たちに関心を持つ、見守っているというサインを送る、関係機関につなぐなど「おせっかい」をする、といったことではないだろうか。

 紹介したCMであるが、最近、続編が放映されている。近所のおじさんが男の子が問題を抱えている様子に気がつき「周りの人を頼っていいんだよ」と話し、男の子に微かな表情の変化が生まれ、野球部の友人とキャッチボールをする様子で終わる、というちょっとほっとする展開に変わった。
 誰もが十分に教育を受けることができる環境をつくることは、資源のない日本において命である。

(山梨総合研究所 専務理事 村田 俊也)