Vol.288-2 山梨県内の結婚事情
公益財団法人 山梨総合研究所
専務理事 村田 俊也
1.はじめに
人口減少に各自治体が悩んでいる。総合戦略の策定などを通じて人口減少の歯止めに懸命であるが、国全体で見ればゼロサムゲームである子育て世代の移住は、各自治体同じような施策が実施され、成果を上げるのはなかなか難しい。
歯止めをかける根本的な取り組みは出生率の向上であるが、その前提条件のひとつとなる婚姻件数は減少傾向である。そこで、今回のレポートでは婚姻件数を増加させるにはどうしたらよいか、山梨県を中心に結婚を取り巻く状況について考えてみたい。
2.結婚適齢期人口、婚姻件数・婚姻率、平均初婚年齢
婚姻件数については、適齢期と呼ばれる年齢層の人口や、対象人口当たりの婚姻件数を示す婚姻率、また、結婚時の年齢などに左右される。ここでは、こうしたデータを確認する。
(1)結婚適齢期人口
まず、適齢期と呼ばれる年齢層の人口の動向であるが、ここでは適齢期を広めに捉え、20~39歳の人口について確認する。
平成2年から令和2年までの30年間をみると、全国、山梨県とも期間前半は増加傾向をたどったものの後半は減少に転じており、男女合計では全国で790.3万人(23.5%)、山梨県で7.5万人(33.7%)、各々減少している。
男女別にみると、30年間に全国、山梨県いずれも男女とも減少しているが、山梨県は全国と比べて特に女性の減少率が大きくなっている。
図表 20~39歳人口の推移
(2)婚姻件数・婚姻率(人口千人当たりの婚姻件数)
次に、婚姻件数・婚姻率の動向であるが、全国で見ると、婚姻件数は昭和45年から昭和49年にかけて年間100万件を超えた。しかし、その後は減少傾向となり、昭和53年以降平成22年までは年間70万件台で増減を繰り返しながら推移し、平成23年以降は年間60万件台となり、令和2年は52万5,507件と、過去最低となった。また、人口千人当たりの婚姻件数である婚姻率も昭和40年代はほぼ10.0以上であったが、その後低下傾向をたどり、令和2年では4.3と過去最低となっている。
一方、山梨県も同様の傾向にある。昭和55年以降の動きをみると、当時婚姻件数は4,695件、婚姻率は5.9であったが、令和2年では3,182組、4.0となっている。対昭和55年の比率でみると、婚姻件数、婚姻率とも0.68と減少、低下しているが、全国も各々0.68、0.64となっており、全国と比べて婚姻率は低いものの、婚姻率の差は0.8から0.3に縮まってきている。
図表 婚姻件数及び婚姻率の年次推移
図表 山梨県内婚姻件数の推移
(3)平均初婚年齢
続いて、平均初婚年齢であるが、全国では、昭和50年に夫27.0歳、妻24.7歳であったが、晩婚化が進行しており、令和2年で夫が31.0歳、妻が29.4歳となっている。ただ、ここ数年ほぼ横ばいと変化もみられる。
一方、山梨県は、昭和55年に夫28.3歳、妻25.6歳であったが、令和2年には各々31.4歳、29.5歳と、全国同様に上昇はしているが、ここ数年は上昇が鈍ってきている。
なお、昭和55年との対比でみると、山梨県は夫3.1歳、妻3.9歳の上昇、全国は夫3.2歳、妻4.2歳の上昇となっており、全国と比べて夫の平均初婚年齢が高く、妻の上昇幅がやや低いことがうかがえる。
図表 平均初婚年齢と出生順位別母の平均年齢の年次推移
図表 平均初婚年齢の推移
3.結婚をためらう理由
このように適齢期人口が減少し、婚姻率が下がり、平均初婚年齢が上昇していることから、婚姻件数は減少傾向をたどっている。このなかで、適齢期人口の減少は出生数が減少していることが原因であるが、婚姻率が低下し、平均初婚年齢が上昇しているのはなぜだろうか。
令和元年版少子化社会対策白書によると、結婚について、「いずれ結婚するつもり」と答えた未婚者(18~34歳)の割合は、平成27年調査で男性85.7%、女性89.3%となっており、ここ30年間をみても若干の低下はあるものの、男女ともに依然として高い水準を維持している(平成27年、国立社会保障・人口問題研究所調査)。
図表 未婚者(18~34歳)のうち「いずれ結婚するつもり」と答えた者の割合
では、なぜ独身でいるのか、未婚者(25~34歳)に理由を尋ねると、男女ともに「適当な相手にめぐり会わない」が最も多く、次いで、男性では「まだ必要性を感じない」、「結婚資金が足りない」、女性では「自由さや気楽さを失いたくない」、「まだ必要性を感じない」となっている。また、過去の調査と比較すると、男女ともに「異性とうまくつきあえない」という理由が増加傾向にあり、女性では「仕事(学業)にうちこみたい」、「結婚資金が足りない」という理由も増加傾向にある。
図表 独身でいる理由
一方、平成30年に内閣府で実施した意識調査によると、結婚を希望している者で結婚していない20~40歳代の男女に、どのような状況になれば結婚すると思うかを聞いたところ、「経済的に余裕ができること」が最も高く、以下、「異性と知り合う(出会う)機会があること」、「精神的に余裕ができること」、「希望の条件を満たす相手にめぐり会うこと」と続いている。
図表 結婚に必要な状況
また、今結婚していない理由として「適当な相手にめぐり会わない」と回答した者に、その具体的な内容を聞いたところ、「そもそも身近に、自分と同世代の未婚者が少ない(いない)ため、出会いの機会がほとんどない」が最も高く、次いで「そもそも人を好きになったり、結婚相手として意識することが(ほとんど)ない」、「同世代の未婚者は周囲にいるが、自分が求める条件に見合う相手がいない」と続いている。
図表「適当な相手にめぐり会わない」の具体的内容
4.婚活支援事業
前述のように、全国と比べて多少傾向に違いはみられるものの、山梨県でも適齢期人口が減少し、婚姻率が低下するとともに、平均初婚年齢が従来と比べて上昇しており、今後もこうした状況が続くと、婚姻件数の減少に歯止めがかからない。
このため、行政では、さまざまな視点から結婚促進策を講じているが、ここでは、山梨県や市町村の施策のいくつかを紹介する。
(1)山梨県の施策・事業(その1)やまなし出会いサポート事業
山梨県では、当事者による、より良い結婚活動(いわゆる「婚活」)を後押しするため、婚活に関する情報をワンストップで提供するWebサイト“婚活やまなし”を立ち上げるなど、子育て支援局を中心に多彩な施策を実施しているが、その中核事業のひとつとして挙げられるのが、「やまなし出会いサポート事業」である。この事業は、結婚を希望する男女が会員登録し、やまなし出会いサポートセンターの専用サイトにおいて異性のプロフィール情報を閲覧し、会ってみたい候補者を見つけたら、約70名のボランティアの出会いサポーターが日程調整を行い、お引き合せを行うというものである。平成27年1月に、当時愛媛県にて実施されていた婚活仲介施策を参考に、(一社)山梨県法人会連合会に運営委託して甲府窓口において事業を開始し、平成30年には富士吉田支所を設置した。
令和4年6月末の延べ登録者数は2,689人、うち男性は1,719人、女性は970人であり、成婚数は111組となっている。会員は30代、40代が中心で、なかには山梨県外の方もおり、県外から山梨県へ結婚を機に移住する例も出ている。
成婚率を上げるため、同事業を実施しているやまなし出会いサポートセンターでは、職員への情報提供を行っていただく協力企業の拡大を進めるとともに、AIを活用したマッチングシステムの運用、インターネットを活用した自宅からのプロフィール検索など、様々な取り組みを実施している。ただし、女性会員が少なく、また、受け身の姿勢が目立つことが課題となっている。
《婚活やまなし ホームページ》
《やまなし出会いサポートセンター ホームページ》
図表 やまなし出会いサポート事業 登録数、成婚数
(2)山梨県の施策・事業(その2) その他の施策・事業
山梨県では、やまなし出会いサポート事業以外に、主な事業として次の事業も実施している。
①婚活応援隊の募集
婚活応援隊は、県や市町村が実施する結婚支援事業を、結婚を希望する方やそのご家族などに知らせることを通じて結婚への活動を支援する個人ボランティアで、令和4年6月末現在、90人が登録している。
②婚活応援企業の募集
婚活応援企業は、従業員に対し、県や市町村が実施する結婚支援事業の情報提供や婚活イベント・セミナーの実施等を通じて結婚をサポートする企業で、社会貢献活動として実施している先が多く、令和4年6月末現在、46社が登録している。
③縁結びサポーターの募集
縁結びサポーターは、独身者の出会いの場となる出会いイベントの企画・運営を行う企業・団体で、認証を受けると、婚活イベントを実施する際、県公式婚活サイト「婚活やまなし」において、婚活イベントの情報を発信することができるほか、やまなし出会いイベントメールマガジン登録者へメルマガ配信や、県が主催する婚活イベント企画団体等に向けた研修会に参加することができる。令和4年6月末現在、72企業・団体が加盟している。
④若者応援ネットワーク事業の実施
結婚を⾃主的に応援する県⺠(婚活応援隊、出会いサポーター(やまなし出会いサポートセンターにおけるお引き合わせ仲介人))、企業(婚活応援企業)、団体(縁結びサポーター)、市町村、県でネットワークを構成し、情報交換や研修を通して、未婚の男女の結婚を応援する事業を実施している。
⑤関係イベントの実施
上記のほか、当事者を対象とした結婚へのスキルアップセミナー、親世代向け結婚支援セミナー、婚活応援フェアなど、独自イベントも実施している。
(3)市町村の施策・事業
県内の大部分の市町村では、人口減少への対応が喫緊の課題となっており、ほとんどの市町村で婚活支援に向けたさまざまな事業が実施されている。
総じてみると、結婚相談所や結婚相談窓口の設置、当事者の婚活活動に対する費用助成、婚活イベントの実施・実施助成、結婚後の新生活に関する費用助成などが多い。
なお、もっとも古くから実施されてきた婚活支援事業のひとつである結婚相談所や結婚相談窓口の設置であるが、職員数の削減が進み維持が難しくなるなかで、山梨県が豊富な登録者数を抱えるやまなし出会いサポートセンターを設置したことから、業務を同センターに実質的に委ねる傾向にあり、相談所や窓口の廃止に関わる住民に対する代替支援として、15市町村において同センターの登録料(2年間、1万円)の全額もしくは半額補助が行われている。
図表 令和4年度市町村結婚支援事業一覧表
(4)民間事業者・NPO
婚活支援事業は、自治体だけでなく、民間事業者やNPOも大きな役割を果たしている。山梨県内では、お相手紹介事業(マッチング事業)・婚活イベント等を実施している事業者数は、全国展開をしている大手事業者、山梨県を拠点にしている地場事業者合わせて20~30先と想定されるが、大半は個人経営的な小規模の事業所で、事実上4~5事業所の寡占状態にあるといわれる。
お相手紹介事業は、登録者数やお引き合わせ件数の多寡による顧客満足が重要であり、全国展開の事業者は県内登録者数の少なさから事業が停滞気味との見方がある一方で、県内在住者の紹介に特化した地元密着の運営を行っている先ではシェアを伸ばす先もみられる。
また、きめ細かな対応も事業伸長の決め手の一つとなっており、単にお引き合わせを行うだけでなく、事業所が主導するプッシュ型のお相手選定や、会食場所や服装選びのノウハウ・テクニックの伝授、お引き合わせ後のアフターフォローなどを通じて、顧客を増やしている先もみられる。
なお、近年マッチングアプリの利用が増えてきているが、信用面で社会の十分な認知が得られているとはいえず、既存事業者は実績の積み重ねによる口コミが顧客獲得の有力な手段の一つとなっている。
5.婚姻数を増やすために何が必要か
上記のように、結婚を促進するため、さまざまな活動や支援が行われているが、婚姻率を引き上げ、婚姻件数を増やすには、さらにどんなことが必要だろうか。
前述のアンケートで浮かび上がった課題をみると、現状、自治体や民間で実施している施策や事業で十分に解決できているわけではなく、今後、「まだ(結婚の)必要性を感じない」「異性とうまくつきあえない」「(女性)仕事(学業)にうちこみたい」「そもそも人を好きになったり、結婚相手として意識することが(ほとんど)ない」といった“意識の変化”に関わる難しい問題にも取り組んでいかなければならない、と言える。
婚姻件数を増やすために何が必要か、偏見やハラスメントといった批判も想定されるが、私見を述べてみたい。
(1)結婚の良さを伝える?
まずは、当事者に「結婚の良さ」を伝えることである。「何を伝えていいかわからない」という声も聞こえそうであるが、独身より結婚したほうが精神的にも経済的にも楽であるとか、自身の成長を実感できるとか、折に触れて言葉と生活スタイルで示すことだろう。
(2)若者の親離れを促す?
現代社会では、親子関係が「友だち関係」に変容しつつあるケースが増えてきていると思われる。「友だち関係」であれば、親子は対等関係であり、親のすねをかじりながら(多少生活費を渡しながら)実家で暮らすことにあまり抵抗感はない。また、親世代も以前ほど子供の独立を促す姿勢は強くないように思える。
子供の自立を目指し、新たな家庭を築くよう促していくことは、親世代の義務と言えるのではないだろうか。
(3)草食系から肉食系に覚醒させる?
人間の行動タイプを“肉食系”や“草食系”と呼ぶことがある。いわゆる“草食系”とは、一般的に出世や消費などにガツガツしない、おっとりした性格を示すが、前述のアンケートで「そもそも人を好きになったり、結婚相手として意識することが(ほとんど)ない」という回答が示すような、恋愛にも比較的淡白な傾向も一つの特徴といわれる。
“草食系”は男子と合わせて“草食系男子”として取り上げられることが多いが、実態としては“草食系女子”も多く存在しており、ともに従来と比べて増えているといわれる。
現代においても、「いずれ結婚したい」とする割合が決して従来と比べて大きく下がっていない状況で、“草食系”から覚醒させ、結婚に対する積極姿勢を促す取り組みが必要である。
(4)おせっかいおばさん・おじさんの復活?
こうしたことを若者に伝え、行動を促す役割として期待されるのが、「おせっかいおばさん・おじさん」の存在である。以前は、近所や職場に、恋愛指南をしたり、結婚相手を紹介したりする「おせっかいな」人たちがいたものである。しかし、現在は、近所や職場での人間関係が希薄になるとともに、「○○ハラスメント」という概念が浸透し、「おせっかい」がしにくい社会となっている。
自治体の運営する結婚相談所や結婚相談窓口、民間事業者・NPOには相談できないデリケートな問題のなかには、「おせっかいおばさん・おじさん」が解決できることもあるのではないか。新たな形での「おせっかい」の必要性を社会が認め、「おせっかいおばさん・おじさん」の復活を期待したい。
(5)結婚の話題に触れることはセクハラ・パワハラなのか
ちょっと横道にそれるが、上司が部下に、また、近所のおばさん・おじさんが知り合いの若者に結婚について尋ねることは、「セクハラ・パワハラ」にあたるのか。
一般的には、「恋人はいるのか」、「結婚はしないのか」という発言は、ハラスメントに当たる。ただ、ハラスメントと感じるかどうかは、男女によっても、また個人によってもさまざまで、ハラスメントの基準は受け手の感じ方が尊重されるため、たとえ善意の発言であっても、相手によってはハラスメントに該当することは十分あり得る。
こうした状況から、職場では、恋愛や結婚を巡る話題について、上司は部下との距離の取り方に困惑しているのが実情である。
ただ、ハラスメントと捉えられる可能性のある発言であっても、希薄になってしまった職場や近所でのコミュニケーションが再び円滑になってくれば、相手はそう捉えないのではないか。深い信頼関係を築くことができれば、「いずれ結婚したい」と考える若者にとって、上司や近所のおばさん・おじさんは強力な応援者であり、アドバイザーとなるはずである。
こうした円滑なコミュニケーションの復活が、婚姻率を引き上げ、婚姻件数を増やすための回り道に見えそうで実は効果的な策ではないかと思う。
6.まとめ
多様な考え方を容認する方向に社会が変わりつつあるなかで、結婚に対する価値観も多様化が進んでおり、従来の「結婚して一人前」という考え方は、もはや大多数が認める常識とは言えないだろう。「結婚する、しないは、個人の自由」というのも、その通りである。民間事業者の感覚では、「結婚はするのが当たり前という時代から、趣味の一つとして捉えられている時代に入ってきている」との声も聞かれる。
ただ、従来の観念ではあるが、結婚して子孫を残していく、という本能的な営みを善としないと、いずれは社会、国家、家族といった生存基盤が崩壊してしまうのではないか。
たしかに、子供を増やすためだけであれば、結婚・出産のスタイルにこだわらず出産は可能であるし、移民や海外からの里子の受け入れの積極化という方法もある。家族のスタイルも、これまで以上に多様化していくだろう。
ただ、こうした変化は社会において議論が十分なされているわけではなく、たとえ社会で容認されるとしても、仕組みの整備も含め、まだまだ時間を要するだろう。
結婚・出生について、先送りするのではなく、国民を巻き込んだ先入観のない議論を期待したい。
最後に、本稿の執筆にご協力をいただいた、入倉結婚相談所 入倉秀代表、やまなし出会いサポートセンター 髙野和秀センター長、山梨県子育て支援局子育て政策課の皆様に、この場を借りて感謝を申し上げます。