甲信ワインの切磋琢磨を


毎日新聞No.621【令和4年8月2日発行】

 7月に開かれた国産ワインの品質を競う「ジャパン・ワイン・コンペティション(日本ワインコンクール)2022」(同実行委員会主催)の注目の審査結果は、山梨、長野両県にとって、いささか衝撃的なものとなったようだ。
 03年に始まり、新型コロナの影響で3年ぶり開催となった第18回コンクールには27道府県、過去最多のワイナリー108社から706点が出品された。金賞ワインは全12部門のうち6部門で計24本選ばれ、醸造地別で長野が半数の12本に上った一方、山梨は5本にとどまった。金賞数で長野が上回るのは9コンクールぶり3度目だが、過去2回はいずれも小差で、ダブルスコアは初めてだ。

 審査員25人が銘柄を伏せたワインをテイスティングし、色や香り、味のバランスなどを評価。金賞、銀賞、銅賞、奨励賞の入賞260本のうち、山梨が最多の85本、長野はそれに次ぐ70本で、山梨は宣言した「ワイン県」の面目をかろうじて保ったものの、金賞数の後退で、あらためて課題が浮き彫りになった。
 山梨大学学長補佐でワイン科学研究センターの柳田藤寿教授は、「欧州系品種・赤部門で長野の金賞が7本、山梨が1本と差がついたのが要因だろう。特に長野はメルロー種やカベルネ・ソーヴィニョン種の品質が高い。山梨の造り手もこの結果を真摯(しんし)に受け止め、さらなる良いワインの製造を目指してほしい」と話す。
 温暖化が進む今、ブドウ栽培に適した気候では長野に分があるだろう。筆者の出向元企業は山梨県甲斐市に農場を持ち、地場産業を深く知ろうという方針で有志がメルロー、シャルドネの栽培に携わっている。年に数回しか作業に参加できない筆者も、一年を通しての栽培の大変さを感じる。
 醸造技術がいくら発達しても、良いブドウからしか良いワインが生まれないことは昔から変わらない。柳田教授は、「労働力減少や地球温暖化によるブドウの生育不良などの問題に対して、ICT(情報通信技術)を用いた、環境データやブドウ栽培データの取得による情報解析など、新たな技術による栽培の研究を進めている」という。

 長野の躍進を大きな刺激として、両県のさらなるブドウとワインの質向上を期待したい。表彰式は8月27日、甲府で行われる。

(山梨総合研究所 主任研究員 鷹野 裕之)