自治会活動の存在意義


山梨日日新聞No.9【令和4年9月10日発行】

 「自治会長って、こんなことまでやるとは思わなかった」。4月に自治会長となった方から聞いた言葉である。わずか3カ月の間に「空き家のトタンが風で飛ばされそうだ」、「老人ホームに入りたいのだがどうしたらいいのか」などと次々と相談が寄せられる。行政や民生委員に直接相談すべき内容でも、「取り敢えず、自治会長さんに」と住民はやって来る。例年の活動をこなしながらこうした相談の対応に追われ、自治会活動を見直したり、改革を考えたりする余裕はないのだという。
 筆者が個人研究のテーマとする「自治会」に興味を持ったのは、その活動に救われた体験があるからだ。乳児を抱え引っ越した先でのこと。慣れない土地に加え夫は仕事で不在がち。ワンオペ育児に孤独を感じていた折、近所の食堂で月に一回開かれる「組」の会合が、地域社会との数少ない接点となった。近所の住人たちに子どもを委ね、落ち着いて食事ができる貴重な時間、そしてコミュニケーションの場となった。

 自治会の起源は1940年の内務省の訓令とされる。戦後GHQにより解体された後、52年のサンフランシスコ講和条約以降、各地で再整備された歴史がある。「遠い親戚より近くの他人」ということわざがあるほど、昭和の時代はご近所付き合い、自治会活動は濃密だった。それが、世帯は核家族が中心となり、女性は職業を持ち、家にいないことが多くなった。ライフスタイルも多様化する中で、若い世代には自治会の存在意義が見えづらいのも現実だ。
 行政の掲げる「自助・共助・公助」のうち、災害時に最も頼りになるのは「共助」である。多くの県民はそれを2014年2月の豪雪災害で経験した。いざという時、被害を最小限に抑えるのが地域のつながりであり、自治会になるのだがその活動は年々、衰退している。例えば甲府市の自治会加入率(21年6月、甲府市自治会連合会調査)は68.9%と30年連続の減。30年前は90%以上の加入率だったものの、近年はマンションや新興住宅地の住民が加入せず、地区によっては50%程度にとどまる地区もある。
 調査・研究を進めるなかで、さまざまな自治会の姿を見てきた。担い手不足で解散した自治会もあれば、強いリーダーシップで活性化した自治会もある。自治会活動に成功も失敗もないが、「うまくいっている自治会」を個人的に定義すると、「存在意義を明確にしたうえで、やりたいこと、すべきこと、できることをやっている」自治会だ。そこに達するまでには、住民が何度も対話を重ねた共通項がある。

 「コミュニティ」と「コミュニケーション」の語源は、どちらも「共有」や「分かち合い」を意味する言葉であるラテン語のCommunus(コミュナス)だが、コミュニティの最小単位ともいえる自治会は、「分かち合い」不足に陥っている。まずは、一堂に会し、多様な人と気持ちと時間を分かち合う「コミュニケーション」から自治会活動を始めるのはいかがだろうか。

(山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒)