AIが問うもの


毎日新聞No.623【令和4年9月18日発行】

 最近、イラストや絵画の画像を自動で生成してくれるAI(人工知能)が話題となっている。その多くが、人間が指定した言葉に基づいて自動で絵を描いてくれるというもので、いわばAIアーティストだ。

 これまでもAIに絵を描かせるという取り組みは行われてきたが、数年前までのAIの作品は構図が破綻していたり、人間のパーツがバラバラに描かれてしまったりと、実験的なものに過ぎなかった。しかし、話題となっているAIの作品は、AIが描いたと言われなければ、画家やイラストレーターの作品だと疑わないほどのものであり、ゲームなどの制作物に使われるくらい実用的なものだ。アメリカではAIが描いた作品が美術コンテストで優勝するという事態まで起き、技術の向上が広く知れ渡ることとなる一方で、AIの作品を人間の作品と同様に扱うべきかどうかで物議を醸している。
 このようなAIの進歩は著しく、既に我々の生活にも深く関わり始めている。身近な例では、スマートフォンや生活家電などだが、仕事の面でもAIが人間の代替を担うケースも増えてきた。例えば、企業の問い合わせ窓口をAIによるチャットボットで対応したり、倉庫作業をAIが搭載されたロボットが行ったりといったものだ。こうした作業をはじめ、今後多くの仕事がAIに代替されることが予想され、2015年に野村総研とオックスフォード大学が発表したリポートでは、AIの導入により日本の労働人口の49%の仕事が20年以内になくなるとまで言われている。現時点では大きな変化は訪れていないが、AIアーティストのような技術革新が起きることで、急速に代替が進む可能性もあるだろう。

 AIは我々の生活を便利にしたり、多くの問題を解決したりするものであり、その発展は喜ぶべきものだ。しかし、ついにはAIがアートなどのクリエーティブの分野にまで広がってきたことで、人間にしか生み出せない価値が問われる時代になってきたのだと思う。では、人間にしか生み出せない価値とはなにか。私は新しいアイデアをひらめくことがその一つだと考える。AIは既存の情報から合理的な答えを出すことは得意だが、既存の情報にはない新しいアイデアを考えることは苦手だ。AIの発展によって、今後、我々の創造力や発想力がより重要となってくるだろう。

(山梨総合研究所 主任研究員 清水 洋介)