食の可能性と昆虫食


毎日新聞No.624【令和4年10月2日発行】

 昆虫食の市場規模が拡大している。きっかけの一つとして、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が昆虫食の役割の重要性を発表したことが挙げられる。50年に地球の人口が90億人を超え、食糧・飼料・バイオ燃料を12年水準よりも50%多く増産する必要があると推計された。食糧危機の深刻化が見込まれるなかで、昆虫食は栄養素が豊富で、かつ、生育における環境への負担や費用が少ないことなどから、人間・地球にとって重要な食べ物であることが示唆された。その影響により、昆虫食の世界市場規模は、19年度に約70億円だったものが25年度に1000億円となると推計されている(20年、日本能率協会総合研究所調査結果)。
 例えば、コオロギと牛を1㌔あたりで比較すると、コオロギの栄養価は、たんぱく質、アミノ酸が牛の約3倍、鉄分が約2倍となっている。コオロギは成長スピードも速く、餌の量は牛の6分の1、水の量が5分の1と低コストで養殖ができるため、特に発展途上国での効果が高いと見込まれる。また、餌の量が少ないため、生育にあたっての温室効果ガス排出量においても、コオロギは1425分の1で済み、地球温暖化対策としても有効であるといえる。

 筆者は、先日初めてコオロギの姿揚げを試食した。最初はそのままの姿を口に入れることに抵抗感が非常に強かったものの、食べてみるとエビやカニなどに似たような味・食感で美味であった。食わず嫌いとはまさにこのことだと感じた。また、コオロギを粉末状にすりつぶし、せんべいに練り込んだコオロギせんべいも試食したが、全く昆虫感がなく、いわゆるスナック菓子として、気楽に栄養も摂取できる優れものであった。

 いくらメリットがあるといっても昆虫に抵抗を感じる人は多い。“もの好き”のための食べ物であり、他人事と思うかもしれない。ただ、今後、地球環境がどうなるか不透明ななか、昆虫食を将来の一つの選択肢として食の可能性を広げておくことで、持続可能な社会の形成の一役になりうるはずだ。昆虫食の市場規模が拡大することとなったきっかけとともに、地球環境を考えながら、食生活に向き合っていきたい。

(山梨総合研究所 主任研究員 廣瀬 友幸)