災害対策の経済効果
山梨日日新聞No.10【令和4年10月8日発行】
2022年3月までに県内の全市町村が国土強靱化地域計画を策定した。本計画は、東日本大震災や想定を超える豪雨など、近年の大規模自然災害による経験を通じ、いかなる自然災害が発生しようとも、人の命を守り、地域経済が致命的な被害を受けず、災害に強く安心して暮らすことができるよう事前防災・減災と迅速な復旧・復興に資する施策を定めたものである。
本計画を策定する一因となった過去の大規模自然災害時における経済損失額は、ミュンヘン再保険会社の「災害被害統計データベース(2013年)」によると、東日本大震災は約25兆円、阪神・淡路大震災は約12兆円であり、多大な経済的損失を与えた。
将来起こりうる自然災害の一つに、富士山噴火が挙げられる。富士山火山防災協議会の「富士山ハザードマップ検討委員会報告書(2004年)」によると、宝永噴火と同規模の火山灰が降った場合の経済被害額は約2.5兆円に上ると算出されている。また、地震災害について、土木学会の「レジリエンスの確保に関する技術検討委員会報告書(2018年)」では、予想される大規模自然災害の発生後20年間の累計経済損失額を、建物損壊や道路破断などの直接被害のみならず生産量の毀損など間接被害も含めて算出しており、南海トラフ地震は1240兆円、首都直下地震は731兆円、生産活動の停止などによる税収減も、それぞれ、131兆円、77兆円と推計している。一方で、道路や建物の耐震強化など様々な公共インフラ対策を講じることによる減災額や税収縮小回避額も示されており、南海トラフ地震では防災・減災対策事業費に38兆円以上かければ経済損失が509兆円の低減(対経済損失額比41%)、税収も54兆円の減収回避が可能であると算出されている。首都直下地震においても同様に経済損失額の低減及び減収回避が見込まれ、いずれも公共インフラ対策による財政的効果が示されている。
このように、国土強靱化地域計画の推進は、経済活動を持続する上で、非常に重要である。また、上述のようなハード対策だけでなく、私たち一人ひとりが災害について考え、日ごろから防災訓練の実施や備蓄の確保などソフト対策を講じ、経済活動を行う私たち自身を守ることも経済効果を発揮するであろう。
(山梨総合研究所 主任研究員 廣瀬 友幸)