情報社会のマイナス面


毎日新聞No.626【令和4年11月13日発行】

 情報社会の到来により私たちは日々さまざまな情報に触れられるようになった。気になることがあったとき、少し前なら「わからない」とか「まぁいいか」と済ませていたことでも、スマートフォンなどを使ってすぐにいろいろと調べられるようになっている。
 ただ検索は容易になったものの、こちらが知りたいと思ったことにすんなり行き着くとは限らない。漢字の意味のように答えがほぼ一つしかないものであれば問題ないが、例えば保険などに加入しようと調べ始めたならば、検索結果にはありとあらゆる保険商品が表示されることになる。自分に合った条件で絞り込んでも、まだまだたくさん表れる検索結果を前にして、さていったいどれを選べばいいんだろう?とさらに頭をひねることになる。 

 数多くの情報の中から何かを選ぶ必要があるとき、心理学者のバリー・シュワルツ氏によれば、多くの選択肢を前にして選択ができないということに無力感を感じたり、選ばなかった選択に対する後悔が生まれることにより満足度が低下したりすることがあるそうだ。しかし我々は日々の生活を送るうえで、何かを決める際に数多くの情報を吟味しなければならないような場面に多く出くわす。まるで我々がより多くの選択肢を吟味するように情報社会が後押ししているようだ。
 そのため昨今では「情報過多認知症」と言われる症状に見舞われる人もいるそうだ。容量を超える情報を脳に詰め込んでインプットすることにより脳がオーバーフローを起こしている状態になってしまい、物事を記憶できない、すぐに忘れてしまう、考えられない、ABのどちらが良いか判断できないなど、軽度の認知症のような症状が表れるそうだ。これは情報社会特有の病の一つと言えるだろう。

 情報の洪水に翻弄されないようにするために、スマートフォンやコンピューターといったデジタル機器の使用を自発的に控えていくデジタルデトックスなども推奨されている。情報との適度な接し方について、一人ひとりが改めて考えてみてはどうだろうか?

(山梨総合研究所 主任研究員 前田 将司)