あえて“非効率”を選ぶ
山梨日日新聞No.15【令和4年12月24日発行】
大工といったらどんなイメージを思い浮かべるだろうか。「職人」や「親方」などといったイメージを思い浮かべる人もいるかもしれない。
木造建築工事を手掛ける株式会社丸正渡邊工務所の代表取締役社長である渡邊正博氏は、11年勤めた前職のホテル・結婚式場等を営む会社を退社し、専門学校で建築を学び直した後、大正後期から3代続いてきた工務店の4代目を継いだ。
前職での経験で「幅広く仕事をしてきたことで、新しい仕事をすることに対する耐性ができた」渡邊氏は、これまで下請けが多くを占め元請けはわずかであったことから「自分たちで仕事をつくらなければいけない」と考え、就任当初から規格住宅の営業を始めた。
丸正渡邊工務所の大きな特徴の一つは、職人としての大工集団ということである。一般的に大工の仕事はそれぞれが「一人親方」という個人事業主として行うのに対して、同工務所では「社員」として働いている。
何故「社員」として雇用するのか。渡邊氏は「端的に言えば大工集団を維持させていくため」と説明する。
ここに、主として規格住宅を扱う大手ハウスメーカーの経営手法と一線を画し、大工集団が家づくりを行う理由が隠されている。つまり、大正後期から創業100年の歴史を支えてきたベテラン大工の意思と技術を継承し、同工務所の次の100年に向かう若い世代を育成していくということである。
こうした大工集団である強みを最大限に活かすため、「技術とチームワークで山梨一の大工集団となる」というビジョンなどを創り上げた。そもそも大工は「“想い”で仕事をする人たちなので、当社のビジョンなどをいかに浸透させるかに努めてきた」と渡邊氏。その背景には、「お客様に喜んでもらうという体験を大工にもしてもらいたい」との渡邊氏の想いがある。そのために、社員全員で議論をしながらビジョンなどの共有に努めてきた。
しかし、仕事の受注時に都度「一人親方」の大工に発注する方法に比べ、大工を社員として雇用し続けるには、仕事を切らさないよう、小規模なリフォーム工事から戸建ての家づくりまで幅広い仕事を請けることも必要である。
こうした経営は、一見すると“非効率”に見えるかもしれない。
しかし、そこには、効率性を追求するだけでは得られない、次世代の人材育成を始めとした大工集団の維持を通して、愛着をもって住み継がれる建物を提案することで、持続的な会社経営を目指すとともに、それにより持続的な地域経営に挑戦する姿が垣間見られる。こうした人的資源に着目した持続可能な地域経営のあり方は、今後さらに注目される。
次回の地元企業の魅力発見サロンのゲストは寺崎コーヒー 寺崎亮氏。詳細は山梨総合研究所HP(https://www.yafo.or.jp/)まで。
(山梨総合研究所 研究員 宇佐美 淳)