Vol.293-2 自治会費のゆくえ


 公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 渡辺たま緒

はじめに

 筆者はこれまでこれからの協働の在り方としての自治会について考察を重ねてきた。この中で、近年課題に挙がる担い手不足といった課題は、自治会への無関心が背景にあると示してきた。
 また、自治会のイメージとして、「何をしているのか分からない」といった意見も少なくない。この「何をしているのか分からない」の中には、自治会費の使途も含まれる。
 自治会費が「高い」という意見が多いのもこの自治会会計の不明瞭さに要因があるのではないか。さらに全国の自治会に関する報道を見ても、自治会費の横領などが目に付く。
 自治会のお金の流れを確認することも、今後の協働体としての自治会・町内会を考えるうえで必要なことではないかと考え、今回は自治会費について考察することとした。
 なお、地域によって自治会、町内会等の呼び方が異なるが、実態として大差ないため、今回は「自治会」と表記する。

 

自治会組織の構造

 まずはここで自治会組織構造について確認しておく。自治会は図1のとおり、主に近隣の世帯で組織する「組・区」、その上位組織にあたる「単位自治会」、その上位組織にあたる「地区自治会連合会」、その上位組織にあたる「(市区町村)自治会連合会」、その上位組織にあたる「全国自治会連合会」で構成される地域が多く、ピラミッド構造となっている。自治会費の一部は、この組織構造に沿って下部から上部へと流れていく。

 

図1 自治会の組織構造

筆者作成

 

自治会費の流れ

 では、最下部となる組費の実態について確認をしておく。自治会(町内会)費は地域によって多少の差はあるが、月額200円程度~2000円が一般的だと言われている。
 例として筆者が所属する自治会で確認してみたい。筆者が支払った組費は例年、年額16,000円で、一般的な自治会費の相場と同程度となっている。
 では、組費はどのように使われたのか。組費決算は表1のとおりとなっている。なお、表1の決算例は令和2年度のものであるが、例年、だいたいが同様の決算内容である。

 

表1 組決算

出典:筆者が暮らす地域の組の定期総会資料(令和2年度)より筆者作成
(個人、団体が特定されるものについては、一部名称を変更して記載)
※2、3:募金は任意であり自治会で強制するものではないため、会合により同意を得て支出

 

 では、内訳にある「自治会費」が、「地区自治会」へ渡り、どのように利用されるのかを、表2の筆者が所属する地区自治会令和3年度の収支決算書で確認する。

 

表2 単位自治会収支決算(令和3年度)

 

出典:筆者が暮らす地域の組の定期総会資料(令和3年度)より筆者が小計を加筆して作成
(団体が特定されるものについては、一部名称を変更して記載)

 

 水道光熱費は、月換算すると21,528円となり、総務省統計局「家計調査 家計収支編 2021年度」による全国平均額22,394円とほぼ変わらない額であることなど、毎日利用しない場所にも関わらず一般家庭並みの額が支出されていることも気になるところではあるものの、注目したいのは負担金のうち自治会連合会へ支出されるお金だ。
 「組」で各世帯あたり8,000円支払われた自治会費は、一階層上の組織である単位自治会に賦課金収入となり、そのうちの557,750円と決して少なくはない額がさらに上の階層となる自治会連合会へと“上納”されている(表2)。
 次に、市区町村の最上位単位となる(市区町村)自治会連合会費についてみてみる(表3)。

 

表3 (市区町村)自治会連合会収支決算(令和元年度)

出典:筆者が暮らす地域の自治会連合会定期総会資料(令和2年度)より筆者作成
(収入・支出ともに予算現額は省略)
(市・団体が特定されるものについては、一部名称を変更して記載)

 

 細かい部分について見ていくのは別の機会として、今回は上部組織に支出される自治会運営費を追ってみる。単位自治会から地区自治会連合会に流れるお金は「負担金」の557,750円となっており、この自治会の戸数は当時343戸であったため、1戸あたり1,600円程度となる。
 一方で、(市区町村)自治会連合会の決算書を確認すると(市区町村)自治会連合会には「会費」として50/世帯が支払われているため1,600円から50円差し引いた1,550円程度は、単位自治会と(市区町村)自治会連合会の間の地区自治会連合会で使用されると想定されるが、その決算報告書が手に入らず、今回確認することはできなかった。
 また、今回確認できた市町村内の最上位となる(市区町村)自治会連合会の決算書も筆者がいろいろな方の協力を得て手に入れたものであり、通常は(市区町村)自治会連合会の総会で主に連合会長に提示されるのみで、一般住民が普段「いつでもすぐに手にとって見られる」ものではない。普段から意識してみていない筆者にも否はあるものの、今回の会費の流れですら「会員」に簡単に分かる状態でないことを鑑みても、自治会費の不透明さは否めない。
 さらに、決算報告をみても、結局何をしたのかがよく分からないというのが多くの人の感想ではないだろうか。
 自治会活動に参加していないから見えてこないのか、見えてこないから参加しないのかは、どちらとも言えるのかもしれない。
 しかし、全体の組織構造とお金の流れや中身を「会員」全員にいつでも見られる形で、分かりやすく説明表示されているだけでも、活動内容が理解されたり、その活動が本当に必要なのかについて話し合ったりするきっかけにもなるのではないだろうか。
 少し話は外れるが、筆者の自治会では有価物回収というスチール缶やアルミ缶、ビン、ペットボトルなどを自治会で回収・売却する活動がある。この収入は単位自治会に入るそうだが、今回の筆者が所属する自治会の決算書からは、この有価物回収費(表4)が、どの名目での収入となり、どう活用されたのかは確認できなかった。
 有価物回収の活動は、朝早くから会員である住民が仕分け作業に追われる。当番日が平日、休日に関わらず設定されるため、平日出勤前に当番に割り振られた際は、当番で出る人はもちろん、毎朝の家族それぞれの役割分担にも影響が及ぶ。また自治会内の会員が高齢化している中、実際に仕分け作業ができる人数は年々少なくなり、一人の負担は大きい。皆で協力して作業することが住民の「協働」意識を育むという効用もあるだろう。しかし、精神的な効用の前に、労働の対価が見えなければ、活動をする気持ちすら阻まれる。近年、有価物回収の参加自治会が減っているのは、このような理由もあることを想定しなければならない。

 

表4 有価物回収実績

集団回収分。数値の( )内は、自治会総数
(資料)環境部廃棄物対策室減量課調

 

もう一つの「不透明」がもたらすもの

 もう一つ自治会費の分かりにくさが起こす悲劇がある。使途不明の自治会費だ。着服、使い込み、横領などで警察沙汰となっているものも多い。全国で起きているのも特徴で、筆者が確認できた2008年から2022年までで2万円から6000万円まで合計57418千円に上る。2018年から2022年までの5年間だけでも合計9,162万円となっている(表5)。

 

表5 自治会費の着服や使途不明金等の事例(全国)

 

 このようなことが起きるのは、繰越金も多く、また、自治会費のずさんな管理も否めない。一方で、私たち住民の自治会に関する無関心が招いているとも言えるだろう。
 自治会活動を活性化するためには、自治会の会計を明朗にし、使途を皆で再度考えていくことも一つの方法であるだろう。

 

意識を変える

 最後に、馴れ合いの自治会を打開する策として、例を2つ紹介したい。これが単純に従来の自治会業務の受け皿になるものでも、また階層化されている自治会の仕組みにそのまま応用できるわけでもないものの、自治会員の「意識を変える」ための手法という視点で参考にしていただきたい。

 

【労働者協同組合】

 「働く」を切り口にコミュニティを運営する労働者協同組合である。会員一人一人が出資者であり、一人一票が与えられ、話し合いや意見を反映し合いながら、合意形成をしていることが特徴だ。
 時間はかかるものの、「自分がここには必要だ」と気づく瞬間があり、主体性の発揮や地域とつながりあう意識が形成されるという。(詳しくはニュースレターVol.293-1「新たな地域とコミュニティづくりに取り組む労働者協同組合」(日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会 理事長 古村 伸宏氏)参照)

 

【仮想山古志村】

 山古志村は2004年の新潟県中越大地震で被害を受け翌年長岡市に合併し、現在は「山古志地域」となっている人口800人、高齢化率55%を超える地域で、この旧山古志村の魅力を残そうと民間団体「山古志住民会議」が立ち上げたプロジェクトが仮想山古志村である。メタバース(インターネット上の仮想空間)に村を再現する取り組みでNishikigoi NFTを購入すれば世界中の誰でもデジタル村民となれる。デジタル村民はプロジェクトを立ち上げたり、プロジェクトの投票権を持ったりすることができる。
 プロジェクトの実施可否は、村民が「投票」で決定する仕組みだ。実際の山古志地域ともつながっており、デジタル村民ではあるもののリアルな地域をどうすべきかの視点が取り入れられたプロジェクト発案が目立ち、「地域」とは何か、コミュニティとは何かを考える意識も醸成されている。
 筆者もデジタル村民の一人であるが、縁もゆかりもない地域のはずが、投票やメタバース内での交わり、配信などにより「村民」の自覚は強くなり、この地域を自分事として考えられるまでに至っている。

 

おわりに

 今回は自治会費の流れ、自治会費の使途不明金など自治会を取り巻くお金について確認し、「お金の使い道」を皆で考えることも、地域コミュニティに取り組む一歩につながることを示唆した。
 自治会は行政が運営するものでも、自治会役員が運営するものでも、一部の自治会住民が予算を使うものでもない。
 自治会という地域コミュニティをどうするかは、住民一人一人の意識にかかっている。