福祉の未来に向けて


山梨日日新聞No.16【令和5年1月21日発行】

 「福祉事業で儲けるのはよくない」、「障がい者といっしょに働くのは大変」―そのようなイメージを抱いている方はいないだろうか。
 (株)スマイルサポート代表取締役社長の中村卓史氏は、放課後等デイサービス事業などの障がいがある子どもたちの自立支援や、障がい者就労支援を行っている。「強い必要性を感じたら、実現の道を探り、5割めどがたったら覚悟を決めて挑戦する」と語るその経営スタイルは、自らが感じた疑問を解決したいという思いが原動力となっている。
 その疑問の一つが、障がい者の大学進学率だ。一般の高校生の大学進学率約80%に対し、特別支援学校高等部からの進学率は2%程度に留まっている。「自ら希望して働くのはいいが、高校でずっと職業訓練をやらされて、卒業後は働くことが当たり前になっている」とは中村さんの弁。また、障がい者が働いて得る工賃の安さにも疑問を感じており、一生懸命働いても貯金が増えず、好きな物も買えないといった状況は決して珍しいものではないという。

 福祉分野は、保険制度などに基づいて国の単価や施設基準にのっとり事業を行う、「制度ビジネス」の側面が強いが、中村氏は上記の疑問を解消するため、既存の枠組みの中に革新性や事業性などのソーシャルビジネスの要素を組み込んだ新たな取り組みを開始した。
 まず一つ目が「ユニバやまなし」だ。多機能型事業所を大学に見立て、4年間仲間と学び・遊び・考えて、青春を謳歌(おうか)しながら社会に出る準備を整えることで、卒業後の進路の選択肢を増やすことができる。二つ目に、就労継続支援B型事業所「りらく」では、温泉やカフェ、宿泊施設を運営しており、障がい者が自らの特性に合わせて接客・調理などの業務を行うことにより、通常の旅館と変わらないサービスを提供している。これにより、障がい者が活き活きと働けるだけでなく、それが確かな収益につながり障がい者に還元されるという好循環を目指している。
 常に新たな課題にチャレンジしていく中村氏の姿からは、障がい者の自立を通じて地域の自立も目指す、強いフロンティア精神を感じた。誰もが自分らしく活き活きと人生を送ることができる共生社会を実現するためには、こうした取り組みが不可欠となっていくだろう。

 SDGs(持続可能な開発目標)が掲げる“平等”の概念は、国や性別だけでなく障がい者と健常者の関係にも当てはまる。誰もが青春を謳歌し、働き対価を得ることができる―そのような社会の実現に向け、社会が、地域が、われわれ一人ひとりが変わっていくことを期待したい。


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(山梨総合研究所 研究員 山本 陽介