視覚障害者のシグナル
毎日新聞No.631【令和5年2月19日発行】
全国における視覚障害者は約30万人いる。障害の種類は、視覚が全く無い「全盲」、一部の視野の欠如やぼやけていて視力が十分ではない「弱視」、一部の色(赤、緑、青の光)を判別できない「色覚障害」などと様々である。私たちが日常の生活を送るためには、外出が必要となるが、「平成18年身体障害児・者実態調査(厚生労働省)」によると、視覚障害者のうち約4割はほとんど外出していない状況(月に2~3回・年に数回外出、外出なし)であり、コロナ禍である昨今においては、より外出自粛をしていると想定される。
点字ブロックの整備が進んでいるものの、点字ブロックの上に自転車や荷物が置かれている光景を目の当たりにすることもある。「駅ホームからの転落に関する状況(国土交通省)」によると、視覚障害者のホームからの転落は平成22年度から10年間で761件発生している。道路横断による事故も後を絶たない。新型コロナウイルス感染症対策としての施設入場時の検温設備や消毒液も視覚障害者がスムーズに使用できるとは言い難い。また、視覚障害者は点字によって、状況を判断していると思われているが、同身体障害児・者実態調査によると、点字の識字率は視覚障害者の約10%と少なく、点字案内を利用する方は少数であるのが現実である。外出時には「周囲の情報の入手」、「身の安全の確保」、「視覚障害者であることの周囲への周知」の役割がある白杖を使用するが、歩きスマホの方との衝突や杖の音が不愉快であるからと罵声を浴びせられた方もいる。これらの要因により、家に引きこもるケースも少なくない。
視覚障害者が気軽に出かけられるためには、目に支障がない人が視覚障害者との交流などで接点を持ち、視覚障害について知る必要がある。また、視覚障害者は、外出先で道に迷った時や、不安な時、災害時など困った際に、白杖を頭上50cm程度に掲げている。これは、周囲に助けを求める「白杖SOS」というシグナルである。見かけた際は、進んで声をかけていただきたい。そのシグナルだけなく、立ち止まって、周りを見渡していたり、同じ道を行ったり来たり、また、危険に遭遇しそうな場合にも声をかけてサポートをすることが、安全・安心な共生社会を実現するために必要なことである。
(山梨総合研究所 主任研究員 廣瀬 友幸)