総合球技場の議論再び
毎日新聞No.632【令和5年3月5日発行】
きょう5日、サッカーJ3の松本山雅FC、AC長野パルセイロは今季開幕、J2ヴァンフォーレ甲府(VF甲府)は第3節を迎える。松本と長野はJ2への復帰と昇格を、VF甲府はJ1復帰と天皇杯優勝による初のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)に挑むシーズンとなる。
2年連続J3で戦う松本の社長9年目の神田文之さんは、山梨県出身の45歳。「地元の熱い応援に応え、今季こそは笑顔で終わりたい」とJ2復帰を至上命題にする。
神田さんは2000年、VF甲府に入団し1年間プレーしたが、存続危機に翻弄され退団を余儀なくされた。北信越2部の松本で3カ月プレーした縁で、後に松本の営業スタッフ入りを要請された。
スポンサー集めなどに奔走する中で「VF甲府を経営のお手本にし、追い付き追い越せでやってきた」と振り返る。松本は熱心なサポーターの存在と観客数の多さで知られ、特にJ1で戦った15年は1試合平均1万6823人、19年は1万7416人を数えた。J3で戦った昨季も1試合平均8401人はリーグ随一で、J2VF甲府の4930人を大きくしのぐ。
観客動員に関して、神田さんが心強く感じているのは、熱心なサポーターやスポンサーに加え、サンプロ・アルウィンという総合球技場の存在だという。VF甲府がアルウィンで主催試合を行ったこともあるが、総合球技場の臨場感は格別で、独特の雰囲気を醸す。
VF甲府の本拠地、JITスタジアムは、個席5000席以上などという基準を満たせず、ACLでのホームゲームが開けない見通しとなっている。神田さんは「VF甲府が天皇杯で優勝し、地方のクラブでもやればできるという大きな夢を与えてくれた。偶然でなく、積み重ねの成果であることをきちんと評価してあげてほしい。ACLが地元で開けないのは残念」という。
山梨では9年前、総合球技場建設を求める約10万人の署名が県に提出された。その後、県議や経済人、有識者検討委員会が長野県内のスタジアムを視察するなど機運は高まったが、巨額の建設費と維持管理費などの問題から計画は頓挫している。幅広い県民の同意を得るのは容易ではないが、どうすれば建設できるか議論を再開するところから、建設機運の再燃や、スポーツ産業で収益を上げる方法を見いだせることを期待する。
今年はJリーグ発足30周年の節目。地域活性化に大きな役割を果たしてきたJ百年構想の而立(じりつ)を確かめる年にもしたい。
(山梨総合研究所 主任研究員 鷹野 裕之)