“じりつ”した経営を目指して
山梨日日新聞No.21【令和5年3月18日発行】
今年度山梨総研では、地域と地元企業をつなぐ新たな「ものさし」を探すべく、山梨県中小企業家同友会との共同により、「地元企業の魅力発見サロン~経営者に話を聞いたら地域のものさしがみえてきた~」を全8回開催してきた。その内容はこれまで本リポートにおいてご紹介してきたとおりである。
このサロンをスタートするにあたり、私たちは、地域の“じりつ”という言葉にこだわってきた。この“じりつ”には二つの意味がある。一つは経済的に外部に依存せずに生計を立てられることや、事業を継続することができる「自立」、もう一つは、他者の支配や制約を受けずに、自らの価値観に基づいて判断し行動できる「自律」である。
確かに、個人であっても企業であっても、「自立」することは、生きていくため、活動を維持していくためには必要不可欠なことである。しかし、そのために自らが大切にしていることが失われてしまうとするならば、それはもはや「自律」しているとはいえない。
では、地域に根ざす企業にとって、「自律」とは一体どのようなことなのだろうか。社員自らが考えた商品やサービスを通じてお客様を笑顔にすることで社員も幸せになることを目指す山梨ユニフォーム株式会社、災害や老朽化から生命・財産を守るという建設業としての“DNA”を大切にする丸浜舗道株式会社、クリエイティブな力を通じて地域のひとり一人の豊かさから社会の豊かさへの循環を目指す株式会社DEPOT、山梨の生産者がつくるおいしい果物の価値を消費者に届けるきれいごとを貫く株式会社プロヴィンチア、将来にわたり大工集団を維持・継承していくために敢えて非効率を選択する株式会社丸正渡邊工務所、収益事業を通じて障がい者の自立を実現し共生社会の実現を目指す株式会社スマイルサポート、そして良質なコーヒーのあるまちの風景を日常にしていく寺崎コーヒー。
しかし、こうした「ものさし」に基づく経営を貫くことは並大抵のことではない。そのためには、困難に直面することやそれによって何かを手放すという選択を迫られることもあったであろう。しかしそれ以上に、顧客、従業員、取引先などとの出会いや、その経験を通じて得られた様々な気づきが、「ものさし」の大きな支えにもなっているようにも感じられた。
最後に、改めて“じりつ”について考えてみたい。それは、地域社会や経済の循環を生み出していく風土のようなものではないだろうか。「安い・便利・手軽」などといった価値観が重視されがちな今日において、自らが選択したより良い商品やサービスを適正な価格で提供することを通じて、地域全体の豊かさや幸せづくりに貢献していく。それが生産者の誇りや従業員の働きがいを育み、消費者の心を動かしてくことにつながっていく。
こうした“じりつ”を通じた地域の持続可能な企業経営について、これからも引き続き考えていきたい。
(公益財団法人山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤 文昭)