対話型AIの台頭
毎日新聞No.634【令和5年4月3日発行】
仕事をしていると、新しい知識を学ぶ機会が多々ある。新しいジャンルの知識を学ぶことは、とても興味深いことではあるが、学ぶべき情報がたくさんありすぎて、慌ただしい日々の中では手いっぱいになってしまうこともある。
“止まりさえしなければ、どんなにゆっくりでも進めばよい”と先人は言ったが、社会の動きが激しい昨今では、個人が積み重ねてきた知識や身につけてきたノウハウが一瞬で陳腐化してしまい、ゆっくり進んでいるだけではあっという間に取り残されてしまうような変化が起こりうる時代になっている。こんな時代には、多くの先人たちの積み上げたものを上手に活用し、新たな知識や技術を産み出していく、いわゆる“巨人の肩の上に立つ”ことも大切になってくる。
少し前までは、活用したい知識を調べること自体にある程度の見識と労力が必要だったが、最近は急激に進歩している人工知能(AI)がその苦労を肩代わりしてくれるようになってきた。対話型AIがその一つで、普段使いの話し言葉で質問を入力すれば、それに対する回答をさまざまな情報を参照したうえで回答してくれる。ここではいくつか例をご紹介しよう。
「ChatGPT(チャットジーピーティー)」は大量のテキストデータを学習することで、入力された質問の文脈や意図を理解できるようになったAIだ。質問に対して最適な答えを自然な言語で回答してくれる。マイクロソフト社が、このチャット機能を搭載した最新版の検索エンジンBing(ビング)の公開したことで注目がさらに高まった。
「Perplexity AI(パープレキシティ エーアイ)」は登録なしで利用できる会話型検索エンジンだ。質問をすると回答として信頼度の高いと思われる情報を選別して、引用したサイトと併せて提示してくれるため、出力された回答の根拠を自分でも確認しやすいのが魅力だ。
このほかグーグル社も対話型AI「Bard(バード)」の公開を始めており、これからどのような形で活用できるかが気になるところだ。
対話型AIは、集合知という巨人の肩に登るために掛けられたはしごのようなものだ。まだまだ進化の途中で信ぴょう性に難があるため、回答結果のすべてを鵜吞(うの)みにするのは時期尚早だが、多くの先人の積み上げてきた土台の上に立ちやすくなることで自分の視野を広げてくれるきっかけになる。今後はそこから見えてくるものから私たちがどのような価値を産み出していけるかが重要になるのだろう。
(山梨総合研究所 主任研究員 前田 将司)