国スポ・全スポの招致
山梨日日新聞No.22【令和5年4月10日発行】
皆さんは、国スポ・全スポをご存じだろうか。国スポとは、国民体育大会、全スポとは全国障害者スポーツ大会のことを言う。国民体育大会は、令和6年に開催される佐賀大会から名称が「国民スポーツ大会(国スポ)」に変わる。
国スポは昭和21年に第1回大会が開催され、全スポは以前から実施されてきた「全国身体障害者スポーツ大会」と「全国知的障害者スポーツ大会」を統合したイベントとして、平成13年から開催されている。国スポは都道府県持ち回りで実施され、現在は二巡目に入っているが、こうしたなかで、山梨県は令和14年における開催の招致を目指している。
招致には、さまざまなメリットがある。経済面でいえば、施設の整備や全国から来県する選手・観客による消費で県内経済が潤うことなどが挙げられる。昨年開催された栃木県の例をみると、国スポには選手や観客など35万9千人、全スポには同5万8千人が参加し、経済波及効果は合わせて推計で1174億円余りにのぼっている。
一方で、開催には多額の経費がかかる。栃木県の例では、施設整備費に652億円、大会事業費に176億円など、あわせて約917億円が支出されている。ただし、この収支を見る限り、国スポ・全スポには支出した以上の経済効果がある、と言えることになる。
では、もろ手を挙げて招致をということになるかというと、国スポ・全スポを巡る環境は山梨県で「かいじ国体」が実施された昭和61年と大きく異なっており、越えなければならない課題もある。
例えば、当時、人口は増加基調を辿り、経済環境は高度成長期は終了していたとはいえ、豊かな生活が期待できる時代であった。これに対して、令和14年は先のことであり不確実な要素が多いが、人口減少・高齢化は進行し、低成長経済からの脱却は難しく、自治体財政も裁量の余地はさらに狭くなっている、という状況が予想される。
ただ、スポーツには、単なる経済的な側面だけではない様々な効果があることは、社会において十分認識されていよう。先ごろの高校野球選抜大会やサッカー天皇杯の優勝でも、スポーツの価値や影響力を実感した県民が多かったのではないか。国スポ・全スポとなると、さらに教育、地域活力の向上、コミュニティの醸成など様々な面で効果が期待できる。
また、前回招致時と比べて、後押しとなるような変化も、IT・通信技術の進歩、AI、ドローン、自動運転などの登場、ボランティア活動に対する市民意識の向上、働き方改革の推進による社外活動に対するハードルの低下、健康寿命の伸長(元気な高齢者の増加)などたくさんある。携帯電話やWindows95も当時はなかった。
まだ、9年も先のことであるが、準備を考えると早くないと聞く。となれば、まずは県民自身が国スポ・全スポ招致への関心を高め、昭和61年当時とは違う環境の中で招致が県民生活にどのように役立つのかについての理解を深めていくことが必要であろう。
県民みんなが企画段階を含めどこかで参加できる機会をつくり、知恵を出し合って、自分事と考える中で、豊かさの向上と地域の活性化につなげていく。新しい時代の国スポ・全スポ招致は、そんな貴重な機会として活用していけるのではないか。
(公益財団法人山梨総合研究所 専務理事 村田 俊也)