新卒採用の実態


毎日新聞No.635【令和5年4月16日発行】

 今年も、4月から新社会人生活をスタートした新規卒業者の初々しい姿をテレビ等でみかける季節がやってきた。就職求人市場は引き続き売り手市場の傾向が続いていると言われるが、その実態についてもう少し詳しくみていきたい。 

 株式会社リクルートが20234月に公表した「ワークス大卒求人倍率調査(2023年卒)」によると、全国の民間企業の求人総数70.7万人に対して学生の民間企業就職希望者数は44.9万人と求人総数が25.8万人の超過需要となっている。つまり、民間企業への就職を希望する学生1人に対し、企業から何件の求人があるのかを示す大卒求人倍率は1.58倍であり、全体としては売り手市場の状況となっている。
 ただ、規模別や業種別でデータをみると、必ずしも売り手市場とは言えない現状がみえてくる。規模別でみると、従業員規模300人未満の企業では5.31倍であるのに対し、従業員規模5,000人以上では0.37倍となっており、大きな乖離(かいり)がある。業種別では、サービス・情報業が0.33倍、金融業が0.22倍と低くなっているのに対し、流通業が7.77倍、建設業が7.70倍などと高くなっており、こちらも大きな差がみられる。
 これらのデータは、学生の就職希望先が大企業や特定の業種に集中していることを意味していることから、学生にとってこうした企業に就職することは容易ではない一方で、中小企業などでは大卒の新規採用に苦慮していることが分かる。
 とは言え、学生も安定性や収入だけで大企業や金融業を希望しているわけではないようだ。リクルートが20231月に実施した「2023年新卒採用 大学生の就職活動調査」では、入社を決めた企業の内定を承諾した理由として「社員や社風が魅力的である(12.3%)」、「業績が安定している(7.0%)」といった回答を抑えて、「自分のやりたい仕事(職種)ができる」が15.6%で第1位となっている。一方で、「自分がどのようなことに興味があるかよくわかっているか」との問いに対しては「どちらかといえばわかっていない」「わかっていない」の合計が約4割となっており、自分のやりたい仕事(業種)が必ずしも明確になっているわけではないようだ。

 インターンシップで職場を体験したり、先輩社会人の話を聞くなど、自らアンテナを高くし、様々な経験や情報を得ることが、自分のやりたいことを見つけるためには大切になる。自分の本当にやりたい仕事や企業に巡り合えるよう、早い時期から色々なことに取り組んでみてはいかがだろうか。

(山梨総合研究所 主任研究員 山本 陽介)