Vol.297-1 最高のコミュニケーションツール健康麻雀
特定非営利活動法人健康麻将kaiやまなし
代表理事 長澤貴仁
キャッチコピー「山梨県を日本一の麻雀県に」を掲げ、産官学あらゆる団体の活動と
健康麻雀を融合させることで地方創生、社会課題解決を目指す活動を実施。
1.はじめに
【麻雀=悪】こんなイメージをお持ちの方が未だにたくさんおられます。ドラマや映画のワンシーンで、麻雀を打っているところに警察が突入し犯人が慌てて裏口から逃げる(笑)。こんな場面を我々はイメージとして持ち合わせているのかもしれません。
事実、私の知り合いの女性が小学生の息子さんから麻雀をやってみたいと言われたとき、「麻雀はやってはいけないもの」だと思っていたので大変困ってしまった、というエピソードもあるぐらいです。
このように多くの方から悪い印象を持たれている麻雀が実はとてつもないポテンシャルを秘めており、社会課題解決の一助に、あるいは地方創生の起爆剤になりうることを、事業体験を基にお伝えしたいと思います。
2.麻雀業界の変容について
さて、皆さまは【健康麻雀】というフレーズを耳にしたことがあるでしょうか。
現在、特定非営利活動法人(以下、NPO法人)として事業を展開している「健康麻将(マージャン)kaiやまなし」が、2018年に任意団体として活動を始めてから丸5年、幾度となく答えてきた質問があります。
『健康麻雀って何ですか?』
まずここをクリアにしないと全く話が進まないわけです。
健康麻雀を一言で言うと「健全麻雀」です。「飲まない・吸わない・賭けない」という健康麻雀の有名なキャッチコピーが示すとおり、従来の麻雀はそれとは真逆で、たばこの煙がモクモクしている狭い空間で朝まで徹マン(徹夜で麻雀)、さらにお金を賭けているケースが圧倒的に多く、不健康且つ強いギャンブルイメージを持っていました。そういった負の印象を払拭するため、健康的かつ健全な遊戯としての麻雀のことを40年ほど前に健康麻将(マージャン)と名付けたそうです。
しかし、そう簡単に悪いイメージが払拭されるわけはなく、長い間マイナスイメージから脱却することが出来なかった麻雀業界に、近年大きな変化が起こっています。例えば各地域における高齢者市民サークルにおいて麻雀は大人気のコンテンツになっていたり、あるいは2018年に開幕したプロ麻雀リーグ【Mリーグ】においてはエンタメとして若い世代を中心に多くの麻雀ファンを獲得し、大人も子供も一緒に楽しめる麻雀、あるいは真剣に実力を競う競技麻雀が浸透しつつあるのです。
3.活動を始めたきっかけ
話は変わりますが、少し私自身のことをお伝えしたいと思います。NPO法人健康麻将kaiやまなしの代表理事に就任した私ですが、実は麻雀業界の人間でもなければ麻雀に関わる仕事など一切したこともありません。そんな私が、現在は毎日毎日麻雀のお仕事をしているというのも本当に不思議な話です。
2017年当時、39歳の私はサラリーマンとして営業職に就いていました。家族を養うために仕事をして自分の楽しみはそこそこに、「そんな人生でも良いや」と思いながらそれなりに仕事は頑張っていたのですが、そこに充実感や達成感は無く、無気力な毎日を過ごしていました。そんな時に一冊の本に出会います。それは『好きな事だけで生きていく』という、当時の私にとってはとても衝撃的な内容でした。40歳になるという節目のタイミングもあったのかもしれません。読み進めていくうちにふつふつと湧き上がるものがあり、もっと生き生きとした人生を過ごしたい、どうせなら世の中の役に立つような活動がしたいと思うようになったのです。
それからは人伝に社会貢献活動の話を聞いてみたり、ボランティア活動に参加してみたり、あれこれと自分に合うような活動を探して半年ぐらい経った頃、ちょうど40歳になりたての2018年初頭に、「健康麻雀」というフレーズをインターネットで初めて見つけました。
『健康麻雀ってなんだ?』
初めて聞くこの言葉に当時の私は「健康と麻雀が全く一致しない」、「どんなルールで誰がやるような麻雀なの」と疑問だらけでした。そこから健康麻雀について調べたり、協会の方に連絡を取ったりする事になるのですが、どうせやるなら「自分らしく」、「ワクワクすること」で世の為、人の為になる活動がしたいという思いがあったので、小学生のころから麻雀をしている私にとって健康麻雀というフレーズはスッと心に入ってくる感覚があり、そこから活動をスタートするまでは本当にあっという間でした。
今思えば、世の中の役に立ちたいという自己実現の方法としての健康麻雀は、私にとって最高の出会いだったのかもしれません。
4.健康麻雀の効果
健康麻雀がもたらす効果として当法人では主に次の3つを掲げており、それらの効果が複層的に折り重なることで地域の活性化や社会課題解決の一助になるよう努めております。
① 高齢者の健康維持・増進
足腰の不自由など、身体的なハンデや体力的なハンデをものともしない健康麻雀は、シニア世代が容易に参加できる為、参加頻度が高くなる傾向にあります。
それだけでも高齢者の孤立に関わる課題に大きく作用することができるのですが、頭脳と指先を緻密に使う健康麻雀は、知的行動と手先指先の細かな運動を同時に行うことで、認知症予防・フレイル予防に絶大な効果があると言われています。また、4人で対戦するゲームの性質上、活発な対人交流が自然と発生するため、女性はもとよりコミュニケーションが苦手とされる高齢男性の積極的な社会参画を促すことができ、シニア世代の皆様が心身ともに楽しく生活するための健康法として健康麻雀はとても優秀なツールなのです。
② 子供の情操教育
麻雀とはどんなゲームですか?と聞かれたら「不確定情報ゲーム」と答えたりします。盤面の状況が全て見えている将棋や囲碁と違い、麻雀は相手が何をやっているのか分からず、牌が伏せて置いてあるため、目に見えるほとんどの情報が不確定要素なのです。ゆえに麻雀というゲームは盤面にある数少ない情報を頼りに様々な状況を予想しながら最善の打ち筋(戦い方)を推察するしかないのです。そういったゲームの特性から、麻雀をすることで分析力や判断力が身につくばかりか、めまぐるしく変わる状況下での押引き、つまり決断力が養われます。また麻雀は、最適解を導き最善を尽くしたとしても必ず勝てるとは限らないとても理不尽なゲームでもあります。努力が報われない時のくやしさや感情の持ちようは、現代の若者に足りないと言われている忍耐力も自然と身につける事ができるのです。
③ 世代間の交流促進
私は健康麻雀を「老若男女を問わず参加できる世代間コミュニケーションツールである」と考えています。フィジカルのハンデが少なく、年齢性別を超えて対戦することができ、初心者が上級者に勝ってしまう事もある。こんなスポーツや競技が他にあるでしょうか。この世代間交流こそが様々な社会問題を解決するための糸口になると確信しております。
5.当会の活動
では、当会が普段どんな健康麻雀活動をしているのかご紹介したいと思います。
① 健康麻雀交流会
麻雀愛好家が集まってゲームをしながら交流を図る場所です。年齢・性別を問わず様々な世代の皆様が麻雀を楽しむ場所であり、この交流会こそまさに世代間コミュニティの一丁目一番地なのです。10代から80代まで幅広い年齢層の参加があり、共通して言える事は「自らが参加したくて来ている」という事。誰かにやらされていることは長続きしません。持続可能性という意味でも、フィジカルの要素も踏まえたうえで麻雀ほど継続率の高いものは他に無いのではないでしょうか。

② 健康麻雀教室
健康麻雀の大きな特徴の一つとして教室参加者が多いことがあげられます。全く麻雀をやったことが無い初心者の方でも、教室があることで一から麻雀を始めることができます。高齢者層の生徒さんが多く、特に女性比率が高いのも特徴的です。
また、近頃は子供や学生の参加も多くなってきました。スマホで麻雀アプリをやっている子供たちが、オンライン対戦だけではなくリアル対戦もしてみたい!とか、ゲームの中だけだといまいちルールが分からないのでちゃんと習ってみたい!と言って参加してくれるケースが多いのです。それにしてもスマホで麻雀をする子供たちが全国的にかなり多くいるという事には本当に驚かされます。

③ 健康麻雀イベント
これはコラボ事業と言い換えても良いのですが、健康麻雀×●●●ということです。
当法人における代表的なコラボ事業の一つは「健康麻雀×社会福祉施設」です。高齢者層と相性バツグンの健康麻雀なので、通所型のデイサービスや入所施設、あるいはサービス付き高齢者向け住宅等における出張麻雀イベントの開催要望がどんどん増えている状況で、健康麻雀イベントの定期開催契約を結ばせて頂いている社会福祉法人もあります。
また、企業からのイベント開催要望も増えています。社員同士で飲みに行くことも少なく、埋まらない世代間ギャップによって意思疎通を図ることが難しくなってしまった昨今、麻雀イベントを開催することで遊びながらコミュニケーションが図れるという事で人気に火がついております。
現在では、行政連携事業も増えてきました。例えば、笛吹市の市民講座として健康麻雀講座を開催。定員8名に対して40名も応募があった為に急遽参加定員を増やさなければならない程の人気講座となりました。
また、今年度は山梨市からの委託事業として通所型サービスにもチャレンジします。介護保険事業の一環である通所型サービスは、フレイル予防になる取り組みに対して自治体から委託を受けて事業連携を図るというもので、健康麻雀はまさにうってつけなのです。
④ 健康麻雀競技会、大会運営
前述の通り、競技としての健康麻雀も幅広い世代から支持されており、毎年開催しているイベントとしては山梨県大会があります。また、全日本健康麻将協議会が主催する「全日本健康麻将選手権」のように広範囲かつ規模感の大きな大会もあり、本大会優勝者には文部科学大臣賞が授与される格式の高い大会となっております。今後は競技麻雀が全国的に増えていくという予測もあるようです。
6.エピソード
ここで、私が関わった印象的なエピソードを3つ紹介します。
① 高齢者と麻雀
麻雀交流会と教室の両方に参加してくださっている80代女性のミヤコさん。何気ない会話で言われた言葉がずっと印象に残っています。
『私、勇気を出してここの麻雀に参加して本当に良かった!だって、ここに来てなかったら毎日草むしりしてテレビを見るぐらいしかやる事が無かったもの!』
ミヤコさんは人に会うのが苦手でとても緊張してしまうらしく、チラシで当会の麻雀を知ってから連絡をするまでに1ヶ月も悩んだそうです。それでも自宅から近いところで麻雀をやっているのが気になっていて、やっぱり参加したくて勇気を出して連絡してくれたそうです。そんなミヤコさんが今年3月の交流会でなんと優勝したのです!8卓32名の交流会で優勝するのは簡単なことではありません。優勝者の発表でミヤコさんの名前を呼んだときは思わず泣きそうになってしまいました。あの時のミヤコさんの驚いた表情、嬉しそうな照れくさそうな顔は忘れられません。
高齢者の社会参画、生き甲斐づくりなど耳障りの良いフレーズはそこかしこで聞きますが、健康麻雀による高齢者の生き甲斐づくりは現実としてここにあります。
② 子供と麻雀
先ほどからお伝えしている通り、当会の健康麻雀イベントには子ども達も多く参加してくれます。なかでも麻雀大好き中学生のなっちゃんは、麻雀歴30年以上の大人達に勝ってしまうほどの実力の持ち主です。2021年に当会が主催したプロ雀士招待イベントに来てくれた事がきっかけとなり、それ以降ほとんどの麻雀イベントに参加してくれるようになりました。
そんな彼女が不登校だと知ったのは何回かイベントに参加してくれた後のこと。
思い起こせば、初めのうちはほとんど会話もせず黙々と麻雀を打っているおとなしい子でした。あれから1年以上経って彼女はどうなったかと言うと…別人かと思うぐらいに明るくなり、会話も積極的にするようになったのです。麻雀のお陰で彼女が明るくなったとは言いません。しかし、彼女自身が麻雀をしたいという目的で参加しているうちに、80代のおばあちゃん、40代のおじさん、20代のお兄ちゃんと自然と交流が生まれてコミュニケーションをとれるようになったのは事実であり、健康麻雀コミュニティが彼女にもたらした影響は少なくないはずです。
現代の子ども達のコミュニケーション能力を考えたときに、社会問題の一つでもある「地域社会の崩壊」を無視することはできません。ひとむかし前は「地域コミュニティ」がしっかりしていたので地元の運動会や子どもクラブなどの地域行事に参加したり、自治会や組単位での催しも数多くあり、そういったコミュニティにおいて自然と世代間交流によるコミュニケーション能力が育まれていたはずなのです。しかし近年では地域行事が縮小、あるいは消滅してしまったうえに、近所付き合いもほとんど無い、更には核家族化が急速に進んでしまった事で、世代間交流の機会はほとんど無くなってしまいました。なっちゃんや他の子どもたちが麻雀を通じて成長する姿を見ているうちに、健康麻雀コミュニティは世代間交流の機会として最適なのではないかと思えるようになったのです。
③ 全日本健康麻将選手権
2022年8月、岐阜県で開催された『全日本健康麻将選手権2022』に山梨県代表選手4名と一緒に参加しました。私は選手ではなく大会審判の役目をいただいたので運営サイドでの参加でしたが、全国津々浦々から33チーム132名の代表選手が参加するビッグイベントなので審判も真剣勝負です。
山梨県代表は県予選で上位に入った40代~70代の男性3名女性1名というチームです。実力は十分通用すると思っていましたが、半荘1回戦目が終了、2回戦、3回戦と進む毎に『あれ?これは上位入賞もあり得るぞ!』と思えるようなスコアで進んでいったのです。そして最終4回戦目が終了。閉会セレモニーの結果発表をドキドキしながら聞いていたら…なんと団体戦で山梨県代表チームが3位に入賞したのです!これは本当に凄いことで、団体戦で上位に入るには4名全員のパフォーマンスが良くないと駄目ですし、まして相手は全国の予選会を勝ち上がってきた強者ばかりなのです。私は選手ではありませんでしたが皆さんの気力あふれる闘牌に感動しましたし、本当に素敵な思い出をいただきました。

7.今後の展望
2018年は、健康麻雀とは何かを自分自身が学び、それを皆様に知ってもらう1年でした。
2019年は、具体的な活動をするために仲間作りと事業構築に奔走しました。
2020年は、構築した基盤をどのように発展させていくか試していた1年であり、法人1期目がスタートした記念すべき年でもあります。
2021年は、新たな取り組みやイベント開催を意識した年でした。私自身が独立を決意したのもこの年です。
2022年は、事業の質と量を飛躍的に向上させた年です。交流会や教室のような基本イベントをより良いものにするために思案を重ね、開催日程の大幅な改変によって参加者数の増加にチャレンジした1年でした。
2023年1月、目標の一つでもあったテナントを借りての健康マージャン教室をスタート。同時にホームページも開設し、新たな参加者の獲得、新規契約を順調に伸ばしているところです。
今後の目標は、あえて抽象的に言うと「活気を取り戻す為の麻雀事業の展開」です。5年間の活動で気が付いたのですが、個人も法人も行政もあらゆる団体が、コミュニケーションの取り方を忘れてしまったように感じるのです。交流は本来他人から指図されるものではありません。お互いが楽しいと思い、同じ空間にいることを有意義な時間だと感じることが最も大切なことです。麻雀に参加している皆さんの屈託のない笑顔を見ているとその本質に気付かされるのです。
もちろん具体的な目標もあります。今年は【認定NPO法人】の認定を受けるためのステップの年です。前述の通り、これまで以上に地域社会に役立てるような事業を推進することで当法人の活動に賛同してくださる方を募り、年間寄付件数300件の基盤作りに邁進したいと考えています。
8.最後に
有り難いことに、私のことを「麻雀の人」と認識してくれる方が多くなりました。方々で口にするキャッチコピー『山梨県を日本一の麻雀県に』を何年も飽きることなく言い続けてきたことが功を奏しているのかもしれません。日本一と言うからには何かしらの定義があると思われる方もいらっしゃるかもしれませんが実はありません(笑)。
しかしながらイメージだけは明確に持っているのです。産官学、NPO、ボランティア団体、ソーシャルセクションなどあらゆる団体や個人と連携し、そこに健康麻雀が存在する。健康麻雀が山梨県内の津々浦々に在り、様々なコラボレーションが生まれ、関わる全ての人達が幸せな気持ちになれる、そんな世界を作りたいのです。絵空事と言われるかもしれませんが、やりたいものはやりたいのです。