水素エネルギーへの期待
毎日新聞No.636【令和5年4月30日発行】
脱炭素社会の実現に向けて、水素エネルギーに関心が高まっている。
水素は燃焼時に温室効果ガスである二酸化炭素を排出せず、多様な製造方法で生成することができるという特徴があり、環境負荷を低減するエネルギーとしての活用が期待されている。
水素エネルギーは用途の幅も広く、燃料電池を使って電気を作ることで、家庭や企業における光熱費削減や燃料電池車による排気ガスの削減など、電力分野の脱炭素化に貢献することが期待されている。また、ボイラーでの燃焼による熱源としての利用や、水素と二酸化炭素を組み合わせて合成燃料を生成することで自動車やガス分野の脱炭素化を図ることも模索されている。さらに、水素は貯蔵することが可能であるため、発電量が不安定である再生可能エネルギーの余剰電力を水素に転換して貯蔵し、必要な時に利用することで再生可能エネルギーの効率的な活用を可能にするなど、その役割は今後一層拡大することが期待されている。
2021年10月に策定された国の第6次エネルギー基本計画では、2030年度におけるエネルギー供給の構成として水素・アンモニアを1%程度とすることが目標として位置づけられ、将来的には2050年カーボンニュートラル実現に向けて水素エネルギー供給量を増やしていくことが想定されている。それに向けて、2023年5月末を目途に水素基本戦略の改定が検討されており、2040年における水素等の野心的な導入量目標が設定されるなど、水素社会の実現に向けた取り組みは一層加速していく見込みである。
一方で、水素エネルギーを活用するまでに解決すべき課題もある。まずは他のエネルギーと遜色ない水準までコストを低減していく必要があるほか、将来的には大量の水素を製造する仕組み(つくる)や、水素を流通するためのサプライチェーン(はこぶ・ためる・つかう)を構築することも必要となる。
こうした中、水素エネルギーの社会実装に向けた取り組みは、国内外で産官学の連携により盛んにおこなわれるようになってきている。山梨県内においても、水素を活用した燃料電池の本格普及に向けた研究開発や実証実験、太陽光発電の電力を利用して水素を製造するP2G(Power to Gas)システムの普及に向けた取り組み等が進められている。
水素エネルギーが私たちの日常生活や産業活動で普遍的に利用される「水素社会」は、そう遠くない未来にやってくるだろう。地球温暖化対策につながるクリーンなエネルギーが、私たちの生活をより快適にするとともに、地域の産業や経済の成長にもつながっていくことに期待したい。
(山梨総合研究所 主任研究員 櫻林 晃)