あなたの街の住み心地は?
毎日新聞No.640【令和5年6月25日発行】
5月末に、毎年大東建託が実施している「街の住みここち」に関する今年度の甲信越版ランキングが発表された。過去4年間1位に君臨していた山梨県昭和町は2位となり、新たに1位の座に就いたのが、長野県原村であった。
昭和町は、甲府市に隣接する人口約2万人の町であり、大型ショッピングモールをはじめとした店舗や飲食店が数多く立地し、新たな住宅の整備も積極的に進められてきた。こうしたことを背景に、人口減少に歯止めがかからない市町村が多い中、転入により人口が増加傾向にある数少ない自治体でもある。一方、今回1位となった原村は、八ヶ岳の裾野に位置する標高1000m前後の高原の村であり、「日本で最も美しい村」連合に加盟するほど自然の豊かさや農村景観を有している。人口は約8千人であるが、こちらも昭和町と同様に移住により人口は増加傾向にある。
この2つの自治体の評価内容は対照的である。昭和町は、生活利便性や交通利便性に対する評価が1位であるのに対して、原村は、静かさ・治安、物価・家賃や防災について1位となっている。つまり、昭和町は主に利便性が高いことが、また原村は生活空間の快適性や安全・安心が、それぞれ住民の高い評価につながっていることがうかがえる。
この結果をみると、昭和町の人口増加は若者や子育て世代、原村は高齢者が中心ではないか、と思い調べてみたところ、令和4年の住民基本台帳人口移動報告によると、確かに昭和町は20~24歳の転入超過が最も多いが、原村においても30歳代、つまり子育て世代の移住が多いのである。
子育て世代に限らず今日のライフスタイルにおける価値観は実に多様である。利便性や効率性などの「機能的価値」もあれば、美しさや快適性、安心感などといった「情緒的価値」もある中で、移住者は自分にとっての住み心地の良い街を選択しているのだろう。そう考えると、「住み心地」というものは、順位だけではなく価値観との相性も重要だ。
では、私たちが暮らす街との相性はどうだろうか。より相性の良い街に引っ越すのもありだが、どうすればもっと住み心地が良い街になるかを考えるのも大切だ。
(山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤 文昭)