若者文化と互いの尊重
毎日新聞No.641【令和5年7月9日発行】
息子のスケートボードを借りて挑戦したのは数年前。スノーボードの経験からすぐに乗りこなせると高を括っていたものの、腰が引けた状態で立つのがやっとだった。
東京オリンピックでの日本人選手の活躍により、スケートボード競技への注目度は急激に高まった。甲府市の小瀬スポーツ公園芝生広場内に昨年開設された「スケートボード優先エリア」は、週末になると練習に励む子どもや若者でにぎわう。
NPO法人日本スケートパーク協会の「日本全国公共スケートパーク総数調査」によると、全国の公設スケートパークは434施設(5月末現在)で、2017年の100施設の4倍以上に増加した。最も多いのは東京都の32施設、次いで長野県と北海道の各23施設で、山梨県は全国で最も少ない2施設であった。
施設整備が進んだのは、競技人気だけが理由なのではなさそうだ。路上や公園内、空き地といった施設外での滑走による騒音や危険走行、手すりや外溝の損壊といった迷惑行為が散見され、苦情が多くなったため、行政が専用施設を整備しスケーターを「誘導」したケースもある。しかし他方ではスケートボード専用広場の整備計画が、騒音を懸念する地域住民の反対などで中止となったことも。
滑走音やジャンプの着地音などの騒音はそこに生活する住民にとって許容しがたく、また、スケーターに多いだぼだぼのファッションといったストリートカルチャーに対する理解不足も苦情につながる一因のようだ。
一般社団法人日本スケートボード協会もマナー向上に取り組む。Webサイトの「よくある質問」内では「家の近所で滑れる場所がドンドンなくなっています。(以降省略)」と問われると、「場所が少なくなるっていう事は、人に迷惑をかけて追い出されたわけではないのですか?それなら場所が少なくなって当たり前だし、役所に頼んで作ってもらうなんて無理です」と一喝。「近所の人達にも理解してもらうことが最重要です」と呼び掛ける。
街中にあふれる「この場所ではスケートボード禁止」といった“ダサい”看板をこれ以上増やさないためにも、マナーの向上とともに、スケーターが「ゴン攻め」できる環境を地域の理解を得ながら整えることも必要だ。ボードを熱心に練習する彼らの目の輝きを濁さないよう、行政や住民、スケーターが互いを尊重し、解決策が練られることを願いたい。
(山梨総合研究所 主任研究員 渡辺たま緒)