障害者の災害時避難


山梨日日新聞No.28【令和5年7月24日発行】

 今年の梅雨も、全国各地で多くの水害や土砂災害が発生した。山梨県は周辺を山に囲まれており、河川も多く有するため土砂災害のリスクを抱えている他、南海トラフ地震や富士山噴火の影響範囲内の地域であり、災害に対する備えは欠かせない。

 災害発生時に、健常者よりも避難が困難となるのが障害者だ。身体障害があり歩行が困難、視覚障害がありよく見えない、知的障害があり周囲の状況判断がうまくできない、精神障害があり人ごみだとパニックになってしまう、こういった人々が適時適切に避難することが難しいことは想像に難くないが、それはデータにも表れている。NHK2012年に行った東日本大震災で被害にあった障害者数を調べた調査では、障害者の死亡率は住民全体の死亡率の約2倍となっている。

 NHK2021年に876名を対象に行った「障害者と防災」アンケート調査では、「災害が起こったときに避難所に行きますか」との問いに対し、「行く」という人は48.4%で、約半数にとどまっている。理由としては「1人では避難所まで避難できない」、「他の人に迷惑をかけたくない」、「避難所へ行ってもバリアフリーになっていないし、何がどこにあるのか分からない」、「盲導犬がいるので、周りの人の理解が得られるのか心配」など様々な声があり、障害の特性による物理的・心理的な障壁が、避難へのハードルを上げていることが見て取れる。
 一方、行政の視点からみても、障害者一人ひとりの状態に合った情報提供や避難所運営を行うことは非常に難しい課題である。本人が支援を望まないケースもある他、障害の有無は重要な個人情報であり、近隣住民や関係団体への情報提供が容易でないことも相まって、個々人への適切な支援を行うことは難易度が高い。2016年には内閣府の「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」が改定され、障害者支援施設を福祉施設として活用するための手順やポイントを整理するなど、災害時に配慮を要する人へのよりよい対応の実現を目指しているが、その道のりは険しい状況である。

 防災には「自助」、「公助」、「共助」の3つが大切だが、障害者の災害時避難においては「共助」が特に重要となる。上記アンケート結果にもあるとおり、障害者は「障害のことを人に知られたくない」、「迷惑をかけるのではないか」等と考え、避難をためらってしまうケースも多い。「発災時に、近所の人が様子を見に行く」「視覚障害の方を、避難所でトイレまで誘導する」「車いすの人のために、避難所の段差をできるだけ無くす」など、1つ1つは些細なことでも、こうした手助けがあることで、障害者の避難に対する心理的ハードルは大きく下がる。
 共助という名の助け合いは、まずはお互いを知ることから始まる。例えば、NHKの「災害時 障害者のためのサイト」では、障害者本人が事前の準備や災害時に取るべき行動を整理しているほか、支援する方に向けても、障害別に配慮すべき事項や支援のポイントをまとめている。こうしたサイトだけでなく、近年ではSNS等でも日々様々な防災に関する情報が発信されており、防災に関する情報へのアクセスは以前よりも格段にしやすくなっている。いざという時に自分はどうすればよいかを考えることはもちろん重要だが、もう一歩踏み込んで、助けが必要な人に対して自分は何ができるのか、いま一度考えてみてはいかがだろうか。

(公益財団法 人山梨総合研究所 主任研究員 山本陽介)