地球温暖化の長期的な影響


山梨日日新聞No.29【令和5年8月7日発行】

 この寄稿文を執筆している7月後半は連日大変暑い日が続いている。日本全国で40℃近くまで上がるような極端な暑さになる所が多数あり、夜も厳しい暑さが長く熱帯夜になっている。県内では危険な暑さへの注意を呼びかけ熱中症予防行動をとるよう促す「熱中症警戒アラート」も発表されるなど、日々の生活の中で暑さを気にせずに過ごすことができなくなってきている。
 このような事態は、日本だけでなく世界でも起こっている。シベリアでの森林火災、アメリカや欧州、中国で40℃を超える暑さが続くなど、命に係わるような暑さのニュースは様々なところから届く。そしてそんな状況を裏付けるようなデータもある。図は米国国立環境予測センターの公表データに基づきメイン大学の気候変動研究所が作成した気候推移のグラフであるが、今年7月6日の地球の平均気温は17.23℃に達し、1979年以来最も暑い日となったそうだ。世界的に見ても温暖化は目に見える形で進んでいる。

出典:「Climate Reanalyzer」 https://climatereanalyzer.org/clim/t2_daily/

 

 一方、地球温暖化阻止の取り組みとしては、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定がある。この協定では「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標が掲げられており、各国ではこれに基づいて様々な対策が進められている。
 この目標を踏まえて、令和4年3月に甲府地方気象台・東京管区気象台から「山梨県の気候変動」という資料が公表された。その中では21世紀末の将来予測として、先述のパリ協定の2℃目標が達成された世界「2℃上昇シナリオ」と追加的な緩和策を取らなかった世界「4℃上昇シナリオ」という2つのシナリオが示されているが、平均気温の上昇、猛暑日や熱帯夜の日数の増加により、「産業や生態系など広い分野への大きな影響と健康被害の増大」が起こるとされている。
 仮に平均気温が4℃上昇した場合、筆者は県内で様々な産業に影響が出るのではないかと危惧している。本県の特産品である果樹の栽培ついて考えれば、温暖化により夜間の気温が下がらないことで、ブドウなどで着色不良が起こってしまう。また温暖化に伴う局地的な大雨が頻発すれば、果樹の病気や発育不良などを引き起こし防除作業の増加や生産量の減少にもつながる。21世紀末と言えば先のことに聞こえるが、およそ70年後のことである。人生100年時代と言われる昨今では、二十歳未満の人の多くはまだ存命している頃だろう。そんな近い未来に山梨が誇る魅力は危機に瀕してしまう。

 「自然は祖先から譲り受けたものではなく、子孫から借りているものだ」。これはネイティブアメリカン・ナホバ族のことわざだそうだが、山梨には自然の恩恵を受ける産業が数多くある。だからこそ私たちは次の世代に自然をより良い状態で引き渡さなければならない。温暖化という地球規模の現象に対しても、一人ひとりがなすべきことをなしていく必要があるだろう。

(公益財団法 人山梨総合研究所 主任研究員 前田将司)