子育ての見えざる負担
毎日新聞No.644【令和5年8月20日発行】
総務省が先月発表した令和4年の就業構造基本調査によれば、働く女性の数は3,035万人、就業率は53.2%といずれも過去最高であった。また同省が公表する労働力調査でも共働き世帯の数が過去最高となった。これらは育児をしながら働ける環境整備が進んだことが一因とされているが、働きながら幼い子どもを育てることの苦労は多い。
保育園、認定こども園といった保育施設の充実により、安心して子どもを預けて働ける環境は整ってきているが、大変なのは子供が病気になったときの対応だ。子どもが発熱した場合、保育施設に子どもを預けることはできなくなるため、近くに子供の面倒を見られる親族などがいない親は病児保育に頼ることになる。1回あたりの利用料として2,000円ほどかかるが、働く親にとっては非常に頼りになる存在だ。
ただ深刻なのは子どもの症状が悪化して病院での入院が必要となった際に、親が付き添い入院を求められるケースだ。付き添い入院とは、幼い子どもが入院する際、親が病室に寝泊まりして世話をすることで、本来は任意の行為であるため親への食事やベッドの提供がないまま病院側から要請されるケースが多く、親にとっては心身ともに重い負担となっている。NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」が行った付き添い入院についての全国調査によれば、約8割の親が付き添い入院を要請されており、食事や排泄の介助など看護要員が行うとされる療養上の世話を行ったという。また、病室での長時間にわたる子どものケアのため食事も院内のコンビニや売店で調達せざるえないような状況により、5割を超える親が体調を崩していた。同調査では現行制度が人員のひっ迫する医療現場の実態と一致していないことがこのような現状を招いていることも指摘されており、調査結果を受けてこども家庭庁と厚生労働省は今年度中に医療機関を対象とした実態調査を行うと発表した。
日本総合研究所の藤波匠氏は、著書「なぜ少子化は止められないのか」のなかで、少子化の一因として子育てが「苦行」になっていることを指摘する。子育てにまつわる働く親の苦労はたくさんあるものの、子どもの病気によりそれが苦行となってしまうことは避けなければならない。国の実態調査を踏まえ、関係者の協力による、より良いケアの体制づくりを考えていく必要があるだろう。
(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 前田将司)