観光業 求められる戦略は


山梨日日新聞No.30【令和5年8月28日発行】

 観光客が戻ってきている。先月、観光庁は6月の訪日外国人観光客の数が、20201月以来3年半ぶりに200万人を突破したと発表した。また、上半期(1月~6月)の累計は10712千人で、4年ぶりに1千万人を突破した。さらに、新型コロナの影響で閉鎖されていた羽田空港第2ターミナルの国際線エリアの運用が719日から再開された。インバウンド復活に期待がかかっている。
 山梨県においても観光客は戻ってきている。県が発表した宿泊統計調査によると、4月に県内に宿泊した観光客はのべ57万7千人で、昨年同月を8万1千人(率にして16%)上回った。ただ、県の観光文化・スポーツ部によると、宿泊者数の伸び率は全国平均には達していないとの見解である。一方、4月の外国人観光客の宿泊者数は約14万人でコロナ禍の昨年から大幅に増加し、伸び率は全国トップであった。山梨県においては、外国人観光客は戻ってきているが、日本人も含めた宿泊者数の伸びは、まだまだといった状況である。

 

観光庁の宿泊旅行統計調査より作成


 そんな中、課題もいくつか存在している。先ずは、接客などに関わる人材の不足である。これに対して、県はデジタル化を推進することにより、人手不足の解消を目指している。山梨日日新聞の715日付け記事によると、県は接客や事務作業を効率化するデジタル機器の導入費を補助する予定である。
 もう一つは、観光分野における付加価値の低さである。県としては、今後は入込客数の増加よりも、高付加価値化による観光消費の増大に期待している。国も観光分野における高付加価値化を後押ししている。例えば、観光庁は「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」を推進している。この事業は、地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化に向けて、地域が計画を作成し、その計画に基づき実施される宿泊施設や観光施設等の改修、廃屋の撤去、面的DXなどを支援するものである。

 先日、今年度第2回目の審査結果が公表され、山梨県においては、「甲府観光開発株式会社」と「富士吉田市観光推進協議会」が採択された。前者は、湯村温泉旅館協同組合と昇仙峡観光協会、更にはJTB甲府支店が協働して、昇仙峡と湯村温泉地区一帯の再開発を手掛けるものである。後者は、富士吉田市内の旅館等の改修と、DX化による付加価値の向上を目指している。両社とも、高付加価値化への取り組みとして期待している。
 また、昨年度、山梨総合研究所は県からの委託事業として「キャリアアップYAMANASHI」を推進した。その一環として、「観光おもてなし講座 ~宿泊者の体験を最大化する“時”のつくりかた~」を開講した。全6回の講座であったが、観光業に携わる様々な職種の方14人が受講し、「上質な時」という新たな価値をどのようにつくり出していくかを学んでいった。勿論、これだけで十分ではなく、このような講座が継続して行われることが必要であり、さらには、宿泊施設等の経営者が戦略的に高付加価値化に取り組むことが重要である。そのためにも、観光業における経営者を対象とした戦略的思考等の講座も必要になってくるであろう。

(公益財団法 人山梨総合研究所 理事長 今井 久)