持続可能な山岳観光を目指して


毎日新聞No.646【令和5年9月17日発行】

 令和5年5月に新型コロナウィルス感染症が5類に移行し、今夏は国内外から多くの観光客が山梨県を訪れた。特に富士山の登山者数が急増するなど、登山やハイキングを楽しむ方を多く見かけるようになった。筆者も久々に山歩きを楽しんだが、自然の中を歩くのは非常に気持ちが良い。地域や標高の違いによって様々な自然を楽しむことができ、鳥のさえずりを聞きながら山頂を目指すのは上質で贅沢な時間の使い方であった。

 登山やハイキングは、山梨県内の自治体にとって地域活性化につながる重要なコンテンツである。山梨県が令和4年に作成した「やまなしハイキングコース100選」には、県内各地の自然を満喫できるハイキングコースが紹介されているほか、多くの市町村がハイキングのモデルコース等の情報をホームページに掲載し、地域の資源である山岳や自然を活用して観光客を呼び込むことに力を入れている。
 一方で、富士山登山では登山者の急増による登山道の混雑や軽装登山者による事故等が問題となっている。登山には高山病や落石等の多くのリスクが伴うため、登山者には十分な準備や責任ある行動を求めていく必要があるだろう。また、県内各地の登山道やハイキングコースの維持管理も課題となっている。登山道は多くの人が道を歩いたり豪雨により土砂が流出すること等で崩れたりするが、登山道は重機等による整備が難しく、多くの人手や費用がかかる。そのため、登山者には登山道の利用だけではなく、整備ボランティアへの参加や整備協力金等への積極的な協力を求めていくことも必要だろう。

 近年、レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)という言葉が注目を集めている。レスポンシブル・ツーリズムとは、観光客もツーリズムを構成する要素であると捉え、観光客が意識や行動に責任を持つことで、より良い観光地を形成していくという考え方である。今後、山梨県内で登山やハイキングを楽しめる「持続的な山岳観光」を実現していくためには、行政や観光事業者等が魅力ある自然の利活用と保全の好循環を生み出す仕組みを構築するとともに、観光客もより良い観光地づくりに協力できる場や機会を設けることも必要ではないか。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 櫻林 晃)