多様な価値観への理解


山梨日日新聞No.31【令和5年9月18日発行】

 コロナ禍を経験し、私たちの既存の価値観は変化してきた。
 たとえば、生活スタイルをみると、20233月に内閣府が実施した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、18歳未満の子を持つ親に対する「現在の家族と過ごす時間を保ちたいと思うか」という質問において、肯定的な回答が93.3%と2020年5月6月調査時と比べて増加しており、仕事を最優先する姿勢から家族と過ごす時間を大切にしたいという変化がこれまでもみられていたとはいえ、コロナ下においてさらに強まったことが窺える。
 また、消費に関しても、2021年に野村総合研究所が実施した「生活者一万人アンケートにみる日本人の価値観・消費行動の変化」によると、「消費意識・消費スタイルの変化」について、20年前には半数近くを占めていた価格最重視の回答は大きく低下し、自分が気に入った付加価値には対価を支払うこだわり志向への回答が伸長しており、価格、利便性、付加価値と、消費に求めるニーズは多様化が進んでいる。
 このように様々な分野で私たちの価値観が変化する中で、家族や友人など身近な人間関係においても、「価値観が合わずストレスを感じる」ことが起きてはいないだろうか。

 最近、筆者が価値観の違いを痛感した出来事があった。筆者の所有車で知人と出かけた際のことであるが、燃料代の請求をしなかったところ説明を求められ、少額なので不要と伝えたが、考え方の違いから苦情を言われたことがあった。筆者自身は正しい選択と認識し、知人も筆者と同様の考えであると判断してしまったことが原因であるが、相手への確認や、相手の意見を尊重する努力を怠り、自分の意見や価値観を無意識に相手に押し付けてしまったことを後悔する羽目になった。場面や金額、付き合いの深さなどで判断は変わってこようが、費用負担は常に平等であるべきか、少額であればいちいち清算せず面倒を回避することを選ぶか、親しい間柄でも気づいていなかった価値観の差を改めて認識するに至った。
 年齢や生まれ育った環境などの違いがあれば、価値観や常識に違いが生じることは当然であり、自己に多様性を許容する認識がなければ、他者の考えを理解し、受け入れることはできず、互いに不満を抱えることとなる。年齢、国籍、性別の意識、障害の有無など様々な違いのある人々が交流し、また、こうした動きが加速する現代において、筆者のような不幸な事態を招かないためにも、私たちは社会の多様な価値観の存在を認め、他者の意見に対する傾聴力を高め、理解しようとする姿勢を一層意識することが必要となってきている。難しいことではあるが、常に心に余裕を持ち、平常心を保ち、こうした姿勢を貫くといった心構えが重要となろう。

 幸い、知人とは後日和解することができたが、こうした些細な価値観の違いは、家庭や職場、友人関係など社会の至る所に存在している。対面でのコミュニケーションの喪失を招いたと言われるコロナ禍を経て日常を取り戻し人との接点が増えつつある今、積極的に対話を重ね、改めて自身の価値観の在り方を見直し、他者の価値観に対して許容量を高める取り組みが社会に広がっていくことが望まれる。

(公益財団法 人山梨総合研究所 研究員 山本晃郷)