Vol.302 人口減少と自治会のあり方
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 渡辺たま緒
はじめに
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に移行し、この夏は多くの集客イベントが通常開催され、各地でにぎわいを見せた。社会人の就業場所は自宅などのリモートからオフィスへの回帰が進み、出張、旅行での人の往来もコロナ前に戻りつつある。
日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2023年7月の訪日外国人客数は299万1189人と前年同月比77.6%まで回復している。
このように2020年以降、社会に大きな影響を与えた感染症は落ち着きを見せ始めたが、人口減少は深刻になるばかりだ。
山梨県は今年を「人口減少危機突破元年」とし、「人口減少危機対策パッケージ」として施策に取り組むと発表した。また、市川三郷町では、「このままの推移では、最低限の行政サービスの維持すら困難な状況に陥る」と「財政非常事態宣言」を発した。
今回はこうした状況を踏まえて、人口減少下での社会の動きと自治会の変化について述べてみたい。
人口減少による人手不足
総務省統計局の人口推計によると、2023(令和5)年9月1日となっている現在の概算値では、総人口は1億2445万人で、前年同月に比べ52万人の減少となっている。日本人に限れば総人口は1億2157万6千人であり、前年同月に比べ81万1千人減と、1年間でほぼ山梨県の人口(約79万6千人・令和5年9月1日現在の推計人口)分が減少している。
山梨県の総人口はこのままのペースでいくと、2040年には64万人程度となる(国立社会保障・人口問題研究所)と推計されている。コロナによる地方移住、二地域居住によって社会増に転じた地域もあったが、それで一喜一憂している場合ではない。
人口減少の一方で、社会保障費は増え続けている。2021年度の人口1人あたりの社会保障費は1,105,500円で、1973年を100とした際の指数は1925.5まで膨れ上がっている。
人口減少によってまず懸念されるのは、労働力の減少だ。
リクルートワークス研究所が今年3月に発表した「未来予測2040」では、2040年には労働供給制約社会がやってくるとし、労働供給と労働需要のギャップが開き2040年には1,100万人の担い手不足に陥ることがシミュレーションされている。
この状況下では、
- ドライバー不足で荷物が届けられない地域が発生し、「荷物が届くかどうか」が、人が住める地域を決めるようになる。
- 建設作業に従事する施工管理者・オペレーターが慢性的に不足。メンテナンスが必要な道路のうち、78%しか修繕できず、地方部の生活道路は穴だらけに。橋梁の崩落など事故も相次ぐ。結果、移動にかかる時間が増幅。
- 介護現場で介護スタッフ不足が深刻化し、欠員が常態化。(中略)高齢者自身や家族だけで対応せざるを得ず、生活が破綻。
- 医師・看護師ら医療スタッフが必要数に対して足りず、病院設備はあるが医療スタッフがいない状態に。開いている病院も診察まで長蛇の行列。救急搬送先も確保できず、救急車の立ち往生が常態化。
- 現場の人手が逼迫し現役世代に余裕がなくなり、後進・若手を育てられない。後継者がいないため廃業に追い込まれる技術力のある中小企業や、若い人が職場におらずベテラン・シニアが大量の残業をして仕事をこなす大企業が存在。
- 生活面で人手不足に起因したサービス水準低下、サービス消滅に直面。これまで問題なく送れていた生活が破綻し、仕事どころではなくなってしまう。
そして、私たちに打てる4つの解決策として①機械化・自動化、②ワーキッシュアクト[1]、③シニアの小さな仕事、④無駄の削減、を提示する。
筆者が山梨県内の協会や企業を対象に行った別の研究に関するヒアリングでも、「やる気や想いはあっても、人がいなくて動けない」との声を多く聞いた。特に山梨県の観光業、バス・タクシーなどの輸送業においてはコロナ禍で従業員を減らした結果、その人たちが戻っていないことも人材不足に拍車をかけている。
自動化やAIへの依存による社会の多様性の欠如
こうした今後予想される深刻な人手不足の影響に対処するためには、機械化・自動化は必須だ。例えば各省庁、都道府県庁および各市町村では、続々と対話型生成AIのチャットGPTを利用した業務効率化が模索され、山梨県でも先日、導入へと舵を切った。神奈川県横須賀市は、今年4月からいち早く全庁的な活用実証を始め、6月に発表された導入後の職員アンケートでは、「回答者のうち約8割の職員が『仕事の効率が上がる』『利用を継続したい』」とし、ヒアリングでは、「業務短縮効果が認められた」という。
筆者も実際に使用してみたが、想定以上の「働き」に感心するばかりだ。一方で、信ぴょう性、情報漏洩、セキュリティー、情報操作などの数々の課題は未だ解決されていない。さらに世界では、ベルギー人男性がAIに自殺を勧められ実行に至るといった事件も起きた。
また、私たちは既に、インターネット上ではステルスマーケティングによって自分のためだけの「おすすめ」に日々さらされている。このような社会の中で、話し相手は似たような思考の仲間もしくはチャットGPTが大半を占め、気づかぬうちに知識や考えが偏ったり、意見の違いをぶつけ合う機会が失われつつあるのも事実だ。
多様化する社会の縮図である自治会
無意識のうちに起こる思考の偏りを防止し柔軟な考えを取り入れるには、新聞を読むことや、読書会などへの参加による不特定多数の他者からのお勧め本の読破など、自身の好むと好まざるとに関わらない情報や意見の取り入れが必要となるだろう。
その視点から見れば、自治会も多様性を身に付ける場の一つとなり得る。自分が暮らす場所で半強制的に加入を迫られ、様々な役割を担わなければならない自治会は、近年、その負担の多さや煩わしさ、また地域に対する無関心により加入率は減少しているものの、考え方によっては、多様な人によって構成される組織を経験する機会ととらえることができる。
世代はもちろん、育ってきた環境や文化、価値観が異なり、何事にも種々の調整が必要となることから、多様性を経験できる場としては限りない可能性が広がっている。
こうした自治会の“機能”に着目して、自治会の加入率と各種データなどでの相関を見てみた。
その結果、全国の主要都市(浜松市、新潟市、熊本市、岡山市、仙台市、静岡市、札幌市、横浜市、名古屋市、京都市、千葉市、北九州市、さいたま市、川崎市、広島市、堺市、大阪市、相模原市)の自治会加入率と犯罪率(認知件数)、自殺死亡率、年齢中位数(歳)、昼夜間人口比率、核家族世帯割合、単独世帯割合、未婚者割合(15歳以上人口)、母子世帯割合で確認したところ、犯罪率、単独世帯割合、未婚者割合(15歳以上人口)、母子世帯割合で弱いながらも相関がみられた。
具体的には
- 自治会加入率が高い地域は犯罪率が低い傾向
- 自治会加入率が高い地域は単独世帯割合、未婚者割合は低い傾向
- 自治会加入率が高い地域は母子世帯割合は高い傾向
であった。
これは相関関係であり、因果関係でないためあくまで傾向ではあるものの、自治会を通した人々のつながりがある地域は防犯にも一役買っているとも受け取れる。
一方で、単独世帯や未婚者は自治会との距離があり、戦後から続く自治会の特徴となっている「世帯」としての加入について一考し、多様性を担保させる必要があるのではないだろうか。
大学生の「変化の兆し」
その模索の1つとして、甲府市は山梨県立大と共同で自治会を考える講座「地域実践入門 連携講座」を開講した。アパート等で一人暮らしをし、貸主が自治会に代表して加入しているため、自治会に参加する機会がない若者が自治会に興味を持ち、共に活動したいと思える自治会づくりを考えていくものだ。筆者も講師として関わらせてもらっているが、受講する学生にとってこの講座は、縁遠い存在だった「地域」や「自治会」を再認識する場となっている様子がうかがえる。
実家を離れ一人暮らしをしている学生の中には、「家賃に『自治会費』が含まれているものの、会議やイベントの参加要請もなく、何をやっているのか分からない」、「協力する意思はあるが連絡はない」といった声も聞かれ、自治会に対して、好意的な印象や参加する意思はあるものの、つながるきっかけがないことも確認できた。
また、全国に目を向けると地域と実際につながる策として愛知県や千葉県は県営団地にも学生が入居できるようにし、入居要件に自治会加入を設けることで学生×自治会×行政との協働に向けて動き出した。
学生など自治会活動に縁遠い人々を取り入れるためには、個人任せにするのではなくつながるきっかけを設けていくことも必要ではないだろうか。
多様な人のつながり創出が期待できるデジタルの活用
ネットワーク時代と言われる現代、デジタルは世界中の人々がつながるツールとして利用されてきた。人と人のリアルなつながりが希薄になる中、自治会でもデジタル活用は広がっている。北海道室蘭市は「デジタル町内会」を導入し加入率100%を達成した。東京都は「町会つながる!デジタルコンテスト」を今年度初めて実施し、デジタルで活性化に取り組む町会・自治会を募集している。
それぞれ、デジタルによりゆるやかな「つながり」を創出し、住民同士が負担なく連携できる自治会づくりが始まっている。
このようにデジタルは様々な人とつながる要素を有している一方で、前述のように個人志向の偏重による「分断」を生み出す要素も併せ持つという二面性があり、その使い方によっては、自治会といったリアルなコミュニティを補完するツールにも、(コミュニティの)希薄性を増長させるものにもなるだろう。
今後、つながりの創出を生み出すツールとしての効用を維持するためには、「信頼」が不可欠な要素となることが考えられる。どんなにデジタライゼーションが進んでも、発信者やデータ、イベントといったヒトやモノ、コトが信頼でつながらない限り、コミュニティの改善には至らない。デジタルの使い方、その後の信頼構築がコミュニティの深化の分かれ目となるのではないだろうか。
おわりに
これからの人口減少社会において、先に触れたように労働力の減少や地域の担い手不足が懸念されている。地方都市では人口減少に伴う経済や産業の縮小で税収入は減少し、他方で高齢化の進行から社会保障費は増加の一途を辿っている。さらに公共施設や道路、上下水道、橋梁などのインフラ設備が老朽化し対応を迫られ、このままでは税収不足とインフラ維持への負担増でこれまで実施されてきた行政サービスの低下や廃止の恐れも否定できない。
現在のサービスを持続させるためには、様々な形での「地域での協働」が必要であり、そのための「多様性を活かしたまちづくり」による「住み心地の良さ」を住民が自らが創出していくしかないだろう。
すでに待ったなしの状況にまで追い込まれている「地域」について、個人が危機意識を高めながら、自治会など既存の組織で多様性を受け入れ、時にはリアルとデジタルを融合させながら、それぞれの地域にあった「住み心地の良さ」づくりを進めていくべきではないだろうか。
〈参考〉
市川三郷町「財政非常事態宣言」
財政非常事態宣言 (town.ichikawamisato.yamanashi.jp)
リクルートワークス研究所「未来予測2040」
https://www.works-i.com/research/works-report/2023/forecast2040.html
東京都「つながる町会!デジタル活用コンテスト」
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/08/15/04.html
NHK(北海道室蘭市デジタル町内会)
https://www.nhk.or.jp/hokkaido/articles/slug-n2fee71bd96d2
[1] ワーキッシュアクト:本業の労働・仕事以外で何らかの報酬を得るために誰かの何かを担う性質がある活動のことを「ワーキッシュアクト」(Workish act)と名づけたもの。「Work-ish」:何か社会に対して機能・作用をしているっぽい、「act:(本業の仕事以外の)様々な活動」の2つの言葉で表現されている。