長寿祝い金の見直し
山梨日日新聞No.32【令和5年10月2日発行】
先ごろ、今年の敬老の日を迎えた。山梨県の人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、令和5年4月1日現在31.3%で、29.1%の全国より高齢化が5年進んでいると言われている (全国は総務省の人口推計、山梨県・市町村は県高齢者福祉基礎調査)。
こうした中、昨今取り上げられる話題が、いわゆる「長寿祝い金」である。この制度は、自治体によって多少差があるが、「高齢者の長寿を祝福し敬老精神の高揚を図り、老人福祉の増進に寄与する」、「長年にわたる地域社会の発展に対する功績を称え、もって地域社会福祉の増進に寄与する」といった目的で制定されており、昭和30年代の後半から始まった自治体が多いようである。
山梨県内ではすべての自治体で制定されており、内容は88歳の米寿をお祝いしてというケースがほとんどであるが、90歳であったり、77歳や99歳が加わる例もある。また、大半は該当した年齢で祝い金が支給されるが、年齢に達すると以降毎年支給される年金型もある。なお、100歳の百寿を迎えると、「長寿祝い金」とは別枠で10万円、30万円といった「特別な祝い金」を支給し、なかには100万円支給する自治体もある。
この祝い金は、平均寿命が伸びていることから対象者は年々増え、支給総額も増加している。反面、支出している自治体の財政は社会保障費の増加等から次第に余裕がなくなり、「長寿祝い金」も支給年齢を引き上げたり、特に100歳の「特別な祝い金」の支給額を減額したりしているようである。ちなみに、粗い推定であるが、県内全体では対象者が約9千人、支給総額が約9千万円で、事務コストなども含めると、1億1千万円程度かかっていると想定される(配付の人件費等は含まず)。
今後も高齢者人口は増え続けることを勘案すると、自治体財政への負担もさらに高まることが想定される。こうした状況を回避するためには一層の支給年齢の引き上げ、支給金額の引き下げが必須であるが、子育て支援の充実を念頭に、「長寿祝い金」の在り方を思い切って廃止も含めて抜本的に検討してみたらどうだろうか。
なぜ今年度の支給がほぼ終了したこの時期にこのような問題提起をするのか、と言われる方もいらっしゃるであろう。それは、世代間で利害が相反する事柄であり、時間をかけて合意を得たうえで実施すべき改革だと考えるからである。
少子化が止まらない中で、子育て支援を充実させることには異論はないであろう。一方、廃止も視野に入れた「長寿祝い金」の在り方を検討することについては、敬老精神に反する、支給を心待ちにしている高齢者がいる、といった反対意見も想定される。財政状況が厳しくなるなかでお金をどう有効に使うか、各世代が一堂に会し、納得するまで話し合うことが合意に達するカギとなろう。
高齢者を敬うことは当然であるが、大半の自治体が支給基準としている88歳は女性の平均寿命とほぼ同じである。その意味では、いまや長寿とは言えない年齢を祝うことが現代に意味のある事業であるかどうか、もっと当事者に望まれる効果的な取り組みがないか、自治体の将来を考える身近な事例として、来年に向けて議論を始めてみてはどうだろうか。
(公益財団法 人山梨総合研究所 専務理事 村田 俊也)