山梨における豊かさ共創
毎日新聞No.648【令和5年10月15日発行】
豊かさが注目される今日において、山梨県は昨年5月「豊かさ共創会議」を立ち上げた。企業収益と労働環境の向上の持続的な循環関係の構築に向けて、労働団体、経済団体、教育機関、行政などの代表が一堂に会し、課題解決に向けた具体策について議論を交わし、コンセンサスの形成を目指していくことを目的としている。
第1回目の会議では、多摩大学大学院名誉教授である田坂広志氏による基調講演が行われた。演題は「山梨キャリアアップ・ユニバーシティ構想の推進を~」であり、リスキリングを通じて働く人の能力開発を行い、企業の収益向上と労働者の賃金向上の好循環を生み出すことが提言された。
キャリアアップ・ユニバーシティ(CUU)とは一般的な大学ではなく、地域で働く社会人を対象に、時代の変化に対応した「新たな知識やスキル」を身に付けることを目的とした学びの場である。
山梨県が目指す姿は、働き手のスキルアップが企業に生産性向上と収益をもたらし、その成果を賃上げにより働き手に還元するという好循環サイクルの実現である。スキル・収益・賃金の3つのアップを目指す取り組みであることから、このサイクルを「スリーアップ」と名付け、スリーアップ宣言をした企業に対して、CUUにより学びの場を提供するという仕組みである。
そして、このCUU実現への取り組みがいよいよ始まった。山梨県は先月、CUUの運営方針決定という重要な役割を担う「豊かさ共創フォーラム」を開催した。このフォーラムでは、①リスキリングはその企業の経営戦略として行うべきである、②スリーアップ宣言は、経営者だけでなく労使の合意で行われるべきである、③CUUの価値や必要性を十分理解し、積極的に利用しようとする経営者の意識が重要である、④そのような意識が高くない経営者には、そのための講座、もしくは伴走支援が必要である、⑤労働者側の参加動機も重要である、などの議論が行われた。
今後は、このフォーラムの下部組織として、基盤構築検証ワーキンググループ(WG)、講座認定WG、広報戦略WGが設置され、それぞれ具体的な方向性が議論される予定である。また、講座の開講にあたり、事業者としてNTTDXパートナーズが選ばれ、山梨総合研究所も協働していく。
今年度中に3講座が開講され、来年度には本格的にCUUが始動する予定である。山梨県における豊かさ共創、今後に期待したい。
(公益財団法人 山梨総合研究所 理事長 今井 久)