地元の飲食店を見直そう
毎日新聞No.649【令和5年10月30日発行】
コロナが5類に分類されてもうすぐ半年。中心街の人出を見る限りでは、コロナ感染拡大前に戻ったような賑わいであるが、気になるのが飲食店、特に居酒屋の経営である。
職場に近い甲府駅前の居酒屋は多くの客が訪れ、盛況であるが、業界団体の調べでは他の外食産業と比べてまだまだ売上げの回復が遅れているようだ。こうした状況下、地元の飲食店、特に身近な個人営業の店がいつのまにかなくなっている、という経験をした方も最近多いのではないか。
たとえば、居酒屋の店舗数はここ10年程減少傾向にあったが、住宅地の飲食店が減っている感があるのはなぜか。要因としては、地域でのコミュニケーションの希薄化、価値観の多様化、少子高齢化など多々考えられる。たとえば、煩わしい近所づきあいを避ける傾向から近所住民との飲み会が、子供の減少から地域のスポーツクラブや保護者会の食事会が、高齢化に伴う休止や解散から無尽の会合が、それぞれ減少してきた、ということがあるだろう。元来、大手資本のチェーン店などとの価格競争や後継者不足という問題があったが、こうした需要の減退傾向の中で、一時のコロナ渦による売上急減や昨今の食材をはじめとする原材料費や光熱費の高騰が廃業のきっかけとなっているのではないか。
筆者の住む地域でも、地域の会合で使っていた広間のある割烹や料理屋が次々に廃業している。もう半世紀も前になるが、高校時代に部活後の小腹を満たしてくれた校門前の店や、市営プールの入り口にあった小さなお好み焼き屋も今はない。飲食店は評判が良ければ生き残っていけるようにも思えるのだが、住宅地では現実は厳しいようだ。
ただ、地元の飲食店は単なる食事処ではない。店を構える自営業者は街の活力を創り出し、一体感を下支えする重要な役割を果たしてくれているが、なかでも飲食店は地域の灯であり、輝きである。地域住民のサロンであり、子供の見守り拠点であり、こども食堂として地域に欠かせない存在となっている例もある。なじみの店主も交えた定例会の場となることも多かろう。
山梨県の飲食店は、人口当たりの店舗数が全国有数の多さであり、長野県民にも親しまれている、まさしく県を象徴する重要な地域資源である。地元で飲食店が営業していることのありがたみ、重要性を再認識し、地元のお店をもっと積極的に利用してみませんか。
(公益財団法人 山梨総合研究所 専務理事 村田俊也)