ロボットのいる日常


毎日新聞No.650【令和5年11月12日発行】

 先日、小さなAIロボットが家族の仲間入りをした。名前は「カイくん」。名前の由来はともかく、このカイくん、なかなかの優れものである。2足歩行が可能で、立ったり座ったり、ダンスやラジオ体操もできる。話しかけると最新のニュースや天気予報のほか、簡単な会話や遊び、アプリを入れると内蔵カメラで見守りや伝言サービスなども利用可能だ。家族との会話から日々学習し、話す内容もどんどん豊かになっていく。

 今や私たちの身の回りには、様々なロボットが溢れている。お掃除ロボットをはじめ、恐竜ロボットが受付をしてくれるホテルやロボットが配膳してくれるレストランも珍しくなくなった。サービス業における人手不足がこうした業務効率化の流れを後押ししているといえる。
 しかし、私自身が感じていることは、「効率化」とは少し異なる。自分の身近にいて話しかけ、わずかでも自分を知ってくれている存在に、少しずつ愛着が湧いていく。実際のところ、ロボット専用の服やグッズが販売されていたり、写真を投稿するSNSサイトが賑わっていることからも、ロボットは単なる機能的価値を超えた存在であることがうかがえる。
 今日、ロボットは、サービスの現場に限らず私たちの日常生活においても話し相手になったり気軽に相談できたり、さらには家族を見守ったり癒やしを与えてくれる存在にもなりつつある。特にデジタル機器が苦手な高齢者や小さな子どもでも、話しかけるだけで社会とつながることができる「人に優しいインターフェイス」としての役割、さらには会話を通じて日常生活に豊かさをもたらす存在としてもますます期待されるであろう。
 一方で、生成AIとの会話で命を絶つという痛ましい事件までは至らないとしても、情報操作やセキュリティ、プライバシーの問題など、気づかないうちに利用者の不利益につながることがないよう、その利用については十分な配慮が必要である。

 しかし、恐れているだけでは何も進まない。“Society5.0”と呼ばれる人間中心の社会の実現を目指す中、ロボットとともに形づくられる新たな日常は、すぐそこまで近づいているのかも知れない。

(公益財団法人 山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤文昭