1人でもできる支援


山梨日日新聞No.35【令和5年11月20日発行】

 昭和45年から続いている戦国武将の武田信玄をしのぶ「信玄公祭り」は、新型コロナウイルスによる中止などを乗り越えて、今年で50回目を迎えた。節目となる祭りは盛大に開催され、この期間中に会場を訪れた人数は235千人と、これまでで最も多かった令和4年の178千人を大きく上回り、過去最多を更新した祭りとなった。また、信玄公祭りだけでなく、神明の花火大会や富士吉田市の火祭りなど、県内各地で開催される大規模なイベントはいずれも賑わいが戻ってきている。
 県が発表した県内観光客数調査によると、2022年に県内を訪れた観光客は2,7384千人で、現在の方法で調査を始めた11年以降では5番目に少なかったとはいえ、前年と比べて約1.5倍に増えた。2023年はこれまで以上の賑わいを見せていることから、今年の結果がどう出るか楽しみである。

 コロナ禍を乗り越え開催したイベントは、住民や観光客に活気を与え、地域の活性化が期待できるが、開催に至るまでの関係者による並々ならぬ苦労や努力があったからこそできたものであろう。というのも、共同通信の調査によると、今年、全国で25もの花火大会が中止になっている。主な理由は、物価高により経費が膨張したことや、新型コロナの影響で協賛金を集めにくくなった上、行政の補助金も減る傾向にあることによる資金難である。こうしたイベントには多額の経費が必要であるが、行政の補助金と民間からの協賛金や寄付金で運営している場合が多いことから、資金をどう確保するかが課題となっている。8月に神明の花火大会を開催した市川三郷町でも、9月に「財政非常事態宣言」を発出した。それにより、35回続いた神明の花火大会がどうなっていくか、今後の行方が気になる。
 しかし、資金難に陥ったとしても、様々な支援によって開催できた事例もある。例えば、2017年に行われた第69回鎌倉花火大会は、市からの補助金が打ち切られ一度は中止が決まったが、「毎年見られた光景をなくしてはいけない」「あの夏の風物詩を今年もどうか開催できないか」といった声が老若男女を問わず上がっていた。そのことに可能性を感じた有志団体が動き出し、クラウドファンディングを実施したところ、呼びかけから1ヶ月という短期間で目標金額を上回る1,132万円の資金調達に成功し、無事花火大会を開催することができた。他にも、ふるさと納税を活用するなど、従来とは違う様々な手法を用いて資金を集め開催している事例が増えている。

 これまで行政や企業が頼りだった支援が、今や住民や観光客1人ひとりも参加できるように変わってきている。来場者として楽しむだけではなく、自分もイベントに関わる一員として、微力でも支援をすることでより愛着がわき、さらにイベントを楽しむことができる。一方で運営側は、これまで以上に多くの方から共感を得られ、支援をしてもらえるようなイベントの開催方法や内容を考えるとともに、イベント自体の価値を高めていくことが、今後の運営の鍵となるだろう。「塵も積もれば山となる」のとおり、1人ひとりの小さな支援が、大きな支援へとつながっている。自身の気になる地域に関わりを持ったり、イベントをより楽しんだりするために、1人でもできる小さな支援から始めてみてはいかがだろうか。

(公益財団法 人山梨総合研究所 研究員 藤原 佑樹)