#甲府にチカラを


毎日新聞No.651【令和5年11月26日発行】

 サッカーのAFC(アジアサッカー連盟)アジアチャンピオンズリーグ(ACL)を戦っているJ2のヴァンフォーレ甲府。ACLでの甲府の「ホーム」は東京・国立競技場だ。
 本来の本拠地であるJITリサイクルインクスタジアム(小瀬)はAFCが定めるスタジアムの基準を満たしておらず、国立競技場をホームとして申請したためだ。
 平日の開催でもあり集客の懸念がある中で迎えた10月4日のホーム初戦。小瀬から約100㎞離れた国立競技場には1万1,802人の観客が詰めかけた。これは、甲府が今季のリーグ戦で小瀬に収容した最多観客数の1万1,643人を上回る。

 会場では見たことのない光景に驚かされた。様々なJクラブユニフォームのサポーターたちが応援に駆けつけてくれていたのだ。千葉、長野、岡山…、色とりどりのユニフォームが入り乱れ、「J2の誇り」と書いた横断幕を掲げる人、応援歌を一緒に歌う人-。試合後には勝利を喜び合うハイタッチ会が自然発生した。
 発端は、甲府が「Jサポに告ぐ、#甲府にチカラを」と呼び掛ける巨大ポスターを新宿駅と渋谷駅に掲示し、SNSで拡散されたことだった。地元開催ができないハンデを逆手にとり、サッカーファンを国立競技場にいざなったのだ。
 自分が応援するクラブのユニフォームを着て、アジアの強豪と戦うJ2クラブを応援する。これまでにないムーブメントは118日のホーム2戦目・浙江戦でも盛り上がりを見せた。ゴール裏の一角に少しずつJサポが集まり、あっという間にJサポ応援団ができた。来場者はホーム初戦を超える12,256人に。筆者の前方では松本山雅FCユニフォーム姿の男性が甲府サポーターと交流を深める。試合前にはスタッフが、快勝後には選手たちもJサポ応援団に感謝を表し、サポーター同士はホーム初戦同様、共に勝利を喜び合い、何ともいえない一体感が生まれていた。
 「#甲府にチカラを」与えたのは、会場に駆けつけたJサポだけではない。JR甲府駅の改札では、電光掲示板に「がんばれヴァンフォーレ甲府 アジアの『頂』に向けて出発進行」と応援に出向く人々を温かく送り出し、終了後には勝利を共に祝うメッセージで迎え入れた。29日に国立で行われるメルボルン戦のチケットは、グループリーグ突破の期待もあり席種によっては発売日に完売したという。

 ホームゲームを本拠地でできない弱みを、他との一体感を生み出し強みに変えたこのチームの底力。人口減少にあえぐ今、「関係人口」の解の一つを見た気がしている。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒