Vol.304 ふるさと納税のあり方


公益財団法人 山梨総合研究所
研究員 藤原 佑樹

1. はじめに

 2008年に税制を通じてふるさとへ貢献する仕組みとして開始したふるさと納税は、令和4年度に受入額9,654億円、受入件数5,184万件と、3年連続でこれまでの最高記録を更新した。制度が始まってから約15年経過した今、ふるさと納税は地方自治体の財源確保や地域活性化のために重要な役割を担う制度となった。一方で、返礼品の過剰競争による地域格差の拡大や、返礼品調達のための事務費用等経費の増加、寄付金よりも控除額が大きくなる流出超により、自治体の財政状況を悪化させてしまうことが起きている。ふるさと納税は本当の意味で、ふるさとのためになっているのだろうか。これまでの経緯と現状を振り返り、今後のあるべきふるさと納税について考えていきたい。

 

2.ふるさと納税とは

(1)ふるさと納税の仕組み

 日本では多くの人が地方をふるさととして生まれ、その自治体から医療や教育等様々な住民サービスを受けて育っていく。やがて、進学や就職を機に生活の場を都会に移し、そこで行政サービスを受けるため都市部の自治体へ納税している。その結果、都会の自治体は税収を得るが、自分が生まれ育ったふるさとの自治体には税金が入らない。そこで、「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた『ふるさと』に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」といった問題提起から数多くの議論や検討を経て生まれたのがふるさと納税制度である。
 総務省によると、ふるさと納税には以下の3つの大きな意義がある。

  1. 納税者が寄付先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること
  2. 生れ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること
  3. 自治体が国民にふるさと納税の取組をアピールすることで自治体間の競争が進み、地域のあり方をあらためて考えるきっかけになること

  つまり、このふるさと納税制度は、「生まれ育ったふるさとに貢献できる制度」及び「自分の意思で応援したい自治体を選ぶことができる制度」として創設され、自分の生まれ育ったふるさとに限らず、どの自治体に対してもふるさと納税を行うことができる。また、「納税」という言葉がついているが、実際には都道府県や市区町村への「寄附」という扱いであり、それぞれの自治体が持つふるさと納税に対する考え方や、寄附金の使い道等を比較した上で、個人が応援したい自治体を選び、寄付をすることができる仕組みとなっている。
 具体的な制度の内容をみると、通常、自分の住んでいる地域に対して納税をしているが、ふるさと納税の場合、応援したい地域に対して寄付をすることで、寄付額の2,000円を超える部分について、自分の住んでいる地域から翌年の住民税や所得税の控除を受けることができる(一定の上限あり)。さらに、寄付金の使い道を指定できる場合があることや、ふるさと納税を受けた地域から寄付額の3割以内で、地域の名産品などを御礼の品として受けることができる。また、納税先にもよるが、ふるさと納税の募集に際して使途を選択することで、納税者のお金がどのように使用されるかを考えるきっかけにもつながっている。

 

図表1 ふるさと納税の仕組み

出典:ふるさとチョイス

 

(2)ふるさと納税の歴史とこれまでの実績

 ふるさと納税が開始された2008(平成20)年当初はまだ知名度は低く、図表2のとおり2012(平成24年)までは1億円程度でほぼ横ばいとなっていた。この頃はまだ返礼品の概念はなく、寄付の御礼として粗品を送る程度であった。
 ふるさと納税が最初に注目されたのは、2011年の東日本大震災以降である。ボランティアでも募金でもない新しい震災支援としてふるさと納税が利用されたことで、ふるさとだけでなく、応援・支援したい自治体に寄付する傾向が強くなり、利用者が増えていった。
 2014(平成26)年には、長崎県平戸市が全国で初めて自治体単独での寄付金額10億円を突破し、最終的には146千万円を集め、全国1位となった。きっかけとなったのは、20138月に返礼品の情報を「ふるさと納税特典カタログ」として冊子化し、さらに民間ポータルサイトでPRを行ったことであった。加えて、ポイント制度の導入も寄付者の心をつかんだ。
 多くの自治体では、寄付者が先に自分がほしい返礼品を選び、それを受け取るために必要な寄付金を支払う仕組みとなっているが、平戸市では、寄付した金額に応じてポイントが付与され、寄付者がそのポイントを使って、カタログに掲載されている特典の中から好きなものを選んで注文できるようにした。ポイントは寄付するたびに付与される上、有効期限がない[1]ため、寄付者は自分の都合に合わせ、好きなときに好きな額を寄付し、ポイントを貯めて、後からじっくり返礼品を選ぶことができる。その結果、寄付件数が大幅に増加した。
 2015(平成27)年には税制改革が実施され、ふるさと納税制度の拡充が行われたことで、一層注目を浴び急成長をした。改正内容の概要は、以下の二点である。

  • ふるさと納税による控除額を2倍に拡充し、従来の2倍の価値の返礼品がもらえるようになったこと
  • 確定申告の不要な給与所得者等がふるさと納税を行う場合、確定申告を行わなくてもふるさと納税の寄附金控除を受けられる仕組みとなり、利用しやすい制度になったこと(ふるさと納税ワンストップ特例制度の創設)

 寄付者のハードルを大きく下げたこの制度改正は、利用者を急増させた。参入する自治体が増える中、競争に乗り遅れまいと換金性の高いプリペイドカードやギフト券、高額もしくは返礼割合の高い返礼品を提供する自治体が多額の寄付金を集めるようになり、民間ポータルサイトの相次ぐ参入もあって、自治体間の返礼品競争は加速した。この状況を鑑み、総務省は2016年以降、金銭類似性の高いもの(プリペイドカード等)は自粛すること、返礼割合を3割以下にすること、返礼品は地場産品に限る等といった通知を発出し、返礼品競争に歯止めをかけようとしたが、それでも歯止めがかからなかったことにより、2019(平成31)年に改正地方税法を施行した。ふるさと納税を取り扱う自治体を事前審査制にし、返礼品を送付する場合は、返礼割合を3割以下の地場産品とすることとされた。この規制により、「ふるさと納税の返礼品=地域の特産品」というイメージが定着した。
 図表2で示すとおり、平成30年度から令和元年度のふるさと納税の受入額及び受入件数は横ばいの推移であったが、令和2年度に新型コロナウイルス感染拡大の影響による巣篭もり消費をきっかけに、利用者が再び増加した。以降拡大を続け、令和4年度は過去最高の受入額9,654億円、受入件数5,184万件となり、一兆円に近い規模の市場へと成長した。

 

図表2 ふるさと納税の受入額及び受入件数の推移(全国計)

出典:総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)

 

 一方、これだけの市場規模となったふるさと納税は、一体何に使われているのだろうか。ふるさと納税で集まった寄付の使途は、図表3のように、教育・子育て、まちづくり・スポーツ、文化・歴史、福祉や地域産業など、各自治体によって多種多様な分野の支援に役立てられている。例えば、ふるさと納税受入額全国1位である宮崎県都城市では、保育料の完全無料化や出産・子育て応援事業といった子育て支援や、地域完結型の医療体制を構築するため、心臓・脳血管センター整備に対する支援などにふるさと納税が充てられている。他にも、山梨県では森林や富士山の保全といった環境美化の取組や、岩手県では東日本大震災からの復興に向けた鉄道の活性化に活用されている。

 

図表3 ふるさと納税の使用用途一覧

出典:総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)

 

 

3.ふるさと納税で起きている問題

 ここまで、ふるさと納税の輝かしい実績をみてきたが、その裏では目を背けてはいけない以下の課題が起きている。

 (1)返礼品競争による地域格差および流出超

 返礼品の魅力が高い自治体に寄付が集中するため、こうした商品を扱う地場産業が存在する地域は有利に寄付を集めることができ、逆に存在しない地域にとっては寄付金を集めにくい現状がある。
 こうした状況から、ふるさと納税は自治体間の競争を図ることを目的としていたが、返礼品競争が過熱し、地域の格差が顕著に出てしまっている。図表4のとおり、北海道や宮崎県ではふるさと納税の受入額や受入件数が特に多い一方、富山県や徳島県など、受入金額や受入件数が極端に少ない都道府県もある。その差は最大で1,430億円、件数では850万件となっており、あまりにも大きな格差が出ていることがわかる。

 

図表4 ふるさと納税の受入額及び受入件数(都道府県別)※都道府県分と市区町村分の合計

出典:総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)

 

 また、ふるさと納税は本来住んでいる市町村に払う税を希望する都道府県や市町村に支払い、住んでいる市町村から控除を受けるため、住んでいる市町村からすると税収が減ることにつながる。図表5のとおり、横浜市では272億円もの税収が外に流出してしまっている。人口が集中している都会の税収を、地方のふるさとに分配する仕組みであったが、都会の税収が流出しすぎてしまっている現状がある。
 ふるさと納税によって税が減少した地域に対しては、流出した税の補填分として、前年度の75%が地方交付税で補填されているが、独自の税収で財政運営できると国から判断された東京都や23特別区、川崎市といった都市部の不交付団体については、流出分はそのまま減収となっている。つまり、地方交付税の不交付団体は本来あるべきはずの税収が減少するため、住民に対しての福祉や公共サービスを削減せざるをえない可能性がある。

 

図表5 令和5年度課税における市町村民税控除額の多い20団体

出典:総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)

 

 さらに、ふるさと納税の寄付を集めるため、PRや返礼品の調達に力を入れるほど、自治体職員の人件費や事務費用等が必要となり、自治体への負担が大きくなっていく。図表6をみると、ふるさと納税の募集に要した費用として、受入額の46.8%がかかっている実態があり、寄付を集めたとしても、税収が減った分やかかった経費を差し引くと、赤字になっている自治体もある。このように、ふるさと納税で寄付を集めたい自治体が結果的に赤字になってしまい、応援されているはずの自治体の財政が悪化してしまっているケースもある。 

  

図表6 令和5年度ふるさと納税の募集に要した費用 

出典:総務省 ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)

  

(2)地域を応援するという趣旨の希薄化

「地域を応援する」ための寄付のはずが、返礼品競争の結果、「返礼品を受けたい」がための寄付になってしまい、制度の本来の趣旨から外れてしまっている。ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を企画・運営する株式会社トラストバンクが行った「ふるさと納税に関する意識調査2022」によると、ふるさと納税を利用した理由は、「お礼の品がもらえるから」が70.0%、「住民税が控除されるから」が60.3%と、利用者の多くは返礼品や節税のために利用していることがわかった。「税金の使い方を自分で選べるから」は23.2%、「自分や家族の生まれ故郷に貢献・恩返しができるから」は11.0%と、ふるさと納税制度の本来の趣旨に沿って活用している人は少ないことがわかる。

 

図表7 ふるさと納税制度を利用した理由

出典:株式会社トラストバンク 「ふるさと納税に関する意識調査2022」

 

(3)富裕層への優遇

 現行のふるさと納税の制度では、年収や家族構成などによって寄付できる上限額が決まっている。控除額は所得が増えるほど高くなり上限額も上がるため、富裕層ほどより高価な返礼品を受け取ることができる。一方、非課税世帯はふるさと納税に参加することができず、ふるさと納税の恩恵を受けることができない制度となっている。
 例えば、年収400万円の独身者または共働きの方であれば、控除上限額の42,000円まで寄付ができ、2,000円を除いた40,000円分が、所得税や住民税から還付・控除される。一方で、年収600万円の独身者または共働きの方であれば、控除上限額の77,000円まで寄付ができ、2,000円を除いた75,000円分が、所得税や住民税から還付・控除されることとなり、年収600万円の人の方が、35,000円分多くふるさと納税で寄付をすることができる。図表8からわかるように、所得が大きければ大きいほど、控除を受けられる金額が大きくなるため、富裕層ほどふるさと納税の恩恵を受けられることがわかる。

 

図表8 ふるさと納税上限額計算表一覧

出典:ふるさとチョイス

 

4.まとめ:これからのふるさと納税のあるべき姿とは

 ふるさと納税は、これまで育ててくれた「ふるさとへの感謝」や、「地域を応援する」という意味合いで始まった制度である。だが、感謝の気持ちを示すための返礼品競争が過熱し、「返礼品をもらいたいための寄付」となってしまったことで、本来の目的の寄付とは違ったものになってしまっている。
 ふるさと納税の制度自体は悪いものではない。むしろ、ふるさと納税が自治体競争を促すことで、自治体は寄付をどう集めるか工夫するとともに、地域のことを見つめ直す機会として考えることで、地域の魅力を高めるきっかけになる。ふるさと納税の返礼品も、地域の商品をPRするきっかけとしてうまく活用することで、地域の新たな特産品を生み出す可能性も秘めている。一方で納税者は、自分たちの税がどう使われるかを考えることで、納税者の税に対する意識を考え直すきっかけになるとともに、応援したいもしくは縁のある地域にふるさと納税をすることで、その地域を知るきっかけとなり、愛着がわくことでその地域への観光や移住も考える人がでてくる可能性もある。
 問題なのは、その影響が大きすぎたことだろう。これまでも返礼品を寄付額の3割とする制限も行ってきたが、それでもふるさと納税は成長を続け、1兆円近い規模にまで成長している。それだけ国民に興味を持ってもらえたという結果ではあるが、寄付先として選ばれない地域は税の流出が続き、近い将来、その地域の住民は公共サービスを十分に受けることができなくなってしまうのではないだろうか。一方で、寄付を十分に受けることができている地域においても、ふるさと納税が廃止される未来も見据えながら、ふるさと納税に依存しない、自治体の運営を考えていく必要があると感じている。
 また、富裕層への優遇の対策として、控除額を定率ではなく、段階に応じて定額に設定するのはどうだろうか。その結果、規模が縮小する可能性があるが、今となってはむしろ縮小した方がいいくらい規模は大きくなりすぎてしまっているため、深刻な税収減については、若干緩和されるのではないだろうか。
 加えて、寄付者はお気に入りの地域にのみ繰り返し寄付をするだけでなく、他の地域を調べてみてはいかがだろうか。自分の興味のある、趣旨に合った地域を見逃している可能性もある。他の自治体にも興味を持ってもらえるような工夫も検討の余地があろう。
 ここまでふるさと納税について振り返ってみたが、今一度初心に帰り、ふるさと納税の本来の目的は何だったのかを見返してみてはいかがだろうか。魅力ある返礼品を持つ自治体が成長する一方で、持たない自治体が衰退してしまうことは避けたいことである。ふるさと納税をすることで、人々が税や様々な地域に関心を持ち、どの地域も自立した運営ができるようになることを期待したい。

 

〈出典〉


[1] 令和541日以降の寄附からポイントの有効期限は2年間に変更された。